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一〇ニ号室に引っ越します

「そうですか、二〇四号室の三浦さんがですか」

 麗子は隣の二〇四号室に住む三浦が部屋で暴れて、物音がうるさすぎることを不動産屋の志賀のところに抗議に行った。すると、志賀は渋い表情を浮かべ頭を抱えた。

「これまで三浦さんに対して住人からのクレームはなかったんでしょうか」

 麗子はこのマンションの入居者が少ない理由は三浦のせいではないかと思った。

「そうですねー、記憶にはないですかね」

 志賀の言葉は歯切れが悪い。何かを隠しているように感じた。

「あの部屋から女性の声も聞こえてきますが、三浦さん以外に女性が住んでいますか」

 麗子が訊くと、志賀は目を大きく見開いた。

「女性の声ですか。いえいえ、そんなはずはないです。そんなはずは絶対にないです」

 志賀は慌てているように見えた。

「トランペットやビアノの音色が聞こえたり、女性の声が聞こえたりするんです。その音自身は大した音ではないんですけど、ちょっと気になったんで、そうですか、女性は住んでいないですか」

 麗子は首を傾げた。三浦が不動産屋に内緒で女性と同棲していても、それは麗子にはどうでもいいことだ。それより、三浦が部屋で暴れて激しい物音を立てるのを何とかしてほしい。

「志賀さんから三浦さんに注意してもらえませんか」

「そうですねー」

 志賀が口を尖らせた。しばらく宙を眺めて口を開かない。

「してもらえますよね」

 麗子は痺れを切らして前のめりになってテーブルを叩いた。

「見市様の部屋を一階に移動するというのはどうでしょうか」

 志賀が提案してきた。

 部屋を一階に移動するという志賀の提案はありがたいが、それは志賀が三浦に注意をしないということだろうか。

「部屋を一階にしてもらうことはいいですが、三浦さんに志賀さんから注意はしてもらえるんですよね」

 麗子は確認した。あやふやにしていては、次に二〇三号室に入居する人が今の自分と同じ思いをすることになる。自分が一階に引っ越して、それで済ませていい話ではない。問題の根っこは三浦にあるのだ。そこを何とかしなければ本当の解決にはならない。

「ええ、もちろんです。それは私から三浦さんに注意しておきますが、それと同時に見市さんも部屋を移動した方がいいのではないかと思いましてね」

 志賀は額から流れる汗をハンカチを取り出しておさえながら言った。何かを隠しているのか、志賀は落ち着かない様子だ。

「二〇五号室の瀬川さんからは何もおっしゃってこないんですか」

「はい、瀬川さんからは特に何も聞いていないです」

「わかりました。わたしは一階の部屋に変えてもらえますか。部屋は一〇二号室でお願いします」

 原田の隣より優香の隣の部屋がいい。

「わかりました。すぐに一〇二号室に入居できるように手配いたします。引っ越しの費用はこちらに請求いただければお支払いします」

 二〇五号室の瀬川はどうするのだろうか。瀬川も三浦の物音に悩まされているはずだ。一度優香から訊いてもらうことにしよう。


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