38話 「魔法世界の服事情」
遂に、遂にこの時が来た!
そう、皆さんお待ちかねのファッションショーの始まりだ!
「そんなモン誰もお待ちしてないわよ!どこに需要があんのよ?!」
「今更だけど何でいきなり戦争中にファッションショーが始まるのかなぁ?」
それに関しては結構真面目な理由があります。
「皆さん!今日は頑張りましょう!」
「お~?結構人が集まってんなぁ?」
地の底まで沈んでいるイリスとエリカに対してフローズとロテール君の温度差が凄い。
アラクネーさんは思い描いた服が出来上がらず工房に籠っていて不参加だ。
《物騒な世の中ですからね、皆様息抜きをしたいのでしょう》
会場になる帝立大演劇場には開始2時間前なのに既に2000千人程の観客が入りガヤガヤしている。
「ああ・・・もう緊張して来たわ・・・」
ギギギギギィとブリキロボイリスの油切れした関節の音が聞こえて来る様だ。
今回のファッションショーはヴィグル帝国の帝都で行われる。
北極圏にある工房から首都まで実に6500km以上の長旅を経て・・・は、いなく、
「フローズブランド」所有の転移魔法陣を使ったので一瞬で帝都に到着した一行、既にスタッフはショーの準備を終えて寛いでいる。
「ま・・・まさかこんな形でヴィグル帝国に来るなんて・・・」
興味深そうにキョロキョロと帝都を見回すイリス。
帝都の概要については別話を使って詳しく書きます。
「あー、そっかぁ、ここってイリスとロテール君には特別な街だもんねぇ」
そうなのです!ファッションショーとは別にしてヴィグル帝国の帝都は「勇者達の拠点の街」なのだ!
そしてこれが「やるやる詐欺」が続いていた「黙示録戦争」シリーズの始まりなのだ!
さあ!勇者イリスよ!準備は良いか?!
「何かファッションショーからいきなり物語の核心部分のシリーズが始まったぁ?!」
「これが作者の真の狙いだったんかぁ!!
いきなり何をとち狂って何の知識も興味も無いファッションショーの話しを始めたのかと思っていたら?!」
いや、普通に黙示録戦争の話しを始めてもあんまし面白く無いかな?って思ってネタでね。
でもファッションショーの話しもやりますけどね!
「無理すんな!ファッションショーの話しは止めましょう!服に何一つ興味が無いアンタには無理!止めても誰も文句言わないから!」
今調べているから大丈夫です、ところで「おっと?朽ちとる」って何ですか?
「オートクチュールだよ!
ラ・シャンブル・サンディカル・ド・ラ・クチュール・パリジェンヌの加盟店で注文された一点物の最高級仕立て服の事よ」
なっ!なに?!ら・ちゃん!ブシャアアアア!!ぐおおお?!舌噛んだぁああ!!
おのれぇ魔王エリカ!元良家のお嬢様めぇ!いきなり難しい長々しい単語をぉお!
この上級国民めぇええ!!
「めっちゃ理不尽な理由で恨まれた?!
元実家が割と裕福だった事は認めるけど、いくら何でもそんな高級な服なんて一族郎党の誰も持って無かったから!
そもそも1着が数千万円もする服なんて着れるかぁ!つーか家買えんじゃんか!
それに衣装で言えば私よりお姫様のイリスの方が高級な衣装を毎日着てんじゃん!」
エリカにブルジュワ女の指摘された、お姫様イリスはメチャクチャ驚いた顔をしながら、
「え?私が公爵邸で着ている服達は「もう20年以上は着回ししてる服ばかり」だよ?
服なんてクレア師匠も15年以上は買ってないんじゃないかなぁ?
良い物を作ったり買ったりして長く着るのがハイエルフの家訓だからね。
まぁ、頻繁に針子さんが補修したりアクセサリーを付け替えているけどね。
それに私の今着ている服に見覚えない?
30年前にモデル(舞台中央の置き物)をやった時にフローズさんがエリカとお揃いでくれたじゃん?」
そう言って両手を広げるイリス。
「まあ!本当ですね!懐かしいわぁ」服を思い出して、パン!と手を叩くフローズ。
「なん・・・だと?・・・そう言えば・・・確かにあの時の服だね・・・
それに公爵家では20年以上も服を着回ししている・・・だと?」
エリカはイリスが着ている同じ服を4,5年ほど着て、防虫剤と共にタンスの肥やしにしていて忘れていた。
30年前の服を着ているイリスに驚く、物持ちの良い子だねぇ。
寿命がアホほど長いハイエルフは着る衣装に対して人間の王族特有の新作のこだわりとかがほとんど無い者が多い。
何故なら、長命種がそこにこだわりを持つと際限が無いからね。
なのでエルフの王族たるハイエルフより一般庶民のエルフの方が着ている服に金を掛けているくらいなのだ。
イリスが公爵邸で毎回違うドレスを着ているのは見習い針子さんの職業訓練の一環だと言う事をエリカは知らなかった。
「そうなのよねぇ、ハイエルフのお客様が中々増えてくれなくて・・・
でも、ハイエルフ族は毎年かなりの金額をグループに投資をしてくれるから、多分お金の問題じゃないのよねぇ・・・
どうしてハイエルフ族は、頻繁にお洋服を買ってくれないのかしら?」
「種明しをしますとハイエルフは術の行使の効率化の為に自分の装備品に毎日微量の魔力を蓄積して身体に馴染ませて魔法形態の一部にしているからですね。
新しい服を着ると、また一から魔力充填のやり直しになるので頻繁には衣装を変えないんです」
「ええ?!365日間ずっと着たままなの?!」
いやん?!不潔ぅ?!とか言いたげなエリカ。
「・・・私は魔力充填用の主力の服は気に入った20種類ほどに決めて毎日着替えています。
だから洗濯は頻繁にしています・・・アンタ絶対に変な想像したでしょう?
なんでずっと一緒に住んで私の洗濯状況を知っているアンタがその発想になるのかな?
アンタいっつも「イリスって見る度に洗濯してるよね~」とか言ってたじゃん?」
綺麗好きなイリスは洗濯に掛ける時間が凄く長く、洗濯メイドと一緒に一日中頑張ってゴシゴシと洗濯しているイリスにエリカが呆れた事があった。
まぁ、イリスの場合は掃除や洗濯が趣味な様なモノなのだが。
掃除や洗濯に凝り出すと時間を忘れてやっちゃうよね。
別段洗濯の趣味が無いエリカは洗濯専門の業者に丸投げしている。
「あ!そうだったよね!じゃないとすっぱいモンね!」
エリカはハイエルフは洗濯もしないで、365日間ずっと同じ服を着っ放しだと勘違いしたのだ。
そんな訳あるかい!
「すっぱい言うな!」
まあ、要するにハイエルフは気に入った服をメチャクチャ大事にしていて、それを長く着ているって話しだね。
「そう考えれば・・・クレア師匠やルナさんって毎回違う服を着てた気がするよ?」
「・・・20年に一回、服を買ったとして、師匠やルナさんの年齢は?」
「あ・・・そか」
クレアが大体15000歳として単純計算すると最低でも750着の服を所有している事になる。
なるほど・・・こうして考えると長命種のハイエルフが頻繁に服を買わない理由が分かる。
「私の場合は何か良く知らないけど、子供の頃から皆んなが服をくれるので自分で服を買った事がありません。
おかげでクローゼットの中がヤバい事になってます。
クローゼットは完全な魔境と化しており自分でもどんな服が有るのか分からなくなってます。
ここで自分でも買い始めるともう収集がつきませんので「買えない」が正解かな?
特にエリカさんがくれた服の数がシルフェリアのを遂に超えて・・・」
「あー・・・そか、何かすみません、今後は自重します」
「そうして下さい」
一般の女の子並みにはオシャレなエリカは年に数回、お土産でイリスに服を買って帰って来てイリスに着せて喜んでいた。
お土産が毎回服だったのは、「これイリスが着たら可愛いじゃん?!」との理由だ。
霊樹シルフェリアから始まった着せ替え人形イリスは今だに健在なのだ。
イリスとエリカが出会って180年ほど経過して、エリカだけでもイリスにあげた服の数は400着を超えている。
最早イリス1人では管理不能で3名のクローゼット管理の専門メイドさんを雇っている。
しかし180年前って初期の頃の服って傷まないのか?と言うと、この世界の服は完成品を魔法で品質保持のコーキングするので一般的なので、良好な保管状態なら1000年以上は楽勝でもつのだ。
曽祖母から受け継いだ服を曾孫が着るなんて結構ザラな話しだ。
「フローズブランドの服の最大の売りは保存技術が世界一な事ですからね!
最低でも子孫5代は受け継げる様に作られております」
めっちゃドヤ顔のフローズ。
こんな感じで地球とは全然違う服事情で1着の服の値段も平均は50万円(相当)と、かなりお高い。
高い服になるとエリカの言う通りに余裕で家が買える金額になる。
これ商売として成り立つのか?と言うと、縫製工房での普段の作業は新品の服を作るより傷んだ服の修繕業務の方が圧倒的に多い。
そして服が高くて買えない低所得の人々には国王や領主が責任を持って服を配給するのが当然とされている。
なので庶民が着ている服の品質や配給状況が悪い国や独立領は「ダメな統治者が治めている」との烙印を押され商人から嫌遠される。
最悪のケースでは「王が民への服の配給を疎かにして、ほとんどの住民が逃げ出して国が滅んだ」事も有りシャレでは済まされない国政においての重要項目なのだ
そりゃ真冬にパンイチの国なんて皆んな逃げ出すわな。
ラーデンブルク公国が「フローズブランド」に年間200億円(相当)の大型投資を行い、魔族が仕掛けた企業買収に揺れている縫製工房を心配して、お姫様のイリスを視察に送ったのもこれが理由だね。
裕福な日本では「衣食住」の「衣」の概念が低下しつつあるが、「衣」の政策を一つ間違えると国が滅ぶレベルの大変な事になるのだ。
今回の帝都でのファッションショーは「戦時下でも絶対に民を裸にはしない」との皇帝の意思表明も兼ねているので「帝立大演劇場」を使い大々的に行うのだ。
「うう・・・そんな話しを聞かされたら私の「ブリキ魂」が・・・」
「エリカ?!落ち着け!ビークールだ!そんな魂なんて捨ててしまえ!」
「エリカさぁーーーーんん?!」
そんなデケェ話しだと知らなかったエリカは緊張の余りに「ブリキ魂」が目覚めてガチガチになっていった。
「エリカ・・・一緒に舞台中央で立とうね!」エリカのブリキ復活を喜ぶイリス。
エリカの運命は如何に?果たしてイリスと共に舞台中央の置き物となるのか?!