VOL3 「波乱のバイクレース」
もう40数年バイクに乗り続けている。
昔からハーレーとか高い位置にハンドルが
あってふんぞり返ってゆっくり走る
アメリカンバイクにはまったく興味がなく、
ハイスピードツーリング、
そしてコーナリングが大好きだ。
和歌山、奈良などを中心に峠道を
よく走ってきた。
38歳くらいの時に友達のドミニクが
知り合いのバイク屋主催の
サーキット走行会に誘ってくれて参加した。
岡山国際サーキットへ。
俺のバイクはスズキTL1000Sカナダ仕様、
あとはドミニクその他7人全員の
バイクがイタリア製のアプリリア1000ミレ。
ドミニクと俺だけが初体験だ。
バイク屋の店長とその息子の2人は
ここをしょっちゅう走って
レースにも何回も出場していて
あとの4人も何回か走行経験がある。
初めての立派な国際サーキットで走れて
カンゲキ。
なんて広々としてスバラシイんだ!
ドミニクといつも二人で峠道を
事故を起こさない程度にトバして
自分達より速いライダーに会うことは
今までほとんどなかった。
ある程度自分のレベルに自信はある。
でも一般道路とサーキットは別物で
最初は手探りで走り方を
見極めていかなければならないのだ。
200数十キロから一体どのあたりでブレーキを
かけ始めて次のコーナーを曲がればいいのか?
初めての経験。
そして広いコースのどのあたりを
走ればいいのか?
あまりのハイスピードなコースで感覚が
ついていけないままにハイレベルな
店長親子にはともかく他のライダー達にも
引き離されてショックを受ける。
まさか俺が一番遅いなんて!
この日の予定は30分の走行を3本。
2本目は少し落ち着いて走れて、
最後はさらにペースを上げれた。
結局は店長親子とドミニク以外の
4人よりは速く走れて終わった。
よっしゃ!!
「キミ達ほんまに今日初めて??」
みんな感心してくれた。
その後2、3回ここで走行して
1時間耐久レースに出ることにした。
オフロードバイクのレースには
1回だけ出たけど、オンロードでは初めてだ。
1人で又は2人で交代して走行する。
到着時間が遅くなってしまって手続きを終えて
コースに出るとスタート地点は
抽選などではなく到着順で、
すでに色とりどりのバイクが
ズラーッと並び、53組中ドミニクが最後尾、
俺がその前、となっていた。
「ええーーっ!!
こんなんめちゃ不利やんかあ!!」
一番前のマシンより走り出す前から
100mくらいも後ろにいるのだ。
初めてのレースでただでさえ
タイヘンやのにい〜。
革ツナギ、革ブーツ、革手袋、ヘルメットを
身につけてコースを挟んで自分のバイクに
向かって立ち、合図を待つ。
スタート!
旗が振り降ろされる。
ライダーが一斉にバイクに駆け寄り、
53台のエンジン音が響き渡る。
スゴい迫力だ。
「落ち着け! 大丈夫や!
まずは落ち着くんや!」
皆が俺よりここでの経験があって
レベルが高いというわけじゃない。
この雰囲気でコーフンして冷静さを失って
しまうヤツは普段の実力を出せないはずだ。
このスタートの密集した
混乱状態に埋もれたらアカン。
真ん中へ突っ込んでいったら
前を塞がれてるし、接触して
転倒してしまうかもしらん。
「コースの端や! よし左側や!」
まだダンゴ状態でスピードが乗り切れていない
群衆を避けてギリギリ端から抜いていく。
「よし! いけるぞ!」
第1コーナー、そしてその先の2、3のコーナー
までで10台くらいを抜く。
1周4キロ弱の右回りのコース。
約2分。
ホームストレートとバックストレートでは
200キロを軽く越える。
2周目、そして3周目。
ドミニクに抜かれる。
チクショーっ!
すでに第1コーナーや他の場所で
クラッシュしたマシンが横たわっている。
やっぱりコーフンし過ぎるんやな。
初夏。晴天の昼。革ツナギ。
暑いー。
バイクレースは激しいスポーツだ。
自転車と違ってエンジンで
走るのだからラクだろうって?
なんでやねん。
1000CCのバイクの加速力は
車、例えそれがフェラーリや
ポルシェとかでも比べ物にならない。
ガソリンタンクの上に伏せて加速Gを
感じながらギアを6速まで上げていく。
そして1周する間に2ヶ所で
超高速からフルブレーキング。
強力な減速Gを腕だけでなく、
太腿でタンクを挟み、全身で耐える。
やっとブレーキを離して オシリをシートから
横にズラして膝を大きく開き、バイクを深く
寝かし込んだらコーナーによっては膝を
路面に擦り付けるまで傾ける。
膝にはプラスティックのパッドを
装着してある。
こうして強力な遠心力に負けないように
曲がる方向に重心を移動させるのだ。
初めて見るひとからすれば
もはや曲芸の領域の乗り方だ。
走り出してしばらくはタイヤの温度が
まだ低くて路面に対してグリップする
力が弱い。
いきなり大きな挙動や遠心力を加えると
滑って転倒する。
コーナーから加速して立ち上がる時も
焦って早くアクセスを開け過ぎると
エンジンのパワーにタイヤのグリップ力が
負けて大きく滑っていく。
前のマシンに追いついたらどのコーナーの
どのあたりを通って抜き去るかイメージする。
もし接触して転倒したら大クラッシュで
命に関わる事態にもなるから慎重になる。
でも抜くためにレースをするのだ。
それからあちこちのコーナーで続々と転倒した
バイクが見られ、第1コーナーではすでに
3、4台もマシンが倒れている。
クラッシュしたマシンが燃えたのか
遠くの方で黒い煙が立ち昇っている。
救急車もやって来た。
おいおい、ここは戦場なのか??
俺は一体何をしているんや??
極度の緊張感もあってまだ半分も
走っていないのに喉がカラカラに乾く。
1時間耐久レースってこんなにハードなんや。
バックストレートで前を走る1台が転倒。
部品のプラスティックが巻き散らばる。
すぐ後ろでそれを避けようとして必要以上に
ブレーキをかけ過ぎたバイク屋の店長の
マシンの後ろが完全に浮き上がった。
空中高く真っ逆さまに飛ばされた店長は
まるでマネキン人形みたいに
力が抜けたような状態で路面に落ちた。
(恐ろしい光景だったけど、
幸い擦り傷、打撲のみだった)
ミレ1000がなんと縦に2転、3転する!
「うわあーーっ!!!」
今度は俺が必死にそれを避ける。
無事かわしたけど戦意喪失。
深呼吸してやっと気を取り直して
またペースアップ。
そしてついにホームストレートで
旗が大きく振られる。
「お、終わったのかっ!!
やった!! 完走したぞ!!」
クールダウンでゆっくり一周して戻ってくると
ドミニクと肩をバンバン叩き合った。
ドミニクが叫ぶ。
「ボク12位! オマエ17位!」
最後尾からスタートしたレース初出場の俺らは
10台くらい?もクラッシュした
大波乱の激しいタタカイをくぐり抜け
まずまずの結果を残したのであった。
世界で最も有名なレースの1つ
スズカ8時間耐久オートバイレースに
友達が20年くらい出場して、
ドミニクと俺は彼に誘われて
ビットイン作業をするスタッフとして
2003年から8年くらい?参加した。
またそのスゴい世界についても
そのうち書こうと思う。