VOL63 「時空を越えた知らせ」
去年、昔のミュージシャン仲間の
飲み会に呼ばれて
センパイの家に行った。
10人ちょいの集まり。
20年近くぶりのセンパイ夫婦も
来ていた。
奥さんのサチコさんは社交的で
近所の奥さんらと仲良しだった。
俺が1990年に開業した
アメリカンバー(2004年に閉店)
で2001年頃からオープン前の
夕方におとなの初級、初中級あたりを
対象とした個人英会話レッスンを
始めると、サチコさんは
奥さん仲間の子どもらにも
教えてあげてくれないか、
と話を持ちかけてきた。
子どもに英会話を教えたことは
ないけど、スイミングクラブで
子どもに指導してたし、
やってみようと思って引き受けた。
学校のような勉強でなく、
会話をできるように、と
実際に日常で使う内容の会話の
例文を全部イチから考えて
自分でテキストを作り続けた。
おとな用(3クラスで4人)と
子ども用(1クラスで3人)全員に
それぞれ週1回のレッスンごとに
2、3ページずつコピーして渡した。
家庭教師で2回兄弟2人の高校受験の
ために教えた時は短期間だし、
教科書と参考書に沿った内容
だったけど、テキスト自作には
さらに相当なエネルギーが必要だった。
冬はコーヒーか紅茶、
夏はジンジャーエールかコーラを
出して70分くらいのレッスンを
2年ほど続けた。
おとなも子どもも意欲的で
楽しんでくれていた。
手間と内容の割に全然お金には
ならないけど、文章を書くことや、
ひとに指導することは好きだから
アタマの体操のように俺自身も
テキスト作成やレッスンする
シゲキを楽しんでいた。
スイミングも同じだけど、
自分が教えることで相手が
学習したり、成長することを
実感できるのは指導者自身も
大きな達成感を得ることができる。
サチコさんが写真を俺に見せた。
「覚えてる? マユやで。
この前結婚したんよ。」
笑顔いっぱいのダンナさんと並んで
ウエディングドレスを着て
ブーケを抱えている。
子どもの頃の面影が残っていた。
ブーケは本職でプロのサチコさんが
作ったもの。
サチコさんが俺の写真を撮って
マユに送ると
「イケオジやな。」
とすぐに返事が返ってきた。
「あの子ら3人なあ、
英会話レッスンが楽しかった、
って言うて、みんなあれから
他の成績までめちゃ上がってんで。
特にマユは英語や外国に
すごい興味持って
外語大にまで進んだんよー。」
「えーーっ!!
ホンマですかあ!!
うわあー、やった甲斐があったわー。
みんな英語好きになってくれたんや。
なんかめっちゃうれしい。
そうかあーー。」
彼女らのあれからの人生がいい方向に
進むきっかけになれたのだと思うと
ホントに最高の知らせだ!
英会話レッスンに来る途中の道端で
死んでいるスズメを見つけて
可哀想だと泣きながら店に入ってきて
俺をその場所まで連れていった
純真な小学4年のマユは
素敵な花嫁になっていた。