1周年特別企画「エリカちゃん&コンちゃん死す。 その3」
グリフォン・キングのコンちゃんが樹竜のキューちゃんに転生して10年が経過した。
「「キュイ!キュイキュイキュイーーーンン!!」」
ズドゴオオオオオオオオオオオンンンン!!!!《ピィィイイイ?!?!》
「「凄いわキューちゃん!天才よ!!」」
ラザフォードとブリックリンの2人の黒龍王に大切に育てられスクスクと成長したキューちゃんは、今日も元気いっぱいに「ウインド・ブラスター(上級魔法)」を紫虫に盛大にブチかましております。
完全なオーバーキルである。
しかも絶妙な魔力コントロールで魔法がヒットした瞬間に美味しくない内臓や骨を吹き飛ばし、こんがりと良い感じに肉を焼いてしまうのだ。
ウマウマと紫虫肉のステーキを平らげると、
「「キュイキュイキュイーーン!」」
「「あははははは、くすぐったいよキューちゃん」」
キューちゃんは黒龍王ラザフォードの事を完全に自分のお姉ちゃんと認識しており、(ラザフォードは自分をキューちゃんの母親だと思っている)狩が終わるといつもの様にラザフォードの首元にまとわりついて甘えている。
竜はこうやってドラゴンプロレスをしながら母親や年長の兄弟から魔力を分けて貰うのだ。
因果の関係からラザフォードから直接の加護は受けていないがラザフォードの身体に触れる機会が多く、毎日甘えながらも少しづつラザフォードの魔力を吸い上げて自分の身体の中に蓄積して行くキューちゃん。
なかなかのしたたか者である。
「「大丈夫かなぁ?」」
モロ闇属性のラザフォードの魔力がキューちゃんの身体に悪影響が出ないのかブリックリンは心配だったが純粋な闇の魔力は全属性に適応出来る事が判明した。
ラザフォードの魔力を吸い、好物の紫虫をパクパク食べてドンドン成長したキューちゃんの身体は3mを超えて、もうすぐ成竜と同じ大きさになるだろう。
ブリックリンにまとわりついて甘えないのは、単に彼の属性が炎よりで吸うと身体の中が熱くなるからだったりする。
なので、お兄ちゃんのブリックリンには頭を撫で撫でして貰うのだ。
そして、この頃になるとキューちゃんは「緑属性」と言うとても珍しい属性を開花させる。
「土属性」「樹属性」「風属性」が合わさった超レア属性である。
そしてこの属性は霊樹ユグドラシルと同じ属性で成長次第では「創世魔法」が使える様になる。
この様に穏やかで楽しい日々が続いていたがキューちゃんには悲しい別れが近づく。
そうキューちゃんの「巣立ち」の日が近いのだ。
これは最初からブリックリンがキューちゃんとラザフォードにも常々強く言っていた事で、竜の巣立ちを遅らせるとキューちゃんにとって悪影響でしかない。
これから成竜になるまでの10年間はキューちゃんにとってもとても大切な時期で親から離れ1人で色々な事を勉強しなければならない。
野生とは厳しいモノなのである。
「「成竜になって属性が安定したら会っても大丈夫だよ」」
「「ううーーーー!!寂しいよぉ~」」
哀しそうなラザフォードだが・・・何分にも見た目が厳つ過ぎて、哀しみで顰める顔は他から見ると世界を滅ぼしてしまいそうな憤怒の表情に見える。
「「キュイキュイーーーンン!」」
大丈夫だよ!お姉ちゃん!と、巣立ちに向けて気合い充分のキューちゃん。
親の心子知らずである。
黒龍王にとって10年など月日は1日どころか数時間程度の事なのだが見事に過保護な母親になったラザフォードはキューちゃんが心配でならない。
「「やっぱり・・・私の加護を・・・」」
「「ダメだって、緑属性が黒属性になったらどうすんの?」」
器の肉体が出来上がって魔法生命体としての成長期に突入したキューちゃんは、まだ属性が安定していない。
ラザフォードが下手に加護を与えて第二の黒龍王誕生・・・何て事もあり得るのだ。
なので属性が固定されて成竜になるまで属性違いのラザフォードとキューちゃんを引き離す事が必要なのだ。
そして地龍の土属性のブリックリンもキューちゃんには近づけない。
同じ「土」なのに何で?と言われると、地龍の土属性は「溶岩」などの炎属性も相当量含むからだ。
これはキューちゃんの樹属性とはすこぶる相性が悪い。
相性が悪い理由は単純、火は樹を燃やしてしまうからだ。
「「極悪人までキューちゃんに近づけないなんて・・・凄く心配だわ・・・・・・・」」
極悪人が近づけなくて子供が心配とか変な話しである。
「「なのでキューちゃんには「緑属性の先生」を呼びました」」
「「緑属性の先生?・・・って誰を?」」
「「知り合いに居るでしょ?「緑属性」のエキスパートが」」
「「ああ!!シルフィーナちゃん!!」」
ラザフォードは思い出す頼りになる親友、風竜シルフィーナの事を。
本来は風の力が強いシルフィーもキューちゃんとは若干の属性違いなのだが、シルフィーナの場合は「緑属性全般」を司る上位精霊だった。
上位精霊だったとは、この時代のシルフィーナは「大精霊」に昇格している。
凄えなアイツ。
そして何よりも霊樹ユグドラシルの眷属でもあったので「樹属性」の知識もバッチリなのでキューちゃんの先生には適任だろう。
「「と言う訳だから、もうすぐ来るシルフィーナ先生の言う事を良く聞く様に。
分かった?キューちゃん?」」
「「キュイキュイキュイーーン!!」」
分かりました!と元気良く返事をするキューちゃん。
「「ああーーーん!!!キューちゃん!お母さんは寂しい!!」
「「キュイーーーンン?!?!」」
シルフィーナが到着するまでキューちゃんを構い倒すラザフォードだったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして風竜シルフィーナが「地龍王の山」に到着する。
そしてキューちゃんを見てメチャクチャ驚くのだった。
《えええーーーー?!?!コンちゃんんんんん?!?!》
「「キュイ?!?!」」
さすが今や次代の精霊王に1番近い大精霊と呼ばれるシルフィーナ。
キューちゃんの正体がかつての仲間だったグリフォン・キングのコンちゃんの転生体だと一発で見抜く。
「「えええーー?!コンちゃんってあのコンちゃん?!?!」」
思いもよらない名前が出て来て驚くブリックリン。
「「キュイ?!」」
「「魔力の波動が全く一緒じゃない!これで何で10年も一緒に居て気が付かないのブリックリン?!」」
「「キュイ?!」」
「「言われて見ると本当にコンちゃんの波動と一緒だね?!」」
ここでようやくキューちゃんの魔力波動の事に気が付くブリックリン。
案外と惚けた元黒龍王である。
「「キュイ?キュイ?」」
「「キューちゃんってコンちゃんだったのぉ?!」」2人揃って惚けた黒龍王である。
「「キュイ?キュイ?キュイ?」」何の話しか分からないキューちゃん。
そしてシルフィーナがキューちゃんの記憶喪失の原因を調べると・・・
《うーーーーん??うーーーーん?これは?
コンちゃんが自分でとても強力な記憶封印をしているわね・・・これ、他人には解除不能よ?》
修行の為にだと「えいやぁ!!」と、気合いいっぱいに自分に記憶封印の魔法を掛けてしまったキューちゃん。
解除の事を全く考えてなかったのだ。
これまた惚けたグリフォンである。
シルフィーナで解除が無理なら解除出来るのは「神様」くらいなモノだろう。
「「何でそんな事をしちゃったの?キューちゃん?」」
両手でキューちゃんを持ち上げて質問をするラザフォードだが、
「「キュイイ??」」何の事だか全然分かりません状態のキューちゃん。
結局、樹龍アリーセになっても最後までコンちゃん時代の記憶は戻る事は無いのだが、深層意識、感覚的には前世の事を覚えている様子だ。
慣れれば人懐こい反面、案外警戒心が凄く強いのだ。
「「あー・・・だから直ぐに俺達に懐いたのか」」
ブリックリンの言う通りで黒龍王は生命体にとって恐怖の対象でしかない。
普通なら黒龍王を産まれたばかりの竜の赤ちゃんが見ると恐怖の余りにショック死しても不思議でないのにキューちゃんは前世の感覚がちゃんと残っていてかつての仲間だったブリックリンとラザフォードに5分で懐いたのだ。
《魂の奥底では2人の事をちゃんと覚えていたのね》
「「賢い!賢いわぁキューちゃん!」」
「「キュイ?!」」
キューちゃんを抱きしめてウリウリするラザフォード。
明日から暫くウリウリ出来ないのでしつこくウリウリする。
「「ラザフォードさん、そろそろダメだよ?キューちゃんに悪影響が出るからね」」
「「ううーーー・・・・」」名残惜しそうにキューちゃんから離れるラザフォード。
コンちゃんの記憶戻らなくても今はキューちゃんなので気にしない事にした黒龍王の2人。
まぁ、実際にコンちゃんとは、もう別の存在だからね。
「「せめて私の鱗を御守りに!」」
「「キュイ?!」」
「「ダメです」」往生際の悪い黒龍王である。
つーか、黒龍王の鱗なんて超特級呪物を持たせるなんて論外だろ!
こうしてラザフォードとブリックリンから巣立ちしたキューちゃんだったのだ。
「「キュイ!キュイ!キュイイーーーンン!!」」
樹竜のキューちゃんの気合いの入った鳴き声が「地龍王の森」に響き渡ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
巣立ちを果たした樹竜のキューちゃん。
とは言え活動拠点の巣穴は前と全くの一緒で子離れしたはずの親代わりの黒龍王ラザフォードが遠くから様子を見てて1日一回必ず念話を送って来るので、キューちゃんには巣立ちをした感覚は無い。
しかしそんなラザフォードの怠惰を許さないのがシルフィーナ先生だ。
《ラザフォード様?そろそろ帰って仕事をしないとドミニクさん達が死んじゃいますわよ?》
「「ううう・・・」」
突如として活動を停止してしまった人気ロックシンガーのラザフォード。
当然彼女の周囲には活動を支えるスタッフ達が居る。
活動停止中も給料を全額保証しているとは言え、無職の10年は辛い何てモノでは無い。
「仕事しなくても給料貰えるぜ!ヒャッハー!!」と喜んで遊んでいられるのはせいぜい最初の一年くらいなモノだろう。
要するにラザフォードのスタッフ達は「もう暇過ぎてマジで死ぬ・・・」状態なのだ。
まぁ、チマチマとラザフォードが新曲を作りそれをスタッフに送って他の新人歌手に歌って貰ったり、その為のオーディションをやったりしていたので完全無欠な貴族ニートと言う訳でも無かったが、やっぱりスタッフ達はラザフォードのコンサートを開催したいのだ。
《ファンの人達も活動再開を心待ちにしてますわよ?》
「「・・・・・・・・・・・・・・・はい」」
他ならぬ古参のファンであるシルフィーナに説得されて、ようやく活動拠点のラーデンブルグ公国へと帰って行ったラザフォード。
「シルフィーナ様・・・もしや女神様?!」
「そうに違いない!」
スタッフ達は感謝の余りに「精霊女神シルフィーナ教」と言う、得体の知れない新興宗教団体を作ろうしてシルフィーナに全力で阻止された。
《危ねえ!油断も隙もありませんわ!なんで人間はすぐに宗教団体を作るのかしら?》
自分が預かり知らぬ内にいつの間にか「エルフ女神イリス教」なる更なる、とぉーてっも怪しい宗教団体が出来ていて涙目になったエルフの女王イリスの気持ちが分かったシルフィーナだった。
ちなみに「イリス教」の信者は、何か知らんが既に30000人を超えていて、イリス本人にもどうにもならない状況だ。人気エルフも辛いぜ。