28話 「2人の悪い子」
どんな因果が働いたのか普通では絶対に起こり得ない次元を超えて別世界の亜神2柱の世紀の模擬戦の開始のカウントダウンが始まる。
どんな因果もクソもイリスとエリカの因果が起こしたモノなのだが。
その因果に巻き込まれた、と言うかその因果に嬉々として自分から突撃をかました魔王バルドルは嬉しそうだ。
何せ自分より格上の存在と戦える機会など、この先、万年単位で無いのかも知れないからだ。
対するアラクネーさんだが、いつもにも増して無表情なので何を考えてるか全然分からない・・・
ただその場でトントンと飛んでいる。
「なんか・・・バルドルさんが変・・・」
魔王バルドルは表情が豊かで割と表情から心情を読み取れるのだが、今の笑顔がどんな心境から来ているのか読み取れないイリス。
すると「カラーンカラーン」とベルが鳴りトトカルチョ申し込み終了を知らせる。
2億円(相当)の配当金に目が眩み、普段トトカルチョに参加しない連中まで賭けたので総額が3億円(相当)近くまで膨れ上がっている。
魔物達も「私利私欲」の概念を得たのだ!
余り良く無い概念にも思えるが私利私欲が無ければ発展もしないのが事実。
聖人君主だけの世界は面白くないのだ。
その私利私欲の為にアラクネーさんと戦おうとしているバルドル。
今の彼は魔王ではなく、ただの武芸者なのだ。
ここで人族なら審判とかの開始の合図とかが有るが魔物にはそんな洒落たモノは無く戦う者が勝手に始める。
「やっと賭け終わったか」と言わんばかりにバルドルの魔力が膨れ上がる!
アラクネーさんもトントンを止めて腰を落として居合いの様な構えを取る。
模擬戦の開始である!
「real mastermimd 」
バルドルは吸血鬼の真祖固有スキル「影の支配者」を発動させる。
これは周囲の空間に自分の闇の魔力を流して空間を支配して、ありとあらゆる場所から魔法を発動させる技だ。
「ふえ?!」一気に大気の質が変わり「影の支配者」初見のイリスは思わず悲鳴を上げる。
今、この瞬間にイリスの魔法行使が不可能になったのが分かり悲鳴を上げたのだ。
イリスの魔力がバルドルに支配されてしまった。
「テレサは?魔力は大丈夫?」
「え?別に何とも無いわよ?イリスこそどしたん?」
イリスの質問にキョトンとしているテレサ、これは単にバルドルからイリスへのお仕置きなのだ。
「えへへへ・・・バレてた見たい」
バルドルが自分に気が付いてくれてないと思い寂しく思っていたが、しっかりとバレてた事を知り照れ笑いをするイリス。
ドンドン魔力を送り続けるバルドル。
対するアラクネーさんは表情を変えずにその場で神力を高めてバルドルの出方を伺っている。
本当の戦闘ならアラクネーさんはバルドルに切り掛かり「影の支配者」の妨害をするのだが、今回はお遊び、盛り上げる為に放置して待つ。
模擬戦会場の空間が全て魔王バルドルの支配圏になりバルドルの魔力が充填されて行く。
「うむ!良い魔力操作だな」うんうんと頷いているマクシム君。
《ひえええええ??これ爆発しないよね・・・しないよね?!》
分かっていたが魔王バルドルのやば過ぎる魔力量に慄くエリカ。
エリカやイリスの最大魔力量は同じくらいで、現時点で魔王バルドルの魔力量は2人の3倍程になっている。
極大魔法3発は撃てる魔力量だ。
「うーん?・・・・・・・・・・・・大丈夫だろ?多分な!」
《多分なんかい?!》ここは自分の巣穴なので壊して欲しくないエリカだった。
そして本来なら会場は闇に包まれるのだが、アラクネーさんの視界防ぎたくないのと観客のテンションを下げたくないと思ったバルドルは闇の属性を光の属性に変えている。
そのおかげで観客からも2人の動作が全てが丸見えだ。
敢えて自分の秘技を全て見せてくれるサービス精神も旺盛なバルドルである。
「え?バルドルさんって光属性なの?ヴァンパイアなのに?」
ヴァンパイアは光属性に弱いのは本当なのだが、真祖になると話しは別だ。
「え?ええ~?どうなんだろ?」
まだまだ若い天龍テレサはイリスの質問に答えられない。
イリスのこの時の属性に関する疑問が解き明かされるのはかなり未来の話しになる。
《アラ?私ハ蜘蛛ヨ?別ニ闇ノママデモ良カッタノニ?》
アラクネーも闇属性(ぶっちゃけると闇属性=全属性)なのでバルドルの闇の影響での視界不良は最低限なモノになる。
「まぁ、一応な・・・さて準備はよろしいか?アラクネー殿?」
《イツデモドウゾ》
「では!参る!holy spear!!」
先ずは小手調べ!200本の「光の矢」を両手の掌から撃ち出すバルドル。
パン!パン!パパパアン!パンパン!パァーーーン!!!パン!
正面から広範囲に展開してアラクネーさんを目掛けて着弾を始める光の矢!
模擬戦なので魔力操作や速度は全開だが魔法の威力は最低限に抑えている。
しかし1発の威力は拳銃の弾程度の破壊力があるのだが。
バルドルクラスの術者の魔法の矢ともなると魔力密度レベルが高いので亜神のアラクネーさんでも直撃すると結構痛い。
攻撃を受けたアラクネーさんは、ほぼその場から動かず最小の動きで光の矢をかわしている。
スッスッスッと足の動きだけで200本の矢をかわす。
パン!ババン!パン!アラクネーさんの動きが早すぎて残像が見える!
うおおおおおおおおお?!ノータイムで200本の矢を撃ち出された事を全く意に返さず体術だけで余裕でかわすアラクネーさんに会場も響めく。
しかし・・・
パン!パン!パン!パン!
「おや?」バルドルが間抜けな声を上げる。
残り4発になってアラクネーさんの動きが急に止まり4発の光の矢がアラクネーさんの身体に直撃したのだ。
うおおおおおおおおおお?!?!これには更に響めく会場。
《ウフフフフ・・・遠距離カラ5発当テナケレバ貴方ノ負ケデショウ?
ソンナノ勝チガ見エテテ楽シク無ワ・・・
ドウセナラ私モ貴方ノ本気ヲ見セテ欲シイワ。
貴方は本当ハ接近戦ヲシタイノデショウ?》
ここでようやくアラクネーさんが剣を抜く。
《知ッテルワ、貴方ノ正体ガ「魔法剣士」ダト言ウ事ヲ・・・
オ互ニ魔法有リデノ本気デノ一撃剣技勝負ニ変更シマショウ?》
ニコリと笑い剣先をバルドルに向けるアラクネーさん。
アラクネーさんも自分と同格の亜神のバルドルとの勝負が楽しみで仕方なかったのだ。
どうせならトコトンまでやって見たいのだ。
それを聞いたバルドルは・・・
「くくくく・・・ははははは!!!わぁははははははは!!!そうかそうか!
それは失礼したな!わははははははは!!!」楽しそうに大笑いを始めた。
「あ・・・昔に戻ったぞアイツ?」
「あら嫌だわ・・・せっかく障壁を追加で埋めたのに・・・これじゃエリカのお部屋が壊れてしまうわ」
《ええ?!壊れるんですかぁ?!》自分の寝床の破壊を告げられるエリカ。
「良いぜ!トコトンやろうじゃねえか!アラクネー!」
マクシム君と喧嘩ばっかりしていた若い頃の不良少年に戻ってしまったバルドル君、つられて口調も悪くなる。
《期待シテルワヨ!バルドル!!私ヲヤレルモノナラ、ヤッテ見ナヨ!!》
アラクネーさんも女神アテネと喧嘩ばかりしていた頃の不良少女時代に戻ってしまった?!
これは・・・世紀の亜神の対決のはずが世紀の不良対決になってしまったそ?!
『きゃああああ?!またクロノス様やゼウス様に怒られますよぉ?!
止めなさーーーい!アラクネー!
アテネ様!アテネ様ーーー!!バルドルも止めなさーーーいい?!」
いきなりエキサイトし始めた喧嘩に、どこからともなくパシリ女神の悲鳴が聞こえたが気のせいだろう。
「Executioner's sword!!!!!」いきなり召喚魔法を使うバルドル。
バシィイイーーーンンンンン!!!バリ!!バリ!!バリィイイインンンンン!!!
スパークを起こしながらバルドルの頭の上の空間が裂けて超禍々しい長剣が姿を現す!!
「うええええ?!」突然の展開にイリスもビックリだ!
バルドルが召喚したのは真魔族の古からの宝剣「処刑人の剣」だ!
《凄イワ!凄ク良イ剣ネ!!ナラ私モ!!来ナサイ!「アダマス!!」》
バシィーーンババババ!!バリバリバリーーー!!!
『天界門』?!?!が開かれて中から天界より「神剣アダマス」が召喚される!
『いやーーーん!!アテネ様ーーー!!アテネ様ーーー!!
許可もなく『天界門』を使った悪い子がここに居ますよぉ!!
大事な事だから2回言いますよぉ!悪い子が居まぁーーーーすぅ!!!』
『天界門』の無断使用・・・『神剣』の無断使用・・・悪い子だぁ!!
このクソ忙しい時に悪い子への「監督不行き届き」で「始末書」の作成が確定した女神ハルモニアだった・・・
そしてやっぱり誰にも話しを聞いて貰えないのだ。
ちなみに女神ハルモニアの声を聞いてアラクネーの暴走を知った女神アテネは見事なストライド走法で銀河系の外に逃げてしまった?!
コラァ!逃げんなぁ?!お前にも「任命責任」ってモンが有るだろう!!
「・・・・・・・・・・・・・」
神話に出て来る武器を間近で見てあんぐりと口を開けてまま固まっているイリスだった。