夏の特別企画「宇宙を駆ける変態」その5
「「わわ?わわわわ???」」
初めての無重力、真空状態に感覚が掴めずにクルクル回るアリス。
見るとロケットブースターで上がって来たほとんどの者がクルクル回っている。
良く考えたら地龍や海龍が宇宙空間に上がる機会が有る訳もなかった。
とにかく皆んな宇宙空間に慣れようと必死だ。
「「ふむ、皆の訓練の方が先かのう?
そう言えばシーナよ、龍化は出来ぬか?宇宙空間は地上限定の魔力制限が無い故にシーナも龍化し易い環境なのだ」」
つまり半龍半人の概念は地上だけの縛りで宇宙空間だと解き放たれると言う訳だね。
「え?龍化ですか?えーと?」
初めの頃は龍化のトレーニングをしていたシーナだったが、娘のキャサリンが産まれてからはトンとやっていなかった。
「んー?」イメージを思い出しながら龍化の感覚を取り戻すと・・・ボウン!
「「あっ!龍化出来ましたよ!」」割とアッサリと龍の姿になったシーナ。
「「おお!シーナ様って赤龍さんだったんですねぇ」」
始めてシーナの龍バージョンを見たアリス、赤龍とは土龍の特別個体だ。
ノイミュンスターと同じである。
流石の天龍アリス、もう宇宙空間の感覚に順応したのか少しおぼつかないがクルクル回るのを是正出来ている。
「「お父様、お父様、コレどうやって移動するんです?」」
クルクルと回ってはいないシーナだが、単に動けないからプカプカ浮いてるだけである。
「「地走駆と同じく空間を蹴る感じじゃな」」
「「空間を蹴る・・・・・・ひゃああああああ?!?!」」
「「シーナ様ぁーーーーーー?!?!」」
「「ぬお?!」」
力加減を間違えたのか凄い勢いで飛んで行ってしまったシーナ。
しかも飛んだ方向が悪い!あろう事かS78彗星軌道目掛けて一直線なのだ。
慌ててクライルスハイムとアリスがシーナを追いかけるが円熟期を迎えた絶好調赤龍の力で蹴ってしまったので速度が早い!
あっという間にシーナをロストしてしまう。
あれ?コレ不味い展開じゃね?ファンタジーお約束の仲間と逸れるイベント発生である!
「「どどどどどどうしましょう?!」」
「「ぬう・・・このまま追えば2次遭難確定じゃな・・・我も宇宙空間が得意と言う訳では無い。
アメデとアメリアと合流するのが先決じゃな」」
「「シーナ様はこのまま・・・永遠に宇宙を彷徨う・・・何て事は・・・」」
怖え事言うなよぉ?!
「「そんな最悪な事にはならんから心配するでない。
シーナの位置と状況は加護を通してしっかりと把握しておる・・・・あっ・・・ジャコブに捕まったしもうた」」
「「十二分に最悪じゃないですかぁああああああ!!!!」」
最悪な事にS78彗星に接近した途端に変態に捕まってしまったらしいシーナ!
「「ぬう・・・まぁ、龍化状態のシーナならばジャコブに遅れを取る事も・・・
なんと?!ジャコブに無理矢理に龍化を解除されたとな?!
非常識な!」」
「「もうダメだーーーー!!」」
刻一刻とシーナに危機が迫るがクライルスハイムにもどうする事も出来ない。
地上戦ならジャコブに負ける事は無いが宇宙空間は変態の領域、地龍には分が悪過ぎのだ。
そしてジャコブによってシーナとの連絡網を遮断された・・・
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「「えええええーーー?!シーナがジャコブに捕まったーーー?!」」
現在、衛星軌道上で龍達の目標になっているリールと合流したクライルスハイムとアリス。
天龍王アメデが率いるスイングバイ組の到着までまだ2時間以上は掛かるらしい。
ロケットブースター組は・・・うん!まだクルクル回って使い物にならないね!
「「私がお母さんを助けます!」」
そう言うシーナの娘のキャサリンだが、君も回っているじゃん!無理!
頼みの宇宙空間適正持ちのシーナの旦那様ガイエスブルクは射出角度の都合で星の反対側に居るらしい。
「「ううううー・・・位置的にガイエスブルクは救出には行けないか・・・
仕方ない!私が行くしかないか!
一撃離脱でシーナを掻っ攫って即離脱するわ!
叔父様はガイドビーコンをお願いします!!!」」
そう言ってガイドビーコンの魔石をクライルスハイムに渡すリール。
「「大丈夫か?」」
「「はい!」」
リールは勇気を振り絞って変態と対峙する事を決めたのだ。
天舞龍たる自分がいつまでも変態なんぞに怯える事も出来ぬのだ!
まぁ、蛮勇に終わるのだが・・・
「「すまぬな」」
自分が行くより宇宙空間に適正があるリールが行く方がシーナの救出を出来る可能性が高い。
涙を飲んでシーナ救出をリールに託す事にしたクライルスハイム。
「「勿論アリスも行きますよ!」」
このまま黙ってシーナを奪われたのでは主の樹龍アリーセに顔向け出来ないからね。
そしてシーナ救出に向かったリールとアリスだが・・・突入して直ぐに連絡が途絶えてしまう。
《いっぱいです!変態でいっぱいです!ああーー!リール様ぁーーー?!
って?!いやぁー!来ないでぇー!変態ーーー!・・・・・プツン》
これがアリスからの最後の連絡になったのだった・・・
「「へ・・・変態でいっぱい・・・だと?」」
「「やはり変態しか居ない星・・・」」
ここでようやく「コレかなり不味くね?」と言う事を痛感する討伐隊の面々。
3次遭難を避ける為に全戦力が集結するまで待機が厳命されたのだった。
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「「ひゃあああああ?!ブレーキ!ブレーキ!ブレーキはどこですかぁ!」」
《落ち着いてシーナ!魔力を逆噴射するんです!》
「「なるほど!」」
突然の急発進にパニックになるシーナとユグドラシル。
「「それー!逆噴射ーーーー!!!ひゃああああ?!?!」
《加速してどうするんですかぁーーーーー!!》
「「ごめんなさーーーい?!?!」」
これは慌ててブレーキとアクセルを踏み間違えると言うヤツである。
そしてドンドンS78彗星に近づき変態の星の全容が見えて来る。
《あれは?!塔?ですか?》
ガスの内に入ると彗星から地表から飛び出す建造物を発見するユグドラシル。
良く見ると10本や20本どころでは無い、数100は有りそうだ。
「「ままままままままさか?あの塔の数だけ変態が・・・」」
なまじ頭が良いだけに最悪な現実を正確に予測してしまうシーナ。
《きゃああああ?!ブレーキ!ブレーキですよぉ!》
完全にパニックになるユグドラシル。
「「加速し過ぎて無理なんですぅーー!!」」
実はとっくにフルブレーキ中なのだ!そして「変態の都」に突撃してしまう!
ドオオオオオオオオオオオオオオーーーン!!!ガガガガガ!!!
変態の星に大きな土煙が上がる。
「「痛たたたた・・・」」数本の塔を薙ぎ払ってようやく止まったシーナ。
そして・・・「はう?!」ぞわわわわわ!!!背筋に走る悪寒!!
「「「「「「「「「ようこそ我が都に!シーナ様!!」」」」」」」」」」
案の定、振り向いたシーナの視線の先には数100体の変態が!完全に囲まれた!
「「《いやぁあああああああああ?!・・・ふう・・・》」」
あまりの恐怖に気を失ってしまったシーナとユグドラシル・・・変態が数100体の中で?最悪だぁ?!
しかしまぁ・・・ジャコブは変態は変態だが女性に直接危害を加えたり卑猥な事をする様な変態では無い。
むしろドレス姿のお姫様に踏み付けられて自分を痛め付けお仕置きをされたい変態なのだ。
変態にも色々な変態が居るのである。
「ふふふふふ・・・ようやくシーナ様を我手中に・・・」」
気絶したシーナとユグドラシルは龍化を解除され換装魔法で一瞬でドレスに着替えさせられて塔に連れて行かれる。
そして囚われのお姫様にされた・・・変態達はお姫様に踏んで欲しいのだ。
「念願のシーナ姫である!!!!!」
うおおおおおおおおおお!!!雄叫びを上げる500体以上の変態達。
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S78彗星軌道上に到達した、シーナ救出組のリールとアリス。
しかし、やはりリールの様子がおかしい、トラウマと戦っているのだ。
「「うううう・・・」」
「「リール様、大丈夫ですか?」」心配そうなアリス。
ちなみにアリスはブザンソン要塞の一件は詳しくは知らない。
と言うか子供に聞かせる話しでは無い。
「「大丈夫じゃないかも・・・」」
変態の星に近づく程にリールの鱗がゾワワワと逆立つ、本能的に変態を感じているのだ。
リールは何かを振り払うかの様に首を振り、「「アリス!魔力を切って惰性で彗星に接近!」」突入を決意する。
「「了解!!」」
無駄かも知れないが気配を消してS78彗星に接近するリールとアリス。
その時!彗星から放たれる無数のレーザービーム!変態の迎撃だ!!
「「リール様!迎撃です!レーザーの種類は不明!」」
そもそもレーザーではないから測定不能は当然だ!これは・・・
ジャコブの「唾液」なのだ!いやあああああああ?!?!
「「ふん!力技で来るなら私の勝ちだよ!」」単なる物理攻撃だと勝手に判断してホッとするリール。
だがやはり冷静さに欠けて重要な事を見落としていた。
変態ビームがただのレーザービームの訳がないのだ!・・・唾液だ。
ヒョイヒョイとレーザーと言う名の唾液を華麗にかわす天舞龍リール。
しかし数が多い!「「うっ!かすめる!」」咄嗟に防御壁を作ると「ジュ!」っと、直撃ではないが僅かに右腕がレーザー(唾液)に触れてしまう。
ボウン!!「ええええええーーーー?!?!」レーザーが掠った瞬間、一瞬でリールの龍化が解除される!
ジャコブの唾液は好きな魔法を付与出来るのだ!
「「あーーーー?!?!リール様!ここで翼を失ったら!」」
「いゃあああああんんん?!?!」突然翼を失い彗星からのガス圧にクルクル回るリール。
ドンドン!ドン!そして次々にリールに直撃するレーザービーム!!
レーザー(唾液)が気絶しているリールに纏わりつく!いやあああ!!
「「こここここれは?!止めなさい!!変態!!」」
このレーザー(唾液)は攻撃ではない捕縛魔法だ!
気絶してグッタリしているリールがレーザー(唾液)にグルグル巻きにされて彗星へと引っ張りこまれて行く。
「「させるかあーー!!!ガアアアアアアアーーーーー!!!」」
口元に龍力を集結させるアリス!!!切り札のドラゴンブレスだ!
しかし残念!
ボウン!!「いやあああんんん?!」」ドラゴンブレスの発射前にレーザー(唾液)が右足に当たってしまい強制的に女の子に戻ってしまうアリス。
「「くっ!この!離しなさい!」」レーザー(唾液)が身体中に纏わり付き絶対絶命のアリスだが負けん気を全開にして必死に抵抗を試みる。
しかしその負けん気のせいで思わずレーザービームの発射元を見てしまう。
そこには!塔の頂上から全裸で逆さ宙吊りになっている変態達の姿が!!
その口元からレーザービームが発射されているのだ!!!!
「何で裸逆さ宙吊り?!意味分かんなーーい!そしてキモーーーイ!!」
何で変態が裸で逆さ宙吊りでビームを発射しているか?
知るかぁ!変態に聞けえー!作者なら何でも答えられると思うなぁ!
とんでもなく気色悪いモノを見てしまい一瞬脱力するアリス。
「きゃ?!」
その隙を突かれてグン!!と一気に彗星へと引っ張り込まれるアリス!これはヤベェ!再度の龍化はとても間に合わない!
「いっぱいです!変態でいっぱいです!ああーー!リール様ぁーーー?!
って?!いやぁー!来ないでぇー!変態ーーー!」
ワラワラとゾンビの如く自分に近づいてくる変態の大群を見て、最後の力を振り絞って本隊が居る方向に最後の念話を飛ばすアリス。
気絶リールは既に塔の中に引き摺り込まれてしまった。
そしてアリスも遂に力尽きて塔の中へと消えてしまった・・・ああ美しい少女がまた1人変態の餌食に・・・
☆
「意外と怖い話しになって来たね?」
「まぁ、変態のやる事じゃから大丈夫じゃろ?
それよりこれマジで5時間で書いたのか?」
うす!頑張りました!
「何でその調子で本編も書けないのかなぁ?」
これは、設定だとか考慮せず殆どモノを考えないで書いているから早いのです。