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 たまにあるメイドの休日に、私はラリエットに戻る。

 自分に濃いメイクを施して着飾り、重たいドレスを着る。

 そして私は時間を持て余していた。


 本当に貴族令嬢ってすることがないのね。ここに集まっている他の女性はお茶会やお喋りを楽しんだりしているが、私は友人を作っていない。だいたい、女性が徒党を組むのはあまり良くない。


 彼女たちも同じ男性を巡って婚約者の座を狙っているのだから、皆がライバルでしょうに。

 もっとも表では良い顔をして裏ではどうやってライバルたちの足を引っ張ろうか考えていたりして、女性って怖いのよね。それは小説でも現実でも同じな気がするわ。


 私は特に親しい友人を作ろうともしていなかった。

 仲良くなったところで、トバルの街に下りる私と貴族令嬢では、今後接点があるとは思えなかった。


 ああ、暇だな~。


 部屋にいてもすることがないので、庭園を歩いた。

 こんなことなら、無休で働こうかしら。賃金も増えるし。

 庭園を歩いていたら、なにやら裏門のあたりが騒がしいことに気づいた。

 兵士が数名、そして一人の女性の後ろ姿が視界に入る。


 あの女性は――


 綺麗にカールされた赤毛に見覚えがあった。

 ゼロニスの部屋から飛び出していった女性だ。

 兵士に囲まれて、いったいどこへ行くのかしら?

 気になった私はこっそりとあとをつけた。


「離してよ、自分で歩けるわ」


 女性の怒った声が聞こえる。


「規則ですので。ゼロニス様より、門の外まで見送るように言われています」


 あっ、もしや……


 脳裏に浮かんだのは、先日の一件だ。彼女はゼロニスの怒りを買ったのだ。

 確かに彼女はゼロニスに言われていた、『出て行け』と。

 その一言が引き金となり、彼女は裏門から家に帰されることになったに違いない。


 私は踵を返し、その場を離れた。


 ああ、ゼロニスに出て行けと言われたら、それは絶対なんだ。これが現実。

 彼を怒らせては、この屋敷にはいられない。つまり賃金を手にする機会がなくなる。

 やはり私は彼に大人しくつかえているしかないのだ。

 ゼロニスがセリーヌという運命の相手に出会うまでの期限つきだ。


 考え事をしながら庭園を歩く。花々の香りがして心が和む。

 ふと足と止め、景色を見る。

 綺麗に手入れされた庭園、風も吹いて心地良い。


 少しだけ、ゆっくりしていこうか。


 私は腰を下ろそうと、庭園のベンチを探した。

 噴水の水の流れる音が聞こえてくる側にベンチがあった。

 近づくと誰かが座っているのが見えた。


 あら、先客がいたわ。仕方ない、別の場所を探しましょう。


 私は踵を返そうとした。

 だがベンチに座っていた人物は私に気づいたのか、クルッと振り返った。


 サラサラの茶色の髪に白い肌。新緑色の大きな瞳。

 小説のヒロインである、セリーヌ・バーデンがそこにいた。

 人目を惹く美貌に思わず息をのんだ。


 だが目が赤く腫れていることが気になった。もしかして泣いていた……?


「大丈夫? 目が腫れているわ」


 気になってしまい、つい声をかけてしまった。

 セリーヌは隠すようにうつむいた。


「お恥ずかしいですわ」


 そして目をこすりはじめた。


「ダメよ」


 私はセリーヌの手をパシッとつかんだ。


「こすってはますます腫れてしまうわ」


 セリーヌはハッとして私を見つめた。


「これを使って」


 私は持っていたハンカチを差し出した。


「あ、ありが……」


 セリーヌはお礼を言い終わらぬうちに、ポロポロと泣き出した。肩を震わせ、声を必死でこらえながら、ハンカチに顔をうずめた。


 私は小さく息を吐き出した。

 こうなってしまっては見捨てて立ち去ることができない。

 まいったなぁ、物語の主役とは深く関わるつもりはなかったのに。セリーヌはもちろん、ゼロニスもだけどね!!


 だが、この姿を見たあとでは、ほうってはおけない。

 ベンチの空いているセリーヌの隣に、ストンと腰を下ろした。


「どうしたの? 話を聞くわ。まずは好きなだけ泣いてすっきりするといいわ」


 私が言葉をかけたことにより、彼女は涙腺が崩壊した。

 それから十分は泣いていただろうか。ようやく少しは落ち着いてきた。

 ヒックヒックと嗚咽を漏らしていたので、背中をさすった。


「よほど辛いことがあったのね」


 小説の中でもそんな描写があったっけ。美しさに嫉妬されたセリーヌが皆から意地悪されてしまうのよね。


 でもそれって、悪役だった私、ラリエットの仕業だったわよね。皆を引き連れて、セリーヌを標的にした。


 だけど今のラリエットはお金を稼ぐのに夢中で、セリーヌのことなど、気にもかけていない。


 悪役令嬢は忙しいのだ。

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