表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど  作者: 夏目みや
第一章 悪役令嬢に転生した私

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/65

12

 それからも私の二重生活は続いていた。


 朝食を取り終えると、メイドのラリーにジョブチェンジ。

 正直、貴族女性たちみたいに、昼間は優雅にお茶会をして過ごしたりとか、四六時中は無理だわ。メイドの仕事は

体を動かすこともできるし、退屈な時間も潰せる。そして何より賃金ももらえることが一番大きかった。ここで稼いで街に下りたら、どこかのお屋敷でメイドをしてもいいかもしれない。


 それとも街の食堂で働くものいいかもしれないわ。まかないがつくなら、なおよし!!


 上機嫌で足早に廊下を進む。


 今日の仕事は客室のシーツ交換。一部屋ずつ回り、シーツをはぎとって、新しいシーツを敷いてまわる。結構力仕事だった。


 私はシーツを入れたカートを押して進む。シーツが山盛りになっているので、前が見えにくいのが欠点だ。

 曲がり角を曲がろうとした時、ガツンと衝撃を受けてカートが止まる。


 えっ!? なにかにぶつかった?


 恐る恐る、体を斜めにして確認すると、ある人物が視界に入った。

 金の髪に爽やかな青い瞳は不機嫌そうにゆがんでいた。


「ひっ……!!」


 恐ろしさのあまり、喉から引きつった声が出た。


「も、申し訳ありません」


 頭を深々と下げた。いや、土下座した方がいいのか、この場合は。


「……お前はどこにでも出没するな」

「申し訳ありません」


 ゼロニスの呆れを含んだ声にビビり散らかして、再度謝罪する。

 ゼロニスは眉間に皺寄せ、自身の右手をジッと見つめている。


「あの……」


 もしかしてぶつかった衝撃で、どこか痛めてしまったのだろうか。おずおずと切り出した私を、ゼロニスはにらんだ。


「貴様、あとで来い」

「……はい?」


 いったい、どこへ?


 私の顔を見て理解していないと察したゼロニスは、さらに不機嫌な声を出す。


「俺の執務室だ。二度言わせるな」

「は、はい!!」


 その剣幕に背筋をビシッと正し、返答した。


 そのままジロッと私をにらむと、去っていった。


 お、終わった……。


 姿が見えなくなると、へなへなとその場で崩れ落ちた。

 部屋に行ったら死刑宣告かもしれない。


 どうしよう、このまま逃げちゃう……?

 ふとそんな考えが頭をよぎった。


 メイドとしてのラリーの存在を消すの。仕事を止めてしまうとか……。


 ううん、それはできないわ。よく考えたけど、仕事を止めてしまったら賃金がもらえなくなるじゃない。

 逃亡ができなくなる。そう、最終目標はメイデス家と縁と切り、自立することですもの。


 だったら、ここで逃げてちゃダメ。


 仮にゼロニスだって、もし……もしもよ? 

 私の命を奪うとしたら、わざわざ部屋に呼びつけないわよね?

 この場でサクッとやられてしまっていたわよね?

 

 自分に良いように解釈し、勇気を出してゼロニスの執務室を訪ねることにした。


 ***


 緊張しながら執務室の前に立つ。


 深呼吸を三度繰り返し、扉をノックした。

 中からくぐもった声が聞こえたので、恐る恐る扉を開く。

 

 ゼロニスは椅子に座り、書類に目を通していた。


「失礼します」


 ビシッと背筋を正した。

 ゼロニスはチラリと視線を投げると、書類を机に置いた。


「こっちにこい」

「はい」


 言われるがまま、部屋の中央にあるソファの側まで進む。

 ゼロニスは椅子からスッと立ち上がると無言で私に近づいてくる。


「ヒッ……」


 迫力ある勢いに怖気づき、喉の奥から変な声が出た。


「申し訳ありませんでした、命だけはお助けください!!」


 しゃがみ込み懇願した。


「……お前なにを言っている」


 呆れたようなゼロニスの声が聞こえた。


「まず、顔を上げろ」

「はい」


 おずおずと命令に従えば、ゼロニスはソファに腰かけ、足を組んだ。


「なにを勘違いしているのか知らんが、お前を呼んだのはコレだ」


 ゼロニスはソファの前のテーブルを顎でしゃくった。そこには小さな箱が置いてある。


「え、これは……」

 

 ゼロニスから許可が出たので中を開けると、包帯やら塗り薬が入っていた。救急箱で間違いがないようだ。


「ゼロニス様、おケガをなされたのですか?」

「お前が言うな」


 ゼロニスはジロリと私をにらんだ。


 そこで私は脳裏に浮かんだ。もしや、私とぶつかった拍子にどこかケガをされたのでは。


 サーッと顔が青ざめた。

 あっ、これ死刑宣告受けちゃうやつじゃない……⁉


「申し訳ございません。私ごときがゼロニス様の進行を邪魔してしまい、あげくカートをぶつけるなど、なんて不遜で失礼な行為かと深く反省いたします」

「一生反省してるがいい。だがまずは早く顔を上げろ」


 ゼロニスは呆れを含んだ声を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ