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南通りに戻り、ひととおり街を見て歩いた。
直接物件などは探すことはできなかったが、ちょこちょこ建物の中に空きがあるのを見つけた。
本気になれば、住む場所を見つけることができるかもしれない。
それにこんな大きな街だもの。仕事だってなにかしらあるはずだわ。住み込みだったら一番いいかも。
街の雰囲気などもあわせて、この目で確認できただけでも、大きな収穫だ。
すっかり遅くなってしまった。そろそろ日が暮れそうな時間だ。
停留場に止めてある船の汽笛が大きな音を出した。
「そろそろ帰るか」
ゼロニスに笑顔でうなずいた。
「はい、今日は一日満足しました。美味しいものも食べれましたし」
ゼロニスは海を眺めながら口にする。
「この街の様子を見たかったんだ」
「え」
「この街の発展に、毎年少なくはない額を寄付している」
それは初めて知ったことだった。
「だが支援が足りているか、人々が暮らしで困っていないかなど、自分の目で見ないとわからないところもあるからな」
ゼロニスは淡々と口にする。
「だから自分で確認する必要があったんだ」
そうか。書類上での報告では、彼は信用しないということだ。
確かに人からの報告では、わからぬ部分もあるだろう。信用していないわけじゃないけれど、人は悪い報告を隠したがるものだから。
ゼロニスはちゃんと考えているんだな、ふと感じた。
小説では暴君の描写が多かったけれど、それはセリーヌが関係するようになってから、徐々になりをひそめていった。愛ゆえに改心していったのだろう。
それに言葉の端々は乱暴だと感じる時があるが、私にはなにもしてこない。
街の様子を自分の目で確かめたいとか、ちゃんと考えているんだと感心すらした。
彼はきっとセリーヌと出会い、成長していくだろう。そして彼が出資するこの街で、私は第二の人生の幕を開けるんだ。
だから早くセリーヌに出会い、本当の愛に目覚めて欲しい。
「なに、ニヤニヤしているんだ」
ゼロニスから言われハッとする。
しまった、考えが顔に出ていたかもしれない。
「変な奴だな」
ゼロニスは私を見て、愉快そうに口端を上げた。
「いえ……」
恥ずかしくなり視線を逸らす。だが、今日は思いもよらず楽しかった。最初一緒に街に行くなんて、どんな罰ゲームかと思ったが、実際は――
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
海から吹く風が冷たくなってきた。私は風になびく髪を抑えながら感謝の言葉を口にする。
夕日に照らされたゼロニスの顔はいつもより赤く見えた。




