閑話 「ラーデンブルクのチャリンコ」
いきなりだが、ラーデンブルク公国軍には他国には無い兵士1人1人が必ず持っている標準装備が有る。
それは「チャリンコ」だ。
・・・・・・・・馬鹿にしてんの?
と思われる方も居るかも知れませんが軍用チャリを舐めてはいけません。
第二次世界大戦の時にもチャリを戦略的に活用して世界の列強国を恐怖のドン底に叩き落とした国があります。
それが「日本」です。
日本軍のマレー方面攻略作戦が開始された時、連合国軍の司令官「アーサー・パーシヴァル中将」は、「上陸地点がコタバルなら日本軍が1100km先のシンガポールに到着するのには最低でも3ヶ月は掛かるだろう」と予想して、その間にシンガポール周辺の防衛線を構築すれば数で圧倒している連合国軍の楽勝!とたかを括っていた。
しかし・・・
「司令!!日本軍が凄え勢いでシンガポールに迫っています!!」
「なんでぇ?!道が狭くて車両がほとんど使えないからアイツらほとんど徒歩での進軍じゃん?!橋も全部落としたのになんでぇ?!」
「チャリです!細いケモノ道をチャリで爆走して来てます!そしてチャリを背負って川を渡ってます!そしてまたチャリで爆走です!」
「うおりゃあああ!!テメェらぁ!行け行けーー!!」
「うおおおおお!!!木がなんぼのもんじゃああ!!」
日本軍のチャリ部隊は密林の中をヤベェくらいに早く移動して、狭く立木だらけの悪路に苦しむ機甲師団をぶっちぎったと言われてます。
もはや完全にチャリンコ暴走族である。
「いやああああ?!」
「おらあああ!!降伏じゃあ!!降伏せんかい!!」
チャリ部隊が突然森の中から華麗?に登場して要所を急襲して確保、寛いでいる所にようやく機甲師団がやって来て・・・
「あれ~?お前らやっと来たの?遅えじゃん?」「お前らの移動速度ヤバすぎんだろ!頭おかしいのか?!」と言ったとか言わなかったとか。
「チャリ?!4万人が全員チャリでシンガポールに向かって走って来てんの?!ウッソだろう?!」
「はい!そして1時間前にマレー沖で「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」がやられちゃいました!」
「いやあああああ?!?!」
多少表現は大袈裟ですがこんな感じにチャリを有効的に使い怒涛の勢いで進撃した日本軍はあっという間にシンガポールを包囲してしまい、連合国軍は「約2ヶ月」で、ほぼ何も出来ずに降伏してしまいました。
徒歩より移動速度が3倍、積載量が2倍、そして燃料要らずに疲労も軽減、良い事尽くめなのが軍用チャリなのだ。
そして現在のアメリカ軍や自衛隊でも折りたたみ式軍用チャリは普通に使われています。
しかもAmazon的な通販でも簡単に買えます。
「ほう?壊れた「意味も無く70000円もした近場の買い物用チャリ」の代わりに最新式のアメリカ軍の軍用チャリが欲しい?
・・・・・・・・・それで?それ幾らすんの?20000円?30000円?」
「僕が欲しいのは298000円の赤外線ライト付きで暗視ゴーグル付きの超カッコいいヤツです!」
「赤外線ライトに暗視ゴーグルなんて「近場の買い物」で何に使うのよ!
一昨年に買って今年も多分使いもしないキャンプ用25000円のサーチライトを頭に付けて、去年に買って直ぐに飽きて押し入れにしまってある30000円のドローンにでも乗ってなさい!
そもそもチャリが壊れたって「8000円のバッテリー」を交換すれば良いだけでしょ?
とっとと自転車屋さんに行ってこーーーい!!
「いやあああああ?!?!」
こんな悲しいやり取りがブチ切れた奥様と「ついさっき」あって泣きながらコレを書いてます・・・はい・・・お金を無駄使いしてすみません。
でも賭け事は一切やらない、お酒も全く飲まないんだから、これくらいの趣味・・・
「ん?何か言った?」
いいええ!なーーーーんにも?!
《タブレットに入力した言葉を聴覚で感じるとは?!奥様とは何者?!》
そんな事を知っている時代先取りグリフォンのエリカがチャリに目を付けない訳が無く、
「イリス~、チャリ作ろうぜ~、マウンテンバイクで電動アシスト付きなヤツね」
またエルフに丸投げするグリフォン。
「だから簡単に言うなぁ!そもそも「ちゃり」とか「まうんてんばいく」って何なのよ?!」
エリカは1から9をすっ飛ばして10を要求するグリフォンなのだ。
それでも試作品をしっかり作るマッドサイエンティストエルフ・・・凄えなお前。
「これ・・・ヤバくね?」
試乗してイリス型マウンテンバイクの余りの性能の高さにドン引きするグリフォン。
さすがにまだ電動アシストは完成していないがマウンテンバイクとしては一級品なのだ。
「何で引いてんのよ?!アンタが作れって言ったじゃんか!つーか「イリス型」とか止めい!」
イリス型マウンテンバイクは軍令部に即正式採用され量産化された。
当然ながら馬には速度面でかなり劣るが悪路でもスイスイ進み、比較的安価で制作可能でメンテナンスも容易、何より人力で担ぐ荷物の倍の輸送能力・・・直ぐにラーデンブルク公国軍兵士の主力装備になったのだ。
一般庶民にも「チャリ」は普及して今ではラーデンブルク公国の街中を「ママチャリ」で走るお母さんの姿が当たり前となったのだ。
実の所でこの頃エリカはガチでラーデンブルク公国軍の中に「機甲師団」を作ろうして「戦車」や「トラック」などの車両の試作品を完成させていたりする(実際に作ったのはイリス)
しかし魔法世界特有の事情の「石炭の埋蔵量が多く石油の埋蔵量が極端に少ない」と言う燃料面の理由から頓挫していたのだ。
その点で人力で動かせる「チャリ」は魔法世界にピッタリとマッチしている乗り物と言える。
石炭による蒸気機関方式も検討したが車両重量が重くなり過ぎて機甲師団結成は断念、開発された技術は鉄道などに転用されている。
同様の理由から「飛行機」なども作れなかったのだ。
一応、魔法世界にも「飛空挺」などは存在するが、「魔石動力」の飛空挺は飛行可能な距離が短く「観光用アトラクション」程度にしか普及はしていない。
「電動アシスト程度なら「魔石」で行けんじゃね?」
「アンタは・・・また簡単に」
そしてやっぱりイリス型マウンテンバイク2号の試作品を作れてしまうマッドサイエンティストエルフ。
「いやあああああ?!コレヤバい!凄えおっかねぇーーーー!!!」
イリス型マウンテンバイク2号の試乗をして見たら平地なら時速50km出てしまったのだ。
石畳の街道が多いラーデンブルク公国の道をマウンテンバイクで50kmで走ったらもう、石畳に弾かれてバインバインしまくるのだ。
そして動力に使われた「お値段的にとてもお高い魔石」も直ぐにガス欠になった。
1km走るコストが日本円換算で30000円もするのだ。
「・・・・・・・もうイリス型マウンテンバイク1号機だけで良くね?」
「自分で作らせておいて文句言うんじゃないわよ!
そしてイリス型マウンテンバイクの呼び方も止めろ。
私がマウンテンバイクに変形する見たいじゃん」
かなり迷走したがイリス型マウンテンバイクは文句無しの傑作でラーデンブルク公国軍の力を底上げするのに充分な能力を発揮するのだった。
☆
「こんな話しを書いてるなら本編も直ぐに再開するのよね?」
すみません・・・まだ辻褄合わせの調整中です。
「何してんのアンタ?」