8話 「イリスとエリカの恋愛事情」
霊峰シルバニアでトレジャーハンター達や岩盤職人達と出会ってから半年。
その時に知り合ったトレジャーハンターのローランとエリカが付き合い始めた他は特に何事も無い修行の日々を送っているイリス。
「へえええ??エリカって男性に興味あったんだ?」
えらくアッサリと彼氏を作ったエリカに少し驚いているイリス。
「そりゃ私だって男の子とお付き合いしたいわよ?
むしろ今まで私を何だと思っていたの?」
「だってエリカってば恋バナとか全然しなかったじゃない?」
比較的まともな恋愛観を持っているイリスはたまにエリカにそう言った話しを振るが気の無い返事しか返って来なかったのだ。
「気が無かったんじゃ無くって分からなかっただけよ?
だって私って前世でも男の子と付き合った事なかったもん」
「え?!そうなの?!」これは少し意外だったイリス。
「・・・はぁ・・・親が結構うるさくてねぇ・・・
中学,高校と私立の女子校だったし大学入ってから山ばっかり登っていたから」
ちなみにエリカが通ってた大学も女子大系列で男子学生は少なかったのだ。
言わずもがなエリカの旧実家は島津家所縁の歴史ある名門の家柄。
エリカはれっきとした、お嬢様だったのだ。
両親曰く「男性と付き合うなら結婚を前提とした付き合いをしなさい」と、なかなか自由恋愛をするのはハードルが高かったのだ。
「龍騎士隊イリスの中でも男の子に言い寄られた事無かったし・・・」
この点は仕方ない、龍騎士隊イリスは正規の軍隊だ。
隊内での恋愛は比較的タブーの分類に入る、これまた結婚をするなら話しは別なのだが。
そもそもエリカはグリフォンでスキルを使って人間に化けているだけなので人間の男性とは子供は作れない。
その結婚を前提としたお付き合いそのものが最初から破綻していたのだ。
「んん?これはちょっと心配になって来たぞ?
エリカって恋愛経験が皆無って事だよね?男性に騙されたりしないか心配」
「そんな事言ったってイリスだって男の子と付き合った無いじゃん?」
「そうなんだよねぇ・・・あれ?もしかして私達って結構ダメダメ??」
そんな訳で男性との付き合い方を既婚者でもある師匠のクレアに聞く事にしたイリスとエリカ。
「だっ・・・ダメじゃ!イリスとエリカはまだ嫁には出さん!」
恋愛相談をした途端に過保護なお父さんの様な事を言い出したクレア。
「結婚じゃ無くて男性との付き合い方を聞きたいのです」
イリスが聞きたいのは男性と上手く付き合う方法で結婚相談では無い。
「つ・・・付き?お主達・・・そんな淫らな・・・」
子供達の突然の成長に戸惑いを隠せないクレア、めっちゃオロオロしている。
《あっ・・・これ相談相手を間違えたわ》失敗を悟るエリカ。
「い・・・イリスはそう言った性交渉に興味が有るのか?」
「性交渉って・・・まぁ・・・それは私も健康な女の子なので当然有りますよ?」
健常者なのに性欲が無い方が不健全である。
「ふにゃあああ???」
ズバッと「興味有ります」と言い切るイリスに顔を真っ赤にして気絶寸前のクレア。
《師匠達の夫婦生活って一体?・・・》
思わず「クレア師匠夫婦の夜生活は大丈夫っすか?」と言いそうになったエリカ。
これ以上は「クレアがヤバい」ので2人は話しを切り上げたのだった。
「私の旦那様候補が・・・」
クレアかルナが男の子を産んでくれない事にはイリスの結婚相手が居ないハイエルフの結婚事情に肩を落とすイリス。
「いっその事、別の種族から相手を探して見たら?
今度、ローランと「ダンジョンデート」をするから知り合いの男性トレジャーハンターを呼んで貰う?」
前に冗談で「ダンジョンデート」をして見たエリカとローラン。
これが割と楽しかったので恒例のデート項目になっている。
何だかんだと結構な頻度でローランとデートをしているエリカ。
「うーん?そうだね・・・何事も経験かな?お願い出来る?」
珍しく他種族の男性に興味を示したイリス。
「OK、ローランに聞いて見るね」
「と言うより「ダンジョンデート」って何さ?」
デート項目の有り無しで考えたら「無し」だと思うイリス。
この辺でもまともな恋愛観を持っているのが分かる。
とは言え「郷に入るなら郷に従え」を実践して見る事にした。
「あっ・・・分かっちゃった?案外楽しかったよ?
2人きりだし静かだし、結界張ればキスもし放題だよ」
「キスぅ?!・・・何よ?問題無く仲が進んでんじゃん?」
「ただ残念ながら、ここまでなのよねぇ・・・
ローランも分かってて付き合ってくれてるから申し訳なくって。
何とか別の方法を使ってはいるんだけど・・・」
その「別の方法」とやらが何かはノーコメントでお願いします。
ただ一つ言えるのは見た目は人間の姿だが中身はグリフォンなのでキスより先に進むのは不可能だったとだけ言っておこう・・・残念。
「え?!出来ないの?!」
「やっては見たけどやっぱり無理だったわ・・・」
「やっては見たんだ・・・」
いつの間にか自分より遥かに前に進んでいるエリカにショックを受けるイリス。
しかしこの「ダンジョンWデート」がとんでもない大騒ぎになる事を2人はまだ知らない。
きっかけはシルフィーナが夫のガストンと朝食時に
「イリスとエリカ、ダンジョンでトレジャーハンターとデートするらしいですわ」
と、エリカから聞いた話しをポロリと漏らした事に始まる。
「へー?そうなんだ」
ガストンも余り気にしないでその日の晩に任務明けの龍騎士隊のメンバー数名と飲み会をしている時に酒の肴にデートの事を話してしまう。
「「「何だってーーーーーーー?!?!」」」絶叫する龍騎士達。
「え?!何か不味いかな?!」想像もしてなかった仲間達の過剰な反応に驚くガストン。
「不味いなんてレベルじゃねえよ!どこの馬の骨か分からん連中に隊長と参謀を取られる訳に行くかよ!」
「お互いに暗黙の了解でコナを掛けてなかっただけだっての!
こうなると話しは変わるぜ!俺も「ダンジョンデート」に参加するぜ!」
「隊長と参謀の争奪戦か?!俺も参加するぜ!」
「お前ら抜け駆けするんじゃねえよ!俺も勿論参加だ!」
「ええ?!そりゃダメだろ?!」
幾ら何でも人のデートに乱入は不味くね?と静止するガストンだが・・・
「妻帯者は黙ってろ!この果報者めが!!」
「独身者を舐めんじゃねぇ!この幸せ者めが!!」
「ええ?!すまーーーーん?!」
目が血走っている独身男の圧倒的なパワーに蹴散らされる勇者ガストン。
こうして「ダンジョンWデート」に緊急参戦が決まった龍騎士達。
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「何で余計な事を言っちゃうのですかぁ?!」
デート騒動が龍騎士隊の全体に広がって収集不能となり元凶を叱り飛ばすシルフィーナ。
「すまん!まさかこんな事になるとは・・・」これには反省し切りのガストン。
「皆んな今更何故こんなに騒いで・・・」
実は自分がモテモテだった事に困惑を隠せないエリカ。
「ローランさんは何て言ってるの?」イリスもかなり困っている様子だ。
「・・・「障害が有る方が燃える!」だって」
騒ぎが大きくなりエリカがローランにデートの中止を申し出た所、「龍騎士緊急参加?!何だそれ?!めちゃくちゃ面白そうだな!」と、何故だか龍騎士乱入に乗り気のローラン。
「せっかくなので私もミイを連れて参加します」
「お父さん?!意味不明なんですけどぉ?!」
リザードマンのロイの「ダンジョンデート」参加表明に訳が分からない娘のミイ。
何で親子でデートに参加すんねん?!
「お前はダンジョンでの戦闘訓練が充分ではない。
私がマンツーマンで教えて上げるから、この機会にしっかりと勉強しなさい」
「あ・・・そっちね。つまる所は修行なのね・・・」
甘いデートとは無縁になりそうなリザードマン親子だった。
「責任を取ってわたくし達も監視に行きますわよ?」
「あっ、はい同行させて頂きます」
「結局は全員来るんじゃないのよ~」
ちょっとデートが楽しみだったイリスだったが残念な結果になりそうで思考を停止させる事にしたのだった。