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32話 「フェンリル王フローズと縫製工房」

フェンリル王フローズの巣穴の中に案内された魔王エリカ御一行様。

御一行様は巣穴の中を見てあまりの光景に唖然している。


《ほ・・・縫製工房???》

大きな空間に並ぶ、服服服服服服服服服服服服服服服服服服服服服服・・・・

高級ドレスから、一般向けの子供服までありとあらゆる服が並んでいる。


しかもどの服も素人目でも良いモノだと分かる。


《なっ・・・なぜ北極に縫製工房が???》


《北極圏は湿度が低くく水源も豊富で布の生産に適しているのです。

ここは10年前に作った北極区工房第15工房ですね》


今は真冬で吹雪いているが春から秋までの8ヶ月間の北極圏はカラッとした良い天候が続く。


夏場は雨もほとんど降らないのだが冬場に降った雪解け水が大量に地下水として有るので水不足とは無縁の土地なのだ。


つまり大量の水を必要とする布の染色が凄くやり易い土地柄に加えて、今までは寒冷地だと言う事で住んでいる者も少なく大規模な土地取得もやり易かったので自然と縫製工房が増えて行ったらしい。


工房で働いている者達を良く見ると人化したフェンリルだけで無く、人族、エルフ、真魔族、ドワーフ、ガルーダなどなど様々な種族の契約派遣の職人さんが居る。

これは縫製技術取得の専門学校も兼ねているとの事。


《働く者が増えたので各工房の中心部に街を作ったのですが、とうとう街の住人も10万人を超えましたね》


《マジですか?10万人?

い・・・今の北極圏がそんな事になっているなんて・・・》


エリカ達は拠点の立地の関係上、西側からの北極圏入りしたので気が付かなかったが本来の通商街道は東側でその街道沿いには、別資本のたくさんの縫製集落(別名、服の街道)が有るとの事だ。


「すっげーーーー、こんな大量の服見たの始めてだぜ俺」

今まで見た事ない華やかな光景にアホ面になるロテール君。


《それに、じゅ・・・15?・・・こんな大規模な縫製工房が北極圏に15箇所も有るんですか?》


《我々の最新の生産工房でしたら第26工房が昨年稼働しましたね。

他所様の工房も合わせると、大小120以上の工房が北極圏で稼働してますね》


《ふへぇ~???》

最果ての未開の土地だった北極圏にこんな服の大生産産業地域が出来ているとは知らなかったエリカ。

モフモフで分からないが、おそらくエリカも相当なアホ面になっているだろう。


しかしなぜ、そんな北極圏にまでエリカが派遣された理由がまだ分からない。

この服の工房とエリカ派遣の関係性もイマイチピンと来ないしフェンリル王とも繋がらない・・・


そしてその答えの主の軽快な足音が聞こえて来る。


タッタッタッタッ


奥から品の良さそうな銀髪の貴婦人が急ぎ足で魔王様御一行に近寄って来る。

その婦人をジーと見て・・・「ふんぎゃあ?!」と驚くエリカ。


《・・・・・・!!!!!!!!フローズさぁーーーーんん?!?!

いや待て!!フェンリル王『フローズ』・・・・ああーー?!フローズさんだぁあああ?!》


ここでフェンリル王フローズがようやく自分の知り合いの「フローズさん」だと分かったエリカ。


「エリカさん!お久しぶりですね、お待ちしておりました!「フローズブランド」の工房までようこそおいで下さいました!」

エリカに近づきニッコリと笑うフローズ。


「丁度出荷待ちで今は工房の中がごちゃごちゃしてて・・・ごめんなさいね」


「ああ!!そうかあ!ここ『フローズブランド』の工房なんだ!》

ようやく全てに合点がいったエリカ。


『フローズブランド』・・・・世界シェア55%を誇る、世界NO,1のファッションブランドである。


赤ちゃんの靴下から王族の婚礼用ドレスまで服関連なら全ての分野を手掛ける世界的な大企業なのだ。

まさかそんな大企業のオーナーがフェンリル族だと思いもしていなかったエリカ。


さて、なぜそんな衣服界隈のドンとも言えるフローズとエリカが知り合いなのか?

過去に何があったのか?のお話しをしましょう。


それは昔、エリカは勝手に立ち上げた「イリスブランド」の名前を売り込む為と運営資金調達の為にあっちこっちの大企業に営業をしていた。


そして『フローズブランド』のオーナーであるフローズに知り合いの商人を介して渡りを付けて営業した事があった。


大企業のオーナーの割に気さくなフローズと意気投合して様々な衣服関係の生産下請けの契約をゲットした。


そして


丁度エリカが営業した時期に「どなたか美しいエルフの方を探しているのです」とエルフのモデルさん探しに苦慮していたフローズ。


「はいはい!居ます!家に美しいエルフが居ます!」喜び勇んで手を上げるエリカ。


そう言ってファッションモデルとしてイリスをフローズに売り飛ばした事があったのだ!・・・いや!お前マジで何してんの?!それ人身売買じゃねえか!


その後、売られイリスは3年に渡り世界各地で行われたフローズブランド主催のファッションショーで「展示」された。


何で「展示」かと言うと緊張癖のあるイリスにモデルとしての才能が皆無で、ショーの時に歩く姿はブリキのロボットだった。


ファッションモデルとしては致命的だが美しいイリスを逃したくなかったフローズ。

代案として仕方なく、ただ新作の服を着せて舞台の中央に立たせたのだ。


そのガッチガチに緊張したマネキンイリスの周囲をモデルさんが悠々と笑顔で歩く演出がされた。


緊張のあまり真顔になった美しい無表情イリスのおかげで優雅に微笑むモデルさんが素晴らしく映えて、凄く良いプロモーションになったとフローズは大喜びした。


その後の契約の3年間でイリスにモデルとしての才能は、全く全然開花する事は無かった・・・


当時の事をイリスに言うのは地雷で、その話題を言うだけでイリスは問答無用でマジギレする。


このブリキロボイリスはエリカも意外で思わず、

「ええ?!イリスって大人数での舞踏会でも「荒ぶるな、少し落ち着けよエルフ」ってくらい動けるじゃんか?!」

と言ってしまった所・・・・


「舞踏会は何だかんだで、ほとんど知り合いばっかりでしょ?!

全く知らないギラギラした営業の目で見る大勢の人達に囲まれるとは訳が違うよ!

そんなに言うならアンタもやれぇ!!」


盛大に地雷を踏み抜いてしまったエリカは、今度はガチギレイリスにモデルとしてフローズに売り飛ばされた・・・


結果は、まぁ・・・ファッションショーでの展示物が2点に増えたとだけ言っておこう。


窃盗犯罪に巻き込まれて、前科と借金を背負わされ、挙げ句の果てにお互いに人身売買をやり合う・・・なぜイリスとエリカは親友でいられるのか謎ではある。 


そんな当時の事をドンドン鮮明に思い出して顔を青ざめさせるエリカ。

今回の件には、と有る隠された謀略が潜んでいる事が分かって来たからだ。


《お・・・おのれ魔王バルドル・・・また私を売り飛ばしおったな》


はいそうですね、魔王バルドルは当然ながらイリスとエリカのファッションモデル騒動の件は知っているし、フェンリル王フローズと『フローズブランド』のオーナーのフローズが同一狼である事も知ってますね。


そのエリカの予想を後押しするフローズ。


「それで早速ご契約の件ですね。

こちらからの提案は「男性1人、女性2人のファッションモデルさん」をこちらへと派遣して頂く事。

それに対してそちらの提案は「魔王エリカの存在」をフェンリル族として認める事。

でよろしかったですね?


そして最終契約成立として、こちらが魔王エリカをフェンリル族として公式に認める代わりに、エリカさんとロテールさんとアラクネーさん?!?!をモデルとして『フローズブランド」へと派遣して貰えると言う事でよろしいですね?」


おそらく魔王バルドルから送られたと思われる最終契約書を見ながら契約の趣旨の説明をするフローズ。


《わあああああ?!何か!何かおかしいと思ってたんだぁ!!

フェンリル王は「可愛い女の子が好き」では無くて「可愛い女の子をモデルとして欲しい」だったんかぁ!!


それに急遽、同行者が変わったのは「自分達でモデルをしたくなかった」からかぁ!

おのれ!おのれぇ!魔王バルドルーーー!!》


言葉遊びでまんまと魔王バルドルに嵌められた魔王エリカ。

まだまだエリカも甘いのぅ。


騒ぐエリカを尻目にドンドン話しを進めるフローズ。

経営者として海千山千の彼女は多少の苦情など無視無視無視なのだ。


「早速、次のショーへ向けて衣装合わせ致しましょう!」


《「可愛いお洋服を作って待ってます」ってそう言う意味だったんかぁ!

ああーーー!!やられたぁああああ!!》


「へえ~、ファッションモデルってか?面白そうじゃん?」


絶望感に打ちひしがれるエリカに対してロテール君は案外乗り気な様子。

そしてアラクネーさんは・・・・・・・・あれ?アラクネーさん?


アラクネーさんは、超真剣な目で並んでいる服を見ている。

その目は・・・・・・・・・・・・・・・職人さんの目?!


《マダマダ荒削リナ所ハ有リマスガ素晴ラシイ。

ドノ服モ、トテモ丁寧ニ作リ込マレテマスネェ》


「まあ!さすが「天界の織姫」のアラクネーさん!分かりますか?」

そう言えばアラクネーさんの本業は機織り師だったな。


《ハイ、私モ久ジブリニ服ヲ作リタクナリマシタ》


「それはそれは!では是非『フローズブランド』とご契約を!」

アラクネーさんが裁縫職人として引っ張られた?!?!


《エッ?!ウーン?ソウ・・・デスネェ?ヨロシクオ願イシマス??》


水が流れる様に即決で人材を確保してしまうフローズ。

大企業のオーナーとは伊達や酔狂では無いのだ。


「あれ?アラクネーさんがモデルにならないなら女性1人足りなくならね?」

一応契約では、女性2人のモデルだったがフローズが自分から変えたので大丈夫じゃね?

フローズもそう思ったのか・・・


「その点は何とかやり繰りしますので大丈夫ですよ」と答えたが?


《わたくしにとても、とおーても良い服案がありますわ》

ここでグリフォンロードのコンちゃんと令嬢が混じった妙な感じのエリカがしゃしゃり出る。


最早モデルから逃げられないと悟ったエリカは、「自分だけ不幸になってなるものか!」とばかりに「ブリキロボ」の召喚を決意したのだった。

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