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【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第二章 暴君のお世話係

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19

「あら、大変ね」


 クスクスと忍び笑いが聞こえる。

 ハッとして顔を上げる。

 メイドたちは誰一人として私を気遣う者はいない。それどころか楽しんでいるみたいだ。


「あら、水を止めるのは十分だけって言われていたけど、あなたは聞いていなかった?」

「……聞いていません」


 ズイッと前に出てきたのは、同僚のターラ。私より少し上と思える年齢でスラッとしていて背が高い。そばかすとつり目が特徴的で、いつも仲良しの同僚二人とつるんでいた。


「そうよね、遅れてきたから聞いていないか」


 だったら教えてくれてもいいじゃない。ムッとしたが口をつぐんだ。


 私は無言でスカートの裾を絞った。

 これではっきりとわかった。


 今朝の違和感はこれだ。どうやら私は皆に疎まれているようだ。

 でも、どうして? 目立たないよう大人しく過ごすよう、心がけていたのに。


「まったく、生意気なのよね。ポッと出のあなたが、なぜゼロニス様付きになるわけ?」


 ターラの台詞を聞き、確信がもてた。


 やはり私がゼロニスの世話係になったのが、気に入らないのだ。

 なるほどね。つまり嫉妬されているのだ、私は。


 自分が悪いことをしたのかと考えたりもしたが、それが理由だとするのなら、気にすることはない。


 だって相手が勝手に負の感情を向けてきているだけ。


 それにゼロニスのお世話係の件は、私の意見などない。お世話係を止める、イコールはこの屋敷でのメイドをやめることになる。


 それじゃあ困るのよ、賃金がもらえないじゃない。

 私の今後のハッピーライフのために、お金が必要なのだから。

 実家と縁を切る軍資金よ。ゼロニスの婚約者探しのこの間、実家の目が届かないうちに、私は準備を進めなければならないの。


 くだらないイジメなんか、相手にするヒマもない。

 悪いことはしていない、淡々と自分の業務をこなすのみだ。


「すみません、着替えてきます」


 私は感情を表に出さぬように努めた。

 さてこれ以上、面倒なことにならなければいいけど。

 やっぱり働くって色々あるわ。人間関係の煩わしさが一番問題よね。

 

 そして夜、ラリーの時間が終わり、ラリエットに戻る。湯あみをし、一息ついた。 


 ベッドに横になり、今後のことを考える。

 今のうちに、住む場所をあらかじめ考えておく必要があるわね。

 賃金を手にしたら、まずは住居を探さなきゃ。


 ゼロニスがセリーヌと恋に落ち、婚約者候補たちが家に帰される前に、慌てないように準備をしておかないとね。

 だからこそ、街に下見にいきたい。トバルの街はここから近く、栄えている。治安も悪くないと聞いたので、女性の一人暮らしでもやっていけるはずだ。


 でもその前にまず、一度確認しにいかないと。

 住む場所は実物を見ないと、わからないことがある。街の雰囲気や周囲の環境など。女性の一人暮らしだもの、慎重にいかないと。


 決めた、次の休みは街に行こう。


 そして街の雰囲気を見てくるとしよう、まずは偵察よ。

 一緒に働けるような場所が見つかれば、なおいいのだけど。

 期待に胸をふくらませ、眠りについた。


 * * *


 数日後、私はゼロニスの部屋の窓ふきを命じられていた。

 脚立に乗りながら、一生懸命窓を拭く。


 この窓から遠くにトバルの街が見える。


 楽しみだな、明日は休みをもらったし。ご飯を食べたらラリーになって、乗り合い馬車に乗って街へ出かけよう。そうだ、ついでに美味しい物を食べてこよう。日頃、頑張っているのだから、たまにはいいわよね。天気は晴れるといいな。


「おい、聞いているのか!!」


 街に想いを馳せていると声がかかり、ビクッと肩を揺らす。

 恐る恐る振り返ると部屋の主、ゼロニスが突っ立っている。

 しまった、彼が不在の間に掃除を終わらせるつもりが、帰ってきてしまった。


「申し訳ありません、夢中になっていました」


 脚立から下り、深々と頭を下げる。


「俺が話しかけているのに、無視とはいい度胸だ」

「申し訳ございません」


 再度深々と頭を下げた。


「それにしても……」


 ゼロニスは腕を組み、視線をチラリと投げた。 


「なにを考えていた」


 ゼロニスは顎をクイッと上げる。


「街の方向を見て」


 うっ、鋭い。


 私が明日の計画を立てていたこと、感づいたのかしら。

 まあ、いいや。別に隠すことでもないしな。


「明日の計画を立てていました」

「明日?」


 ゼロニスの眉がピクリと動く。


「申し訳ありません、明日はお休みいただいております」

「休みだと?」


 なぜか不満げな声を出すゼロニス。お休みは労働者の権利ですから。

 

「なにをしているんだ」

「トバルの街に行きます」


 私は堂々と返答した。するとゼロニスは窓の外にチラリと視線を投げた。

 ゼロニスは鼻で笑い、顎で私を指す。


「俺も一緒に行ってやろう」


 ゲッ!! 無理、嫌、冗談じゃない。


 それになぜ、一介のメイドと主人が一緒? それじゃあ、自由に行動できないじゃないか。

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