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16話 「イリス、女王へ向かって」

「先ず、スペクターとの直接決戦は全力で避けます」


「え?!」

この世界の戦略の基本「戦いは直接決戦で」との考えからは真逆のエリカの作戦に思わず声が出るイリス。


「物資に不安が有るスペクター側に合わせて自分達の拠点で短期集中決戦に挑むなど愚の骨頂です。

最終的には決戦に挑みますが少なくとも30年は決戦を避けて彼らの物資を更に枯渇させて焦りと士気の低下を狙います」


「ええ?!でもスペクターは間違い無く近い内にヴィグル帝国首都に攻め込んで来るよ!

エリカも言ってるじゃん!「彼らの物資には不安が有る」って」


今の状況なら当然スペクター達は短期集中決戦を挑んで来るのは明白だ。


「なら一時的にでも彼らに物資を与えれば良いだけです」


「どうやって?・・・・・・・真面目に話してよエリカぁ・・・」


何か適当な話しをされて自分がエリカに馬鹿にされている気分になって泣きたくなるイリス。


「真面目も真面目、大真面目です。

これについてはもう動いています、真魔族によるスペクターとの物資貿易が開始されています」


「ええ?!そんな話し師匠からも聞いていないよ?!」


「そりゃ当然、極秘の密輸だからね。

金に目が眩んだ真魔族の政府高官がスペクターに大量の食糧を売り捌いている・・・と言う設定です」


「真魔族の政府高官?って・・・誰の事??」


「マクシムさんよ」


「うええええええ?!マクシムさんーーーー?!

どう考えても有り得ない話しなんですけどーーー!!」


確かにあの超変人な元魔王のマクシム君が「横領」なんてショボい事をするとは、とても思えない。


だがしかし?


「その有り得ない人物が横領をしている事でスペクターは真実味を感じるのです。

無欲な元魔王で魔王バルドルからも警戒されていない変わり者のマクシムさん。

密輸相手としては最高の人物だと思いませんか?」


「た・・・確かにマクシムさんが密輸に手を染めてるって話しをしても誰も信じないよね・・・

それに一周回って、何でもやりかねない人物でも・・・ある、のかな?」


「マクシムさんは最近調子に乗って自分の意見を全然聞かない魔王バルドルを不満に思っていてバルドルさんを困らせ様と密輸して嫌らがせをしている事になってます」


「やりかねない!確かにマクシムさんなら、ただの嫌がらせ目的なら密輸をやりかねないわ!!」


「そうね、そう思ったのかスペクターも警戒はしているけどマクシムさんに乗っているわ。

なのでスペクターの食糧事情は少しずつ改善されつつあります」

エリカの話しでは真魔族もかなりガチで食糧をスペクターに回しているとの事だ。


「でもそれってスペクターの力が増して侵攻をかえって早めかねないんじゃないかしら?」


食糧に不安が無くなったスペクターが満を持してヴィグル帝国に攻めてくる可能性だね。


「その可能性が充分に有るので今度は私の出番なのですね」


「え?」


「私の魔物統一戦争の最初の行動はスペクターのお膝元でもある北の大陸に拠点を置く「ミノタウルスの王」に喧嘩をふっかける事です。


「えええええーーー?!」


あまりにも無謀なエリカの作戦に目眩を覚えるイリス。

ミノタウルスの王は、バリバリのSSSランクの世界制覇をしそうな魔王の1人だからだ。


「絶対にダメーーーーーーーーーー!!!

貴女を拘束してでも絶対に行かせないからねエリカーーーー!!!」


「うふふふふ、もしそうなったら大金星、世界中で大騒ぎになるよねぇ」

楽しそうに笑うエリカ。


「何を笑っているの?!絶対に許さないからね!」


「あはははは、心配しないでイリス。

ミノタウルスの王様と戦うのは私じゃ無くて、最近私の配下になった「黒騎士」だから。

私は後方で黒騎士の戦いを見学するだけよ?」


「黒騎士ぃ??そんな得体の知れないヤツがミノタウルスの王様に勝てる訳ないでしょう?」

始めて聞く「黒騎士」とやらの名前に怪訝そうな表情のイリス。


「それが多分、楽勝で勝てちゃうんだなぁコレが」


「本当に!エリカは何を言っ・・・あああーー!!マクシムさんかぁあああ!!」

ようやくエリカが何を言ってるか理解したイリスは思わず絶叫する。


「あははははは、イリスもやっと作戦の概要が分かった?」


「エリカは人が悪い!!今までのは全部、真魔族の作戦だったんだね?!」


「正解~」


「もおおおおお!!エリカの馬鹿ぁーーー!!」


すっかりと騙されていたイリス。

エリカは真魔族の作戦の一部分に組み込まれている雇われ魔王なのだ。

作戦の立案には協力しているが実行部隊は魔王バルドル・・・真魔族なのだ。


その気になれば簡単に世界制覇も出来んじゃね?と今までも言われ続けていた真魔族が魔王エリカを表向きの旗印にいよいよ本気で世界の表舞台に立つのだ。


魔王エリカの背後には130万のヴァンパイアの軍団とその傘下のゴーレム約350万体がデデーンと控えていると言う訳だ。

そりゃあ強気の作戦が立てれる訳だ。

これには最初に狙われるミノタウルスの王様も涙目になるだろう。


それに加えてエリカは「三龍王の承認も得ている」との先の発言。

この発言が意味するのは魔法世界全てがスペクターの神に真っ向から喧嘩を売ると言う事だろう。


「・・・・・・・はあ・・・これ勇者なんて要らなくない?」


「それが目的だからね、黙示録戦争ごと世界大戦を叩き潰すの意味は分かりましたか?」


魔王バルドルの方針が「そんな神々の代理戦争などをこの世界でやるなど言語道断!絶対に認めん!」なので出し惜しみはしない。


バルドルは倹約家ではあるがケチでは無い。やる時は徹底的にやる魔王なのだ。


そして三龍王も異世界の争いをこの世界に持って来られて非常に不愉快に思っている。

丁度良い機会なのでユグドラシル亡き今、一度世界の整理を行おうとの魂胆も有る。


「そしてバルドルさんからイリスにも伝言が有ります」


「・・・何となく分かるけど一応は・・・なに?」


「エルフ族をまとめて「女王」になれとの事です」


「やっぱり・・・そうなるよね」ガックリするイリス。

要するに「儂やエリカも働くんだからお主も働かんかい」との事だ。

イリスを女王に据えて勇者としての活動を妨害する狙いも有る。


「でも師匠やルナさんも居るし・・・」一応は悪足掻きして見るイリス。


「クレア師匠やルナさんが権力に固執するとでも?」


「思わない、逆に嬉々として私の女王教育を強化して来そうです」


「お互いに王様稼業を頑張ろうね」


「・・・・・・・・・根回しも含めて女王になるのに50年は掛かるからね?」


「じゃあ私は、50年の間に北の大陸と中央大陸を制覇しておくわ」


「本当にやりそうだから怖い・・・」


2大陸制覇は勿論エリカの冗談だが、何かエリカならやりそうな感じがしているイリス。

こうしてイリス&エリカのコンビは解消されてそれぞれが自分の目的に向かって動き始めたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イリスと別れた2年後、魔王エリカは北の大陸のミノタウルスの支配圏に侵攻を開始した。

無名の魔王登場に世間は少し驚いたが、どうせ魔王エリカは負けるだろうと特に気にする事はなかった。


ワアアアアアアアアーーーー!!!開けた草原で激突している両軍。


魔王エリカへの世間の評価とは裏腹に実際に攻撃を受けたミノタウルスの王は焦っていた。


「おのれ!魔王エリカめ!右に左へと忙し無い奴め!」


攻め手の魔王エリカの軍はグリフォンを主力としているが多種族編成の混成軍5000。

対するミノタウルスの軍勢は純粋なミノタウルスが15000ほど。

魔物同士の戦いは数では測れないが数が多いミノタウルス勢の方が有利なのは間違いない。


しかし相手がどんな隠し玉を持っているか分かったモノでないのでミノタウルスの王様は数の暴力と先制奇襲攻撃で一気に押し潰しに入ったのだが魔王エリカ軍に上手くかわされてしまう。


「魔王エリカの軍勢はえらく統率が取れてますねぇ。

ありゃ相当訓練されてますよ?団体の訓練をサボるのが生き甲斐の俺達と違いますねぇ」


ミノタウルスは大雑把な武力馬鹿種族なので団体戦の訓練をメチャクチャ嫌う。

魔王エリカは、その種族特性を突いて一撃離脱の遊撃戦法を繰り返している。

だんだんとミノタウルス勢の陣形が崩れつつある。


「だよなぁ・・・ちょこまかと・・・俺達ミノタウルス向きじゃないわな」


魔王エリカの用兵術に感心しているミノタウルスの将軍の言葉に同意する王様。

魔物には人間の様な妙なプライドは無い、相手が強ければ強いと認めるのが普通だ。


魔王エリカの軍は龍騎士の様にグリフォンに兵士を乗せて行動をしているので地上戦力しか持たないミノタウルスの軍との相性が酷く悪い。


それに加えて肉体的には魔物の上位存在だが魔法技術がミソカスのミノタウルスは、空からの遠距離魔法攻撃でドンドン行動不能にされて行く。


「攻撃魔法に麻痺系統が多いのは我らを殺すつもりが無いのか?」


「多分、そうっすね。魔王エリカは俺達を取り込みたいんじゃないですか?」


「なるほどなぁ、随分と面倒くさい事を考えおるなぁ・・・

とは言え、そう簡単に降伏も出来んな・・・ここは魔王エリカに一騎討ちを申し込むか?」

兵士への手前上で無条件降伏は出来ないのだ。


元々、攻められたから応戦しただけのミノタウルス勢、兵士の士気は低く王様もイマイチやる気が無い。


向こうが殺し目的で来た訳で無いのなら早期終結を狙って王同士の対決でケリを付ける選択肢を取るミノタウルスの王様。

不必要な被害拡大を嫌うのは人間も魔物も一緒なのだ。


《良くぞ申した、ミノタウルスの王よ、我がお主の一騎討ちの相手を務めよう》

声が聞こえた方を見るとなんか黒い奴が真正面から堂々と歩いてやって来ている。


そして黒い奴の後ろにはビンタされて脳震盪を起こしたミノタウルス兵達が伸びている。


「おいおい、ヤベぇのが来たぞ?どいつもこいつもビンタで一撃KOかよ?」


「あー・・・こりゃあ大物っすね、もう帰っても良いっすか?」


「ダメに決まっておる・・・しかし・・・これはやる気が出て来たぞ!」

血の気の多いミノタウルスは強者を見ると燃えて来るのだ。


魔王エリカの巧みな用兵にストレスが溜まっていたミノタウルスの王様は嬉しそうに笑う。

ここに超重量級の戦いが始まったのだ。

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