VOL21 「アメリカンバーの夜は更けて その2」
1990〜2004年アメリカンバーを経営していた。
大賑わいな金曜の夜。
「やった! 当たりやあ!」
チンチンチーン!
「おめでとうございまあ〜す!」
俺はベルを鳴らす。
毎日お客さん全員に大きいルーレットの
ホイールを回してもらって、
その日か月の番号に玉が入ったら
ワンドリンク無料サービス。
知らないお客さん同士だけど、
皆さんが拍手している。
1970年代製造のアナログの
ピンボールマシンの周りには
常連プレイヤーがビール片手に
集まって盛り上がっている。
100円で3ゲーム。
タイムスリップしたように安い。
こちらの賞品は、、、
10万点 ワンドリンク
15万点 IWハーパーのボトル
20万点 ピンクパンサーのぬいぐるみ
(大)
25万点 クッキーモンスターの
ぬいぐるみ(大)
30万点 ロスアンゼルス往復チケット
(ペア)
35万点 店長の車
赤のユーノスロードスター
お客さんは楽しそうにやってるけどマジだ。
20万点チョイまでは2回出た。
最高点は俺が出した25万30000点。
もし、もしいつかホンマに35万点を
誰かが出してしまったら、、、。
コワい、コワ過ぎる。
34万点を越えたあたりで
「あ、ごめんなさい!」
とアクシデントを装って
電源コードに足を引っ掛けたフリ
をしてゲームを止めるしかない!
などと卑怯なことまで考えてしまう。
「マスター、これどうぞお〜。
旅行のお土産です。」
平日ヒマな夜、20代の女の
お客さんがプレゼントをくれた。
ヘリウムガスで浮かぶ80センチくらいある
ビニール製のカラフルなエンゼルフィッシュ。
丸い体型でフグっぽくて愛嬌がある。
「うわあー、ありがとうございますう!」
天井から吹き出すエアコンの風で
あっちへユラユラこっちへユラユラ。
「こんばんは~。 きゃあーっ!
何これ。 カワイイーっ! フグ?」
店に入って来たお客さんグループがはしゃぐ。
2日ほどして、お客さんが入り口の
ドアを開けるとエンゼルフィッシュが
フワーッと逃げ出した。
「マスター! 出て行ったよ〜!」
「ちょっと待っててくださいねー!」
お客さんがいるけどほったらかして
俺は店を飛び出して夜道を走る。
ゆるい風に乗ってエンゼルフィッシュが
ふわふわと上がっていく。
おーい、待ってくれよおーっ!
酔ってる俺は迷わず50mほど先の
工場ビルの鉄の屋外階段に張られた
黄色いロープを跨ぎ越えて昇る。
カン!カン!カン!カン!
これって不法侵入やんなー。
ごめーん!
緊急やから許してえーっ!
4階の上の真っ暗な屋上に出ると、
エンゼルフィッシュは俺の10mほど
上をゆっくり泳いでいく。
息を切らしながらあきらめて見送る。
「ありがとう。 楽しかったよ!」
クリスマスイブ。
俺は朝からちょっとユーウツだ。
ヤツが、、、
ヤツがきっとまたやってくる!
スイミングコーチ時代の2歳後輩のエーキ。
VOL8「身近な芸能人との夏」でも
書いたように、わざわざセンパイである
俺の家の電話を使って東京にいる
知り合いの女優の立花理佐と長距離通話の
ムダ話をするというフザケたコーゲキを
してくるとんでもないヤツだ。
ある年のクリスマスイブ。
エーキは自前で購入したサンタの
コスチュームを着てわざわざ大阪の南の果て
阪南市から車で高速に乗ってやってきて、
突然勢いよく店に飛び込んでくると
「メリークリスマあ〜ス!」
と叫んだのだった。
「だ、誰!?」
何時間もかけてシュレッダーで作ってきた
大量の紙の雪を店中にバラ撒き始める。
「ホーッ、ホッ、ホッ、ホッ。」
「エ、エーキかあっ!!」
唖然とするお客さん皆さんにちょっとした
プレゼントを配るとカウンターに座る。
「レオさーん。
ジンジャエールください。」
数分前は焦げ茶色の木目の床だったのが
今はほとんど見えないほど
白い雪が積もっている。
ご丁寧にトイレの中にまで撒きやがった。
アタマの整理がつかない俺を残して
アホサンタはサッサと帰って行った。
そして恐ろしいことに翌年もまた同じ光景が。
「次の日の掃除がめちゃくちゃ
タイヘンやからカンベンしてくれ〜!
2時間やぞ! 2 じ かあーーん!」
と訴えたけど、それから毎年毎年
サンタはやってきたのだった。
エーキは20代の頃から毎年毎年律儀に
俺の誕生日にお祝いの電話をかけてきた。
彼なりに俺を尊敬して
なついてくれているようだった。
2010年頃ガンになったエーキは
「ステージで激しくPLAYしてる
ドミニクとレオさんの姿を見てると
エネルギーが湧いてくるんです。」
と体調のマシな時に遠い道のりを電車で
ライヴを4、5回観にきた。
残念なことに去年の夏、
ついに彼は亡くなってしまった。
あのアホサンタは今年のクリスマスも
雪を降らせるんかなあ。
(「その3」に続く)