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マニアックなレオ  作者: レオ
99/115

VOL99 「夏の日の脱走」

小学校ではまだマシだったけど、

中学、高校での授業が苦痛だった。

特に面白くもなんともない社会科は

大キライだし、成績も悪い。

ナマイキながら中学の時から

喫茶店に入り浸っていた。

学校や親に気付かれない程度に

月に1、2回社会科を含めて

2時間目くらいまで喫茶店で

サボってから登校する。

校門は目立つから誰もいない

体育館の裏手の3mくらいある

塀を乗り越えて入るのであった。


中学の時はややフリョーと

学年トップクラスの優等生との

両方のグループに仲のいい友達が

けっこういたけど、

入学した中の上の高校のクラスは

マジメで個性のないやつばかりに

思えてつまらなかった。

高校でもサボりは続いていた。

中2からパチンコをしている、と

ひとりに話すとすごく驚かれて、

どういうものか説明してほしい

というので黒板に図を描いていると

ワイワイと5、6人も集まってきた。

「ここにある棒を薬指と小指で

挟んで親指でこのレバーを弾くと

レールに沿って玉が台の上まで

飛んでいくねん。

タイミングよく何時間もずうっと

打ち続けなアカンから

最初は指が痛いけど慣れたらホラ

こことここにタコができてくる。

天のこの釘のあたりを狙うんよ。

穴に入ったら玉が15発出てくる。

チューリップに入ると開いて、

うまくいくと2個入ったりもする。

いっぱい出て終了となったら

4、5千円くらいやね。」

みんな興味津々で聴いている。

クロというあだ名のやつが言った。

「いっぺん一緒に連れてってや。」


一番よく通っている店がある

最寄り駅で待ち合わせた。

俺は帰って着替えてからきたけど、

学校から直接来たクロは

制服のままだ。

並んで座って打ち始める。

タバコを取り出すとクロが驚く。

「ああ、これも中2からやなあ。」

馴染みの店員が困った顔をして

「レオ君、学生服はマズイなあ。」

とやってきた。

クロは制服をカバンに入れて

白シャツ姿になって続ける。

好奇心旺盛な彼は生き生きして

初体験を楽しんでいた。

(ちなみにパチンコもタバコも

20代前半に辞めた)



6月、球技大会。

朝からカンカン照りで今日は

暑くなりそうだ。

バレーボールを選択したものの

このイベントに全く興味がなく、

俺はあることを思いついた。

「あのさあ、今から脱走するから

誰か代わりにバレーのチームにも

掛け持ちで入ってくれる?」

「だ、脱走???

あはははっ。何を言うてんねん!」

ジョーダンと思われてるんやなあ。

マジだと言うとみんな驚いたけど

代わりになってくれるやつがいた。

トーナメント全試合が終わるまでに

戻っていれば絶対わかりっこない。

自転車置き場の裏の塀を

乗り越えたら目立たないはずや。

唖然とするみんなに「じゃ。」と

手を挙げて歩き出すとクロが

「なあ、俺も行ってもえーか?」

と声をかけてきた。

「え? ほんまに?

喫茶店でサボるだけやけど。」


自転車置き場に着いて塀を

乗り越えようとするとクロが

「ここを登るんか? マジ?」

と慌てる。

「正門から出れるわけないやろ。

向こうに飛び降りた時に

絶対に足をくじかんようにな。」

クロ「おまえ、、、もしかして

こんなことしたことあるのか?」

俺「うん、でもここでは初めてや。

器械体操やってたし、簡単や。」

高い塀に飛びついて登って

外側の畑にサッと飛び降りる。

5秒くらいだ。

この動作に慣れていないクロも

なんとかついてきた。

乾いた畑を歩きながらふと後ろを

振り返ると自転車置き場の向こうの

体育館2階の体育教官室の窓に

人影が見える。

「うわ! ヤバい! 山本やっ!

双眼鏡でこっちを見てるぞっ!

走れ! 顔を見られるなよ!」

広い畑を突っ走る二人は丸見えだ。

刑務所脱走の囚人の気持ちになる。

やっと道路にまで出て息を整える。

ハァ、、、ハァ、、、めちゃ暑い、、、。


10分ほど歩いて喫茶店に入った。

「ここなら今は先生もけーへん。」

冷房が効いた店で飲む冷コーは

最高だっ。

焦げた香りがたまらない。

クロ「双眼鏡にはマイッタなあ!

俺、山本キライやねん。」

俺「やっぱりおまえもかあ。

なんであんなもん教官室に

置いてるんやろなあ?

まあ遠かったし、後ろ姿やから

誰かわかれへんよ。

インベーダーやろや。」

インベーダー、ブロック崩しなど

喫茶店ではテーブルでできる

ゲームにもハマっていた。

昼には軽食も取って、

ゆったりした時間を過ごす。

親も先生も知らないサボり。

もう何十回してきただろう?

中学の時から周りの誰も

こんなことをしていなかった。

補導されたり、停学になったりも

してないけど、俺は少しだけ

フリョーなのかなあ?

本来いるべき学校にいないで

罪悪感とともに味わう少しの

スリルと解放感はヤミツキだった。

「そろそろ行こか。」


同じコースでは見つかってしまう

かもしれないから

ぐるーっと大きく廻って

広いグラウンドの向こう側の

別の畑から戻ることにする。

さっきと違ってこの畑は

ひどくぬかるんでいる。

でも仕方ない。

他に進むべき道はないのである。

時々足首まで泥に浸かりながら

やっと低いフェンスに

たどり着いて乗り越える。

球技大会は終盤を迎えていた。

クラスのみんなのところに戻ると

俺らの泥だらけのスニーカーを見た

脱走のことを知らないやつが訊く。

「あれ? どうしたんそれ?」

「あはは、、、チョットね。」



まえにここに「講師生活奮戦記」

というエッセイシリーズ全32話を

連載したけど、この時は7年後に

こんな自分が高校で先生になるとは

想像もしていなかったのであった。

(体育科、保健科の非常勤講師

として3年間勤務)


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