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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第三章 クビ宣告

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 だが、これ以上、この場で目立ちたくない。それに会場を見渡すと、我こそが次はゼロニスと踊りたいと意気込んでいる女性が大勢いる。

 この場でゼロニスを独占する勇気などない。


「いえ、私は――」


 遠慮しようとするとゼロニスの目が細められた。

 

 あっ、これは拒否しようとすると怖いやつ。

 本能的に悟った。だが、ここで女性たちから下手に目をつけられるのも困る。


「うっ……!!」


 急に腰を折り、お腹を抑えた。


「申し訳ありません。急な体調不良でして、失礼させていただきます」


 私はゼロニスに深々と頭を下げる。


 その後、ゼロニスの顔は見ることができなかった。――怖いから。


 その場を脱兎のごとく、逃げ出した。もはや、私が病人かどうか疑わしいほどの足の速さで。


 だが、ゼロニスとの接近はやばい。正体がばれたら、自分をだましていたと知ったら怒りだしそう。いや、だますつもりはなかったが、結果的にはだましていたことになるのか、これは。


 どちらにせよ、私の正体がばれたら、いい結果には転ばない。下手をすれば地面に転がる、私の首が。


 だからこそ、面倒なことになる前に、関わらないようにするのだ。

 ラリエット・メイデスはここにいる間だけの、仮の姿なのだから。


 だがゼロニスはなぜ、私をダンスの相手に選んだのだろう。婚約者を選出する場で、いつも気だるげにしていたのに、今回は真っすぐ私に向かってきた。


 それもなぜか機嫌は良かった気がする。

 迷いなく私を目指してきたゼロニス。


 もしかして、すでに気づいている……? 緊張で心臓がドキドキと音を出す。


 ふと窓を見れば、派手なドレスと化粧に身を包んだラリエット・メイデスの姿が視界に入る。

 くっきりと引かれたアイライナーに濃い目のアイメイク。真っ赤な紅をひき、ツンと上を向く唇。髪型も変えて、いつもよりずっと豪華に着飾った。


 大丈夫よね、どこを見てもラリーとは似ても似つかないじゃない。ゼロニスの態度は、たまたまだから。

 きっとお付きのフォルクに、誰か一人ぐらいと踊るように急かされたのだわ。

 私室に向かうため、長い廊下を歩いていると、ふと人影が視界に入る。


 あれは――


 メイドの同僚であるターラだった。


 舞踏会で使われた食器をカートで運んでいる。

 ターラは私の姿に気づくと廊下の端に寄る。頭を下げ、私が通り過ぎるのを待っている。


 そうだ、試してみよう。

 ドキドキしながら歩き、頭を下げるターラの前で立ち止まる。


「ちょっと、顔を上げて」


 声をかけるとターラは恐る恐る顔を上げた。


「はい、なんでございましょうか」


 ビクビクと震えた声を出す彼女は緊張しているのだろう。

 私は無言で彼女の前に立ち、ジッと見つめた。

 ターラは背筋を伸ばし私の視線を受け止める。心なしか、顔色が悪い。

 私はフッと微笑む。


「なんでもないわ。お仕事ご苦労様。引き止めて、ごめんなさいね」

「あ、はい」


 ホッとしたターラの声を聞きながら、私は背を向けて歩き出す。


 あああ、良かったよ――!! いつも顔を会わせているターラだって、やっぱり私だって気づいていないじゃない。

 やっぱり、私の変装メイクは誰にも見破られてはいないわ。女性は化粧をする分、男性よりもメイクした顔を見破りやすい気がするし。


 心配して損したわ。ゼロニスだって、そろそろ誰かとダンスを踊ろうと思った矢先、たまたま視界に入ったのが私だったのかもしれないじゃない。きっとそうだわ、今頃、別の誰かと踊っているでしょうね。

 私はすっかり自信を取り戻し、部屋に戻った。


 翌日、ラリーになって仕事に向かう。本日は舞踏会の片付けから始まった。

 広い会場では昨日の余韻が残っていた。さすがに料理は片付けられていたが、食器やテーブルなどはそのままになっていた。


「昨日はすごく盛り上がったみたいね」


 同僚たちがはしゃぎながら片付けを続ける。


「それが、ゼロニス様がダンスを踊られたそうよ」


 テーブルを拭いていた私の耳がピクリと反応した。


「珍しいわね。どうしたのかしら」


 そうか、私が早々に退室したあともゼロニスはダンスを踊ったのだな。やっと婚約者選出に重い腰を上げたのだろう。セリーヌとは踊ったのだろうか。


「それが一人の女性を自分から誘い、その方以外、踊らなかったそうよ」


 同僚の声に驚いて変な声が出そうになる。


 一人って、もしやその相手って……。


「えっ、どちらの令嬢かしら?」

「私も料理を運んでいた同僚に聞いただけから、直接はわからないわ」


 まずい、ゼロニスは私としか踊らなかったのだろうか。セリーヌは!? どうしたのだろう。

 目立ちたくないのに噂になるのは困る。ラリエット・メイデスの存在が人々から注目されては困るのだ。今みたいに自由に動けなくなったら、稼げなくなる。

 心臓がドクドクしているとメイド長から声をかけられた。


「はやくテーブルを片付けてちょうだい。次はモップをお願いね」

「はい」


 まずは仕事をこなそう。考えるのはそれからだ。


 私は悩みを吹き飛ばしたく、体を動かした。

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