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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第二章 暴君のお世話係

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「次は北通りへ行ってみるか」

「北通りとはなんですか?」

「トバルの街にはメインストリートが二つあって、今歩いてきたのは南通り。ここは庶民が買い物をする場所。もう一つの北通りは高級店が立ち並ぶ」

「そうなのですね」


 北通りで買い物する予定はないけれど、街全体の雰囲気をつかむためにも見ておきたい。もしかしたらどこかの店で求人など出しているかもしれないし。


 張り切って北通りの店に向かう。

 高級店が立ち並ぶだけあって、ドレスや装飾品を扱う店が多かった。


「ふわぁ~、なんだか私には場違いな感じがしますね」


もちろん場違いなのは私だけ。ゼロニスはしっくりきている。


 歩いているのも一見して貴族とわかる人々ばかりだった。

 一方私は庶民丸出し。高級店が珍しくて、キョロキョロと首を動かした。


「なにか必要なものはあるか?」

「いえ、特にここにはありません」


 こんな場所で贅沢をしている暇はないのだ。静かに首を横にふる。


「なんだ、いらないのか。欲がないな」

「贅沢できませんから」


 ここは見ているだけで充分だと告げる。


「今日つき合わせた詫びに、なにか買い与えてやろうと思ったのだが……」

「宝石が欲しいです!!‼」


 早く言ってよ、そうと決まれば話は別よ!!


 遠慮せずに前のめりになった私に、ゼロニスは目を丸くした。


「フッ……」


 だがすぐに笑い出した。声まで出して。

 私の正直な発言がよほど面白かったらしい。


 本当はお金が一番良かったのだけど、さすがに直球すぎるので、いくら私でもねぇ……。

 でもその点、宝石だったら、いざという時に売ることができる!!

 生活に困ったらお金に換えることができるじゃない。


「叶えてやりたいが、この服装ではひやかしだと思われるだろうな」

「あ……」


 私とゼロニスは非常にラフな格好をしている。これではどう見ても庶民の服装だ。ゼロニスは意図してそうしてきたのだろうが、にじみ出るオーラは隠しきれていない。


 ゼロニスだけなら店にも入れそうだが、私は店に入った途端、つまみ出されそうだ。


「それはまた次回だな」


 ゼロニスは腕を組み、笑いをこらえながら言う。


「はい、いつでも大丈夫なので、待ってます!!」


 やった、ゼロニスは一度約束したことは守る。そんな気がした。でも口約束だけでは物足りない。


「では、約束の誓いをたてましょう」


 私はスッと小指を差し出した。訝しげに首を傾げたゼロニスに説明する。


「小指を差し出して約束を交わすのです」


 ゼロニスは二ッと口端を上げる。


「いいだろう」


 私たちは指切りをした。


「この誓いには言い伝えがあります。この誓いを破った場合、拳で一万回ぶたれても文句は言えないのですよ」


 もちろん、本当にぶつわけがない。返り討ちにされるのがオチだから。


「覚えておこう」


 ゼロニスは肩を揺らして笑った。



 私はすっかり上機嫌になり、足取りも軽くなった。

 その時、北通りに立ち並ぶ店の一番奥、すこし離れたところにある大きな建物が気になった。


「あの建物はなんですか?」

「いってみるか」


 ゼロニスと二人、建物を目指した。


「これは――」

「そういえば劇場ができたと言っていたな。今はシャハマルという劇団がきていると」

「シャハマルってあれですよね? 恋愛ロマンスの舞台が主で、今大人気とお聞きしました」


 私は興奮して語る。ロンバルディ家の同僚たちも噂していたし、セリーヌからも聞いていた。


「興味ない」


 ゼロニスは呆れたように肩をすくめた。


 劇場は席にもランクがあり、ビップ席ともなると、そりゃあもう近い場所で見られるのだとか。その分、お値段も目が飛び出るほど高く、一般小民には到底手が届かないらしい。


 まあ貴族専用の席だろう。

 だが端の席だと、まあ、ちょっと頑張れば買えるかな? という値段らしい。


 いつかは私も観てみたいものだ。


「劇を鑑賞した方はすごく感動したと言っていましたよ。物語は誤解しあう夫婦で、最後、ヒロインにヒーローが公衆の前で告白するシーンは胸を打たれたと」


 ゼロニスは鼻で笑う。


「バカバカしい。恋愛の劇など特に興味がない。――まさか、そんなことに憧れるとか言わないだろうな?」

「……憧れます」


 正直に告白すると恥ずかしくて頬が赤くなる。まったく、こんなこと言わせないでよ。

 ゼロニスは瞬きをした。


「どうして憧れるんだ?」

「だって、愛があったほうがいいじゃないですか」


 すべてはラブアンドピースでできているのよ、たぶん。


 力説するとゼロニスは肩を揺らした。


「……確かに。そうだな」


 意外なことに認めた。


 それに私、小説を読んで知っているんですからね。さんざんバカにしていた劇ですけどね、セリーヌにせがまれ、劇を見に来るんだから。それも根回しして、超ビップ席のチケットを手に入れた。


 その劇を気に入ったゼロニスは劇団に出資までするんだよね。


 愛の力は恐るべし。まさにラブアンドピースじゃないか。

 今は否定的な考えを持つゼロニスだけど、それすらも変えてしまうのだから。セリーヌを想う心はすごいな。


「……女性は自分だけを見てくれて、はっきり言葉にしてくれる方に心が揺さぶられるものです」


 最初、セリーヌに対する気持ちを自分でなかなか認められず、素直になれなかったゼロニス。


「それに素敵じゃないですか。皆の前で求婚とか、自分が主役になった気分になれます」


 そんなあなたへ、これはアドバイスだ。今はピンとこないかもしれない。だけど、心の片隅でもいい。覚えておいて欲しい。余計なことかもしれないけれど――


「そうか」


 だが意外なことにゼロニスは素直に返答をした。


「覚えておこう」


 そして見せた笑みに、なぜか胸が高鳴った。


 ダ、ダメよ。


 彼はセリーヌと結ばれる運命。私とは別の道をいくのだから、邪魔してはいけない。ひっそりと応援しつつ、私は自立への道を探るのだ。

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