表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第三章 クビ宣告

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/65

26

 ゲッ……!!


 反射的に視線をバッと逸らしてしまった。


 まさか私に気づいた? そんなわけないわよね。化粧だって濃いし髪型だって全然違う。

 そうよ、隣にいるセリーヌを見ていたのよね。きっと余計な心配だわ。


「ラ、ラリエット様……」


 セリーヌが震える声で、私のドレスの裾をツンツンと引っ張った。


「どうしたの?」


 振り返った私の視界に入ったのは、シャンデリアの輝きを背中に浴び、キラキラと輝く金の髪。晴れた空を思わせる青い瞳。


 全身から威圧感を放つ彼がそこに立っていた。


 嘘でしょう……!?


 思わず顔を引きつらせるとゼロニスの眉がピクリと動いた。


 あっ、いけない。慌てて取り繕い、深々と頭を下げた。


 なんでこんなところに来ているだろう。

 ああ、そうか、セリーヌを探しにきたのね。


 顔を上げるとセリーヌは距離を取ったところで見守っていた。セリーヌだけじゃない、周囲の皆が私たちを遠巻きに見ている。


 いったい、ゼロニスはなにをしたいのだろう。

 ごくりと喉を鳴らす私の前に、すっと手が出された。


「……え……」


 思わず声が出てしまった。


 私に? ゼロニスは無言で手を差し出している。

 キョロキョロと見回しても、私以外に人はいない。周囲が固唾をのんで見守る中、私は困惑する。


 え、これって私にだよね? どうしよう、セリーヌと間違っているんじゃないのかしら。

 躊躇していると、ゼロニスが差し出した手をズイッと前進させた。


 これは、あきらかに私にいっている。


 手を取れ、と。


 ここにきてようやく気付いた私は、恐る恐るその手を取った。

 触れた途端、グッと強く握りしめられた。その力の強さに驚いた。

 ゼロニスはフッと頬を緩めた。


 や、やけに上機嫌じゃないか。


 いったい、どうしたというのだろう。

 混乱している私の手を握りしめたままでいる。


 えっ、ちょ、待っ……。


 なんとゼロニスは膝を折り、私の手に口づけを落とした。


 ひょっぇええぇぇえ。


 周囲が唖然とする中、一番呆然としているのは、紛れもなく、この私だ。


 セ、セリーヌが見ているから!!


 視線をセリーヌに向けると両手で口を覆い、目を輝かせている。私と目が合うと微笑み、頑張ってください、と伝えてきた。口パクで。


 違う、頑張ってください、じゃねぇんだわぁぁ。


 えっ、ここはセリーヌ、あなたの役なのよ。悪役令嬢のラリエットじゃないわ。


 本来なら私は早々に物語から退場したはずなの。今回は大人しくしているから、どうか見過ごしてぇぇぇ。


 何を血迷っているゼロニス。貴様、近眼か。それもドのつくド近眼。 


 私が全身硬直させているとゼロニスはフッと微笑む。


「――踊るか」


 優しく微笑むゼロニスだが、こんな笑顔は見たことがない。


「はい」


 彼に逆らえるはずもなく小さく返事をし、手を握られたまま、中央に移動する。


 この会場で踊っているのは私たちの二人だけ。皆の視線を一心に浴びて、顔は強張っている。

 ふとゼロニスが私の手をジッと見ていることに気づく。


 あっ……。


 連日のメイドの仕事で手は荒れていた。しまった、手袋をしてくるべきだった。

 だがもう遅い。特に不思議に思われませんように。

 音楽に合わせてステップを踏み始めるが、乗り遅れないように必死だ。


 それにしてもゼロニスとくっつきすぎじゃないかしら。

 彼の厚い胸板が目前にある。それに爽やかなシトラスの香りがするが、これはゼロニスの香水だろう。いつも部屋はこの香りがしているもの……。


 手を強く握られ、距離の近さを認識し、落ち着かない。

 ゼロニスはさすがともいうべきか、表情が変わることなく、涼しい顔をしている。


「表情が硬い」


 ふとゼロニスから指摘される。でもしょうがないでしょ、緊張するなって方が無理だわ。


「申し訳ありません」


 謝罪するとゼロニスは口の端をニイッと上げた。


 あ、嫌な笑みだ。


 そう思った瞬間、早いステップへと変わる。


「わ、わっ……!!」


 思わずつんのめり、転びそうになった所を必死で耐えた。

 危ない、もう少しでゼロニスの足を踏むところだった。


 いきなりなにするんだ。

 思わずキッと顔を上げるとゼロニスは笑った。


「集中しろ」


 こっちが全神経を集中させて足を踏まないようにしているのに、なんて言いぐさだ。


「もう、わざとでしたら人が悪すぎます」


 ……あっ。


 私、ついいつものラリーの調子になり、言ってしまった。あばばばばば。

 

 背中を嫌な汗が流れる。

 

 えっ、これによって「生意気だ。帰れ」って言わないよね? 私にはまだ賃金を稼ぐという使命が残っているのだから、ちょっと待って。

 

 だがゼロニスはフッと微笑むのみで、特に気にした風でもない。

 

 もしかして聞こえなかったのかな。

 安堵した私は踊りに集中した。そしてなんとか一曲踊り終えると、広間の皆から拍手を受けた。

 

 達成感で胸がいっぱいになる。

 良かった、足を踏むことなく終えることができて。セリーヌは遠くで目を輝かせながら、いつまでも拍手を送っている。


 その時スッと、腰に腕が回された。


「もう一曲踊るか」


 背後から耳元でささやかれ、心臓がドキッとした。

 嘘でしょ、やっと一曲終わったのに、これ以上は心臓が持ちそうにない。

 腰に回された腕にギュッと力が入り、耳にゼロニスの吐息がかかる。


 恥ずかしくて顔が上げられない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ