VOL66 「雪の世界から学んだこと」
ずいぶん永らくスキーをしていない。
たぶん25年くらいかなあ。
雪山を恋しく感じる。
今になって思えば小学生の時の最大の
衝撃体験はスキーとの出会いだった。
通っていたスイミングクラブ主催の
スキー教室に小6の時に初めて参加。
12月下旬に鹿島槍国際スキー場
の宿に2泊?やったかな。
大阪ではたまに雪が降っても
積もることは滅多にないし、
積もったとしてもほんの数センチだ。
この4ヶ月前の夏に初めて信州に
旅行して緑豊かな自然に
魅せられたけど、冬の風景は
またそれとは別世界である。
このスキー教室での体験がその後の
ジンセイをアクティブに自由に
してくれる導火線となったのだった。
修学旅行の伊勢一泊?以外は家族から
離れて過ごしたことはなかった。
それまで見たこともなかった
カラフルなスキーウェアや手袋、
靴下、帽子、ゴーグルなどを
買い揃えてもらってスキーバッグは
満杯になりウキウキする。
夜に2、30人の小学生とコーチ5人
くらいで大阪駅からバスに乗り込んで
出発した時点ですでにコーフン状態。
2時間置きくらいにサービスエリアで
トイレ休憩すると大阪とは全く
レベルの違う空気の冷たさが
未知の空間へと向かっていることを
実感させてくれる。
夜中だというのに露店が活気的に
営業していて、あちこちで湯気が
立ち昇って見える。
いっぺんに眠気が吹き飛ぶ。
やたらと魅力的なフランクフルトとか
を食べずにはいられない。
朝になり宿近くの駐車場に到着。
何十台もバスが並んで停まっている。
スキーをしに来るひとって
こんなにいっぱいいるんや。
宿の周りの道の端や三角形の屋根の
上に雪が1m以上も積もっているのを
見てまるで異国に来たかのような
感覚に包まれる。
雪、雪、雪だらけ。
家の軒下には1mもあるツララが
ぶら下がっている。
そうかあ〜、日本の北側3分の1
くらいの地域は冬の間はずうっと
こんな状態なんやなあ!
宿の部屋に荷物を置いて、
食堂で朝食を食べてから
スキー服に着替える。
レンタルスキーショップで板、
ブーツ、ストックを借りて準備完了。
睡眠不足だけど全く眠くない。
スゴいスゴい!
積もった雪の上を初めて歩く。
ブーツがめちゃくちゃ重い。
足首はほとんど曲げられないし、
当たり前だけどスキーはツルツル
滑るから平らな道を進むだけでも
けっこうタイヘンだ。
板の端のエッジを効かせたり、
ストックで押したりしてなんとか
すぐ宿のすぐ裏のゲレンデへ。
「うおおおおおおーーっ!!!」
なんやこの風景はっ!?
周り360度を見渡して山の木々の
茶色がわずかに見えている以外は
真っっっ白な景色の中に立って
アタマがぶっ飛ぶ!
初級ゲレンデで全員コーチと
向かい合って並ぶ。
足を内股に、スキー板をハの字にした
ボーゲンを教わって順番に
緩い坂を滑っていく。
俺はアイススケートを何回も
やってきたからか初めてでも
意外と安定している。
でもスピードが上がると制御できずに
やっぱりコケてしまう。
でもたいして痛くはない。
起き上がってまた滑る。
板を斜面に平行にしてエッジを
効かせてもとの位置まで数十m
横向きに登っていくのは
かなり体力が必要だ。
午前中の練習で、ある程度コケないで
左右に曲がれるようになるまで上達。
おおおおーーーっ!
おもしろいやんか、コレえ!!!
全く上手く滑れなくて、冷たい、
歯がゆい思いばかりで初日でスキーを
大嫌いになる気の毒なひともいるけど
俺はスケートのように
力を入れなくても自然にスーッと
滑っていく感覚がすごく楽しくて
すぐに病みつきになってしまった。
夕方、宿に戻って乾燥室にスキー板、
ブーツ、手袋、帽子などを置いて乾かす。
大きなストーブがあって暖かい。
あああ〜〜〜、足が軽くなったあ!!
初めて味わう究極の解放感。
ものすごい筋力トレーニングだった。
風呂に入り、夕食を食べて部屋に。
同じ部屋の初対面の同い年2、3人
とも仲良くなって、ふとんに入って
いろいろ話をするのもシゲキ。
それまで近所の子どもと同じ学校の
同級生とずっと慣れ親しんだ場所
でしか過ごしてこなかった俺は、
違う学校の友達と知り合って、
見たこともない風景の中で
新しいスポーツの楽しさを知って
一気に世界が拡がった気がした。
すっかりハマってしまって、
その後も2、3年続けて冬と春に
このスキー教室に参加した。
高校生になると同級生とスキーに行く
機会ができ始めたけど、全員初心者
だから俺が丁寧にコーチした。
その頃俺は板を揃えたまま左右に
曲がるパラレルターンまでは
習得できていた。
みんな見事にスキーにハマって
それなりに上達していった。
その後体育大学を出て保健と体育の
講師やスイミングコーチの職に
就くことになるけど、
思えば友達にスキーを教える
ことから指導することに熱意を
感じ始めていたのかもしれない。
冬でもキャンプ場ではない人里から
離れた林の中で完全防寒対策をして
テント風の生地のハンモックで眠ったり、
毎年夏だけでなく春や秋でも和歌山の
川で水遊びしたりで、周りからは
変わり者だと思われているかもだけど
子どもの頃から雪の世界、自然に
馴染んできたことでノビノビと地球を
楽しめているように思う。
他人が無責任に決めつける狭い
常識概念なんて俺には関係なあ〜い。