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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第四章 自立を目指して

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 北の通り、高級店の立ち並ぶ店を歩く。求人は見当たらない。


 やっぱり厳しいかあ……。


 そもそも高級店が店先に求人票を張っているかも疑問だ。景観を損ねるという理由で。高級店で働くなら、人の紹介がないとだめかもしれないし。


 でもあきらめちゃダメよね。裏方の仕事なら任せてもらえるかもしれない。


 北通りをずっと歩いていると大きな建物、劇場が見えてきた。

 本当に立派な建物で高級感あふれている。今はどんな劇を上映しているのだろう。

 着飾った紳士や貴婦人が中に入っていくが、劇場は大盛況に思えた。


 そうだ。

 これだけの大きな劇場なら、なにか仕事があるはずよ。劇の後の衣装や道具の片付けや、掃除など。裏方でいいので、なにかしらあるはず。


 求人を探して回るのじゃなく、直接聞けばいいんじゃないのかしら?

 そりゃ恥ずかしくて勇気がいるが、背に腹は代えられない。

 賃金を稼がなければ、路頭に迷うのだから。


 とにかく、お金が底をつき、メイデス家に戻ることだけは避けたい。

 両親と義兄の顔を思い浮かべると、なんでもできる気がしてきた。そうよ、私には最終選択肢として、もみもみ亭があるじゃない。もちろん、表には出ずに、裏方を希望する。


 あそこで働くのが最後の手段だが、最後のあてがあるのとないのでは、心の支えが違う。

 なんとしてでも、この街で仕事を見つけてやる。再び意気込んで、劇場の中に入ることにした。


 入口ではチケットを売っている女性がいた。


「あの、すみません」

「はい、なんでしょう」

「不躾な質問で申し訳ないのですが、ここで仕事を募集していないでしょうか。雑用でも裏方でも構いませんので」


 女性は少し考えた顔をした。


「私ではわかりませんが、今日はちょうど支配人がいらっしゃっているので、確認してきましょうか?」

「はい、お願いします!!」


 なんて親切な女性だ。ぜひともお願いしたい。


「ちょっと待っててくださいね」


 女性は立ち上がると、チケット売り場の後方の扉を開けて中に入っていった。


 どうかいい返事がいただけますように。祈る思いで女性が帰ってくるのを待っていた。

 やがて十分ほどして女性が戻ってきた。


「どうでしたか?」


 緊張しながらたずねると、女性は少し困った顔をした。その表情を見ただけでわかってしまった。


「ごめんなさいね、今は募集していないみたいなの。先週だったら、裏方で募集かけていたのだけど、もう決まってしまったみたいで」

「そうなのですか……」


 一気に表情が暗くなる。女性も曇った表情を私に向けた。


「お力になれずにごめんなさいね」

「いえ、ありがとうございます。確認していただき、助かりました」


 女性に感謝の気持ちを伝える。

 仕方がない、他を探すしかない。次にいくわ、次。

 その後、女性にお礼を言い、劇場を出た。


 次はどこへ行こうかしら。

 返答を聞くまでの間、ずっと緊張しっぱなしで待っていたから、気疲れした。


 とりあえず、少し休もうか。

 私は劇場を出てぐるっと回り、劇場の裏口の方で座れるベンチを見つけた。


 あそこで少し休もう。


 木造りのベンチに腰を下ろして、劇場の建物を見上げる。すごく大きいが、建築費がかかっただろうな。ロンバルディ家にいる時、候補者たちがこの劇場について、よく話題にしていたっけ。


 なんでも中は広く、それこそ一番ビップなロイヤルボックス席は小さな家が一つ買えてしまうほどの値段がするのだとか。誰が買うんだ、そんな席。世の中には信じられないぐらいのお金持ちも存在するらしい。


 ロイヤルボックス席から鑑賞すると、視覚的にも音響的にも最高なのだろうな。その分お値段も跳ね上がる。一方、比較的リーズナブルで気軽に鑑賞できる席もある。


 まあ、すごく遠い席なのだろうけれど、こちらは庶民の給料のおよそ半月分だとか。この日の為にお金を貯めて、鑑賞を楽しみにしている人もいるそうだ。


 いいなぁ、私もいつか鑑賞してみたい。それこそ生活が落ち着き、少し余裕ができたら、そんな日がくるのかしら。


 ボーッと裏口を見ていると誰かが出てきたことに気づく。身なりは良く、お金持ちの紳士に見えたが、なぜ裏口から出てきたのだろう。ジッと見ていると、相手とバチッと目が合った。


 あっ、いけない。

 慌てて逸らすも、相手はまだジーッと私を見ていた。


 まるで穴が開くんじゃないかと思うほど、凝視されている。

 えっ、誰か知り合いかしら。だがあいにく、知った顔ではなかった。


 そうこうしていると相手が近づいてきた。

 えっ、なになに!? 軽く恐怖なんですけど。


 緊張で身を固くしている私の前に紳士はやってきた。そして口を開く。


「失礼。ここでなにを? 誰かと待ち合わせとか?」

「いっ……いえ、休んでいただけです」


 なんだろう、尋問されているような気持ちになる。


「君、お芝居とか興味ない?」

「はい?」


 唐突にされた質問。空耳かと思い、聞き返す。


「私はこの劇場の総支配人をやっている、セバス・ドリューというのだが」


 えっ、この方が支配人なの? 驚くけれど、清潔感のある身なりはお金持ちに見えたので、納得だ。


「君を見た時、インスピレーションがわいてね。どうだい? 劇に出てみないかい?」


 私が劇? そんな上手い話があるというの?

 怪しむ気持ちを払拭できず、目をパチパチと瞬かせた。


「そう多くはないが、お給金も出そう」

「やります!!」


 その一言を聞き、迷わず手を挙げて立ち上がる。

 紳士は私の勢いにたじろぎながらも笑った。


「劇は時間が不規則だから、できればここに泊まりこんで欲しいのだが。必要なら部屋を用意するけれど」

「ぜひ!!!!」


 私は前のめりになり、祈るようなポーズを取った。

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