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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第三章 クビ宣告

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 会場の片付けが終わり、あとはモップをかけて終わりだ。

 バケツに水を汲み、一生懸命モップをかけていると、ドンッと背中に衝撃を受けた。


「邪魔よ」


 ターラを中心に同僚が三人集まり、こっちを見てクスクスと笑っている。


 あ~あ、また始まったか。

 私は小さくため息をついた。


 先日からターラを筆頭に、この同僚三人組には目をつけられている。最初はこそこそと、なにか言っているなーという感じだったが、最近では直接手を出してきて、エスカレートしてきている。


 私の態度が変わらないものだから、面白くないのだろう。

 でもさすがに私もいつまでも黙っているのは、しゃくだわ。


「ここはもうすぐ終わるから、私がモップをかけるわ」


 他の持ち場へ行っていいと暗に告げる。


「まあ、いい子ぶって。真面目なのね」

「本当に。だからこそ、ゼロニス様に取り入ったのでしょうね」

「生意気よね」


 三人組が真正面から文句を言ってくるが、面倒なことになった。

 反論もせず、じっと見ているとモップの柄で足つつかれた。


「ほら、さっさとやりなさいよ。まだ残っているわよ」

「痛っ」


 バランスを崩し、その場で転んでしまう。


「ほらほら、座ってないで。早く、早く」

「ちょっ、止めて!!」


 ターラは汚れたモップを、あろうことか私の顔に押し付けてきた。


 さすがにこれはやりすぎだ。勘弁ならない。

 残る二人はクスクスと笑って、加担してきた。立ち上がろうとしても三人がかりでモップで押さえつけられる。


「汚~い」

「本当、お似合いだわ」


 汚れたモップのせいで、服も汚れてビチャビチャだ。


「なにをするのよ」


 私はキッと気丈ににらむ。絶対、負けてやらないのだから。


 その時、水の弾ける音が聞こえると同時に、頭から全身がぐっしょりと濡れた。

 バケツの水を頭からかぶったのだ。


 嘘でしょう!? ここまでする!?


 私は全身濡れてしまったし、汚れた水だったので生臭い。


「あら、お似合いよ」


 ターラが空のバケツを手にして笑う。


 ひどい、なんて陰湿なことをするの。

 一人ならここまではしない。相手は三人だから余計に強気なのだ。

 こうなったらラリエット・メイデスの姿になって、三人をいじめぬいてやろうか!! 


 やられたらやり返す、それが私よ!!


 息まいて飛びかかろうと力を込めた。


「――なにをしているんだ」


 聞きなれた低い声が会場に響き渡り、ハッとした。フォルクが扉の脇に立っていた。


 彼がいるということは――


 目を見開くとフォルクの背後から音も出さずに、姿を現した人物がいた。


 ゼロニスだった。


 無言で目を細めると、ジロリと私をにらむ。


 え? 私がにらまれた。


 同僚三人は慌てて姿勢を正すと深々と頭を下げた。


「偉大なるゼロニス様にご挨拶を申し上げます」


 その手はブルブルと震えていた。


 ゼロニスの放つ威圧感にやられているのだろう。

 ゼロニスは興味もなさげに三人の挨拶を聞いていた。


 フッと私に視線を投げる。


 いけない、床に座っていないで、立ち上がらなきゃ。

 だが、モップでつつかれた体の所々が痛くて、顔をしかめた。

 無理やり立ち上がろうとする私を、ゼロニスはスッと手で制した。


 

 ゼロニスは私に近づくと真正面から私を見下ろし、美麗な顔に微笑を浮かべる。


「どぶネズミみたいだな」


 フッと笑ったゼロニスの発言に頬がカッとなる。なんて屈辱だ。好きでこんな格好になっているわけないじゃない。


 悔しくなって立場も忘れ、唇を噛みしめる。目の前の彼をギッとにらんだ。


 ゼロニスの発言により、同僚三人の空気が和らいだ。そしてよりによって笑い出した。ゼロニスが私をバカにしたことで、自分たちも私を見下していいと思ったのだろう。


 クスクスと忍び笑いが聞こえる。

 泥水に汚れ、床に這いつくばっている私の姿がそんなに楽しい?


 なんて嫌な奴ら。

 この場にいるのは、皆が敵だ。涙がにじみそうになるが、絶対泣くもんか。口端が切れそうなほど力を入れ、グッとこらえた。


「――お前たち」


 つと低い声が聞こえた。


 声の主はゼロニス。その声を発した瞬間、空気がぴりついた。


「なにを笑っているんだ」


 ゼロニスは同僚三人に問う。


「あっ……」


 同僚の顔色はみるみるうちに真っ青になる。


「誰が笑っていいと言った。それに、なにを見て笑った。――答えろ」


 不機嫌さと威圧感を全身から放つゼロニス。

 真正面からゼロニスの威圧感にあてられて、同僚三人は息をすることがやっとだろう。

 やがて声を絞り出した。


「も、申し訳ありません」


 謝罪するのが精いっぱいといった声が聞こえた。下手すれば命を取られると彼女たちは知っている。


「誰がやった」


 ゼロニスは顎でクイッと私を指した。

 同僚三人は答えることができず、肩を震わせるのみだ。

 やがてゼロニスがフウッと息を吐き出した。


「フォルク。低俗な行いを、今後は俺に見せるな」

「はい、申し訳ありません。教育いたします」


 ゼロニスは同僚たちをジロリとにらむ。


「出ていけ」


 たった一言、低い声で告げた。

 同僚たちは突然の解雇宣言に涙を流した。


「そんな……!! ゼロニス様、お許しください!!」

「申し訳ありませんでした、もう二度といたしません!!」

「どうか、どうかお許しください!!」


 三人揃って頭を下げる。

 ゼロニスは目を細めた。ああ、どうしよう、またゼロニスが不機嫌になっている。


「黙れ」


 するとそれまで事の成り行きを見守っていたフォルクが厳しい声を出す。


「ゼロニス様の決定に意を反するつもりか。ゼロニス様に醜い場面を見せた不敬、解雇だけで済んだことを光栄に思うがいい」


 日頃、柔和なイメージのフォルクが出すにしては厳しい声が響いた。

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