VOL115 「人間はイルカになれるか?」
21歳の時にスイミングクラブで
週2回コーチのバイトを始めた。
体育大学卒業後に高校で非常勤講師
として勤めている間も続けていた。
プールに入ることや指導することは
刺激的で楽しかった。
しかし、、、。
25歳からは別のスイミングクラブで
正社員として2年間勤務。
毎日4時間以上胸から下はプールに
浸かっている状態だ。
夏休み期間中はさらに3、4時間も
授業時間が増えるのである。
体は常に水圧と水の抵抗を受け、
体温保持にエネルギーを使う。
30人近い小学生相手に絶対に
溺れる事故を起こさないように
注意しながら大声で指導して、
補助につく経験の浅いバイトにも
教えながらの仕事は超過酷だった。
プラス早朝と夕方に選手コースの
指導までさせられた。
当時は週休2日制などはまだ
浸透していなくて日祝だけ休み。
片道1時間45分の通勤でタフな
俺でもついに限界を越えた。
器械体操で中学の時から傷めていた
腰がひどく悪化して仕事帰りに
整骨院で治療を受ける日々が続いて
辞めることにした。
そして初の海外旅行でアメリカへの
ひとり旅に向かったのだった。
ここで「不死身??」シリーズで
書いたけど、8歳の時に大荒れの
海でモーターボートが転覆して
当時まだ泳げないし、救命胴衣も
着けてない俺は正に生と死の
境界線から生き抜いた。
高校に勤務中、水泳部の指導を
していた時にも潜水25m直後の
限界状態で息を吸い込めなくなって
ホンっマに死ぬかと思った。
でも当然水に恐れは感じながらも
なぜか離れようとは思えず、
もう30年以上バイクで和歌山や
奈良の川に泳ぎに行っている。
スイミングコーチの仲間で
水に顔をつけてどれくらい息を
止められるかを競って挑戦した
ことがあった。
テレビ番組で何回かそんな企画を
見たけど全然たいしたことない。
2位に2、30秒?差をつけて
2分55秒という記録を叩き出した。
自分では体の中の酸素を最大限に
使い切ったつもりだったけど
実はまだまだのようである。
俺はただプールの底に足をつけて
脱力してぷかあーっと浮かんでた
だけだけど、貝などを穫る海女は
5mくらい潜ったまま動き回るのに
なんで長く息を止められるのか?
そして映画「グランブルー」を観て
衝撃を受けたのだった。
それは美しくも激しく、
そして儚くもある物語。
素潜りの記録に挑戦し続ける
主人公のモデルはフランス人の
伝説のフリーダイバーである
ジャックマイヨール。
ライバル役も実在のモデルがいる。
ジャックマイヨールは子どもの
頃から家族でほぼ毎夏佐賀を
訪れていて、イルカと親しみ、
兄と潜ったりもしていた。
水族館に勤めた時にイルカの調教で
その生態に精通し、泳ぎ方を学び、
フリーダイビングを始める。
イルカと共存するという概念を
提唱し、ヨガや瞑想を
トレーニングに取り入れた。
水圧に耐えれるように内臓を
柔らかくし、通常の人間が1分間に
60〜90回の脈拍は26回まで減って
消費酸素量を抑えることが可能に。
イルカなどの水生哺乳類が
高い水圧がかかる状況下で
脳、心臓、肺などの重要器官に
全身から血液循環を集中させる
ブラッドシフトと呼ばれる
生理現象を人間でありながらも
鍛錬により体得したのだった。
49歳の時に人類史上初めて
素潜りで100mを越える記録樹立。
さらに56歳の時には105mに更新。
俺なんてたったの4、5mで限界だ。
それでもかなりの水圧で
あっという間に苦しくなるし、
まず耳がやられそうになる。
ちなみにフリーダイビングには
脚にフィンを着けたり、
ガイドロープや重りを使用して
潜ったりといった
様々な種目があり、その中で
2007年にはなんと214m!!という
驚くべき世界記録が達成された。
水深10mごとに約1気圧増えるから
ダイバーの体は20気圧以上の
圧力にさらされることになる。
耐えられるのが信じられない。
そして、俺が挑んだただ浮かぶだけ
という種目の記録は11分35秒!!
人間はウィングスーツを着れば
鳥になれる。
鍛錬を積めばイルカにもなれる。