35話 「フェンリル王とグリフォン王との会談 その2」
『全て話すと長くなるので、ヴァナルガンド君の事からお話しします』
代理女神ハルモニアがアース神族とフェンリル族との古にあった出来事の話しを始める。
『先ず世界樹ユグドラシルはアース神族の神力で誕生するのは知っていますか?』
「漫画やゲームを散々やっていたので分かります。
最初から不思議に思っていたんですよね?天空のオリュンポス神族のハルモニアちゃんが大地のアース神族に縁があるユグドラシル様の世界の管理をしている事に」
即答するエリカ。
『さ・・・さすがエリカ。
そこまで詳細に天界の事情を知ってる事に私もドン引きです』
「いや!いきなり何の話しなの?!って「まんがとかアニメ」って何?!何かの聖典とか?!」
めっちゃスムーズに宇宙の真理を語り出すエリカに度肝を抜かれるイリス。
「そっか、イリスはオリュンポス神族とアース神族の神話を知ってる訳ないよね。
分かり易く言うとね?「この世界を作った神様」と「この世界を管理している神様」は違うって事だけを理解していると良いと思うわ」
「・・・エリカって本当は何者なの?!本当は異世界から来た神様なの?!」
いきなり世界の深淵の話しをされて慄くイリス。
「向こうに居た時は女子大生よ?人間の学生やってたっての」
「だから何で学生がそんなに神様に詳しいの?!」
「うーん?イリスに日本の「オタク文化」の説明は難しいかぁ。
要するに神様大好き人間達が様々な国の神様の研究とかを色々としているのよ。
世界各地の神様関連の古文書や聖書や聖典を長年に渡ってあらゆる角度から研究を続けて分かった事を共有して皆んなで楽しんでいる・・・で良いのかな?」
「日本人は神様を使って遊んでいるの?!そんな不敬をして天罰とか受けないの?!」
『ああ・・・日本人の「オタク」文化は神々にもメリットが有る遊びだから殆ど黙認されていますよ』
超アッサリと日本人の神の名を使った遊びを容認する女神ハルモニア。
むしろ新しい世代に布教が進み感謝しているとの事。
大事なのは真名を人間に呼ばれる事で内容はさほど大事では無いので擬人化だろうが萌えだろうが大丈夫らしい、何なら「嫁」でもOKだ!
何せ「オタク」は布教なんぞせんでも勝手に自分の信者が増えるので、むしろドンドンやれ状態らしい。
「そう・・・なんだ???」
エリカの言う通り、戦後の日本のオタク文化は世界に拡散されて近代になり忘れられつつあったマイナーだった神々の名まで世界中に爆散されているのだ。
特に大戦時やその後に起きた各地の動乱で失われた世界各国の古い神話や伝承の書物の複写が何故か日本に大量に保管されていた事も大きい。
どうやら明治維新後、福沢諭吉の主導の元で集められたらしいが真相はハッキリと分かっていない。
漢書に至っては、文化大革命時にほとんどが焼き払われて日本にしか複写が残されておらず中国の学者が日本にまで来て研究をしている。
いや!自分達の歴史を焼き払うとかお前らマジで何してんのじゃい!と心底思う作者なのだ。
これは国民性なので仕方ない所は有るのだが・・・
《ソウデスネー、オカゲ様デ私モ「オタク」ニハ救ワレテマスカラネー》
日本のオタク文化の恩恵をモロに受けたアラクネーさん。
そして北欧神話の神様やオリュンポス神話の神様だけで無くヒンドゥー教の神様も大好きな日本人・・・
日本人が「オタク」を使ってヒンドゥー教の神々の名や梵字を世界中に拡散をしまくった結果、「梵字って凄えカッケェ?!めっちゃ芸術的じゃね?!」と西洋諸国の人々にも大ウケして、ヒンドゥー教や梵字が衰退しつつあった本家のインドでも古来よりの自分達の神様や梵字を国を上げて見直す事態になっている(マジ話し)
「日本人が怖くなりました・・・」イリスもオタクパワーに絶句している。
「何で?!神話って楽しくない?!浪漫しかないじゃん?!」
「いや神話って楽しむモノなのかなぁ?」
神話とかは崇拝に用いる為のモノだとイリスは思っていたので自由奔放なオタク文化をイマイチ理解出来ない。
「楽しむモノです、イリスも神様の浪漫にハマれば分かります」
「えー?神様て浪漫あるかなぁ?」
『イリス?!浪漫と言う言葉自体が神から発祥ですよ?!』
「そうだ!今度、「新ハルモニアちゃん物語」を書いてあげるわね!
アレスとアフロディーテの娘さんなんて創作意欲が滾って来るわ!」
『なんか自分でも忘れてる事までエリカなら知ってそうで怖いです・・・』
エリカと「ハルモニアちゃんクイズ100問」をやれば本神なのに負ける自信がある女神ハルモニア。
「この話題は放っておくと一晩中語れるので、お話を戻して下さいハルモニア様」
いつまで経っても話しが進まないのでピシャリと〆るヴァナルガンド。
『そうですね・・・後はエリカとイリスで存分に語り合って下さい。
アース神族の神力で誕生した世界樹ユグドラシルは1万年周期で「種」を飛ばします。
ほとんどは定着する事は無いのですが、この世界には定着して新たなユグドラシルが誕生したのです。
それが貴女達の知る「霊樹ユグドラシル」なのです』
「えーと?私達の知るユグドラシル様はオリジナルのユグドラシル様では無かったと?」
『いいえ、どちらのユグドラシルも本物ですね。
種が芽吹いた時点で自我が芽生えて独自の世界を構築しますので。
なので「種」を飛ばしたユグドラシルも基本的にはこちらの世界に不干渉なのです』
「・・・凄い!ドンドン増殖するユグドラシル!!新たな妄想のネタが!!」
『言い方ーーーー?!』
「エリカーーーー?!』
さすがにエリカの物言いは我も不敬だと思います。
『コホン・・・そしてここからが問題なのです。
この様に自然発生した霊樹ユグドラシルを管理する事がアース神族にも出来ないのです』
「なんで?!」
『天界が神手不足だからです。手が回らないのです。忙しいのです!泣きたいのです!!
また地球でも混沌が発生しているのに、こちらでも問題ばっかり!』
ドンドンとボルテージが上がる女神ハルモニア、ストレス溜まってんなぁ・・・
「あっ、そこは今は関係ありませんよハルモニア様?」
『あっ、はい。
しかし完全に放置するのも心苦しいのでアース神族も頑張って眷属のフェンリル王をユグドラシルの補佐として派遣して更に補佐の補佐に自分の分身体を付けたのです』
「ええ?!つまりヴァンちゃんは?!」
「そうですね、私は「女神フレイヤ」の分身体になりますね」
「ええ?!」「女神フレイヤぁああああ?」「きゃああああ?!」
自分の息子が「女神フレイヤ」の分身体だと知って驚いたフローズ以上に反応するエリカ。
耳元で叫ばれて驚くフローズ・・・お前どうしたん?
「凄い!ハルモニアちゃんだけでも凄いのに「女神フレイヤ」まで登場!この世界凄い!
オリュンポス神族にアース神族の夢の饗宴!!これはご飯が捗るわぁ!!」
大好きな女神フレイヤ登場に大興奮のエリカ。
「エリカ!うっさい!」
「あっ、はい、すみません」興奮して騒ぎ出したエリカを〆るイリス。
「ふふふふ、エリカ様は本当に神が好きなのですね」
クスクスと笑うヴァナルガンド、女神フレイヤの分身体と分かった途端に男なのに美しいと思えるから不思議だ。
「でもヴァナルガンドさんは女神フレイヤ様??の自覚はあるんですか?」
異世界に住むイリスにとっては超有名な女神フレイヤでも初めて聞く神様なので何が凄いのか良く分かっていない。
「自覚と言う点で聞かれると私には女神と言う自覚は全くありません。
フレイヤの記憶だけは有るのですが私の精神は完全に男性です。
実は私、自他ともに認める大の女性好きなんですよ。
本体からも叱られるのですが、この癖は治りそうにないですね」
「そ・・・そうね。
毎日毎日、魅了を使って違う女性を連れてるヴァンちゃんが女神様と言われてもピンと来ませんね」
「人聞きの悪い事を言わないで下さいフローズ様・・・
私は女性を口説く時は絶対に魅了を使わないポリシーなのです」
「そ・・・そうなの?ごめんなさい」
「ええ?!ヴァナルガンドさんは女誑しなんですか?!」
こんなに美しいならBLも有りなのか?!とか思っていたエリカはちょっとガッカリだ。
「何となくそんな気配がしたから聞いたのよ?」
「魅了」のスキルを持つイリスはヴァナルガンドから自分と同様の気配を感じたのだ。
ちなみにイリスとヴァナルガンドが魅了を撃ち合うとどうなるか?
多分、お互いに魅了に掛かって収集が付かなくなるだろう。
スキルを持っているのと耐性が有るのは別のベクトルなのだ。
「はい、立場が無かったらエリカ様やイリス様を口説いていたと思います」
真のプレイボーイとは、自分が女誑しだと隠す事が無いと言う。
それで相手が嫌悪感を抱いてダメなら、「そうですか?では、さよなら」で良いからだ。
「悪いがエリカは俺の「妻」だからな、他を当たってくれ」
「それは大変失礼しました、委細全て承知しましたロテール様」
「ロテール君?!」
「ええ?!2人共結婚したの?!そこはちゃんと教えてよ!
私にだってご祝儀とかの準備もあるんだからね!」
確かにいきなり親友に「結婚しました!」とか言われると「前もって言えや!」ってなるよね。
「してない!まだ結婚はしてない!」
『あの・・・私も忙しいのでお話を先に進めて良いですか?』
「あ・・・はい、すみません」
前後編で終わる予定だったのに、まだまだ終わらない会談、ホントに誰のせいだよ?
『全て変態神のせいだと思いますよ?』