6話 「岩盤職人と悪辣グリフォン」
ズドオオオオンン!!ゴオオオン!!!ズドドオオーーーンン!!
不審な旅団の前方500m先に4つの大岩が落下する!
「うわー・・・今日の霊峰様はえらい御機嫌斜めだな」
立ち昇る4つの土煙を見て、正体不明の旅団の旅団長がゲンナリした様子で呟く。
「敵意ビンビンですね・・・団長・・・本当に行くんですかい?」
半年前の予備調査では死者こそ出なかったが52人中23人の団員が骨折してしまい酷い目に遭った事を思い出して身震いする副団長。
「しゃーねえだろ?何せ報酬5億円(相当)のビックプロジェクトだぜ?今更中止には出来ねえよ・・・」
「そっすね・・・中止するには惜しい案件ですもんね・・・」
どうやら彼らは「雇われトレジャーハンター」の一団の様だ。
一般的なトレジャーハンターとの違いは彼らにはスポンサーが付いて、そのスポンサーから頼まれたお宝をゲットして依頼主から報酬を貰うスタイルだ。
お宝は依頼主に取られるが団長の言う通りに億単位の報酬が出るケースもあり、決して一般的なトレジャーハンターに金銭的な意味で劣る事はない。
それに前金も出て準備に金を掛けれるので、この雇われスタイルの方が良い場合も多い。
「それに今回は高い報酬払って彼らを雇ったしな」
彼らはシルバニアの予想通り前金を使い今回は重力魔法の使い手を10人雇っている。
「どうだい?アレを防げそうかい?」団長が魔法使いのリーダーに話し掛ける。
団長から話を聞かれて魔法使いのリーダーは考える、あの大岩プチンを見て冷静な辺り、かなり肝が座っている男の様子だ。
他の魔法使い達も顔を青くしてドン引きしているトレジャーハンター達と違い「おおー?すっげー」とか「原理が気になるよなー」とか恐怖心より好奇心の方が勝っている。
「あれって安山岩か?」
「いや玄武岩っぽいな」
「なら結構見た目より重いな・・・」
挙げ句の果てには落ちて来た岩の種類を考察している。
「推定3トン弱の岩か・・・あの高さからの落下なら荷重が150トンって所かな?
防御結界の維持は3人掛かりになるな。
でも1人が倒れたら即詰みだから予備人員とサポート係も必要だな・・・
5人ずつの2チーム編成になるぜ?3チーム編成はダメだ」
魔法使いのリーダーの出した結論は「無理せず命大切に」だった。
大岩プチンの危険性をいち早く察知する辺り只者では無い。
「貴様!一体何者だ?!」と聞かれると「え?!鉱夫っすよ?」と彼らは答えるだろう。
要するに彼らは鉱山においての岩盤補強専門の職人さんだったのだ。
この重力魔法使いの連中は普段、鉱山とかで仕事をしている。
落盤事故防止の坑道強化をする時などは彼らの重力魔法は必要不可欠なので世界各地で仕事が多く結構実入りの良い職業なのだ。
仕事が多い分、経験も豊かで3トンの大岩程度なら充分に弾ける結界を張る事が可能だ。
何せ彼らが普段相手をしているのはメガトン(1000トン)クラスの岩壁なのだ。
3トンの岩など小石にしか見えないのた。
そんな彼らをトレジャーハンター達は大奮発して相場の3倍+危険手当の報酬で雇ったのだ。
「OK、それなら俺達も2班に分かれるよ」
専門職の忠告に素直に従うのもトレジャーハンターを長く続ける秘訣なのだ。
効率が落ちるが2班編成になるのも致し方なし。
今回の依頼内容は、とある豪商から依頼された「山頂の遺跡に有る財宝の入手」だ。
囮の遺跡なのに財宝とか有るのか?と言われると遺跡中央の目立つ場所にちゃんと財宝は有るのだ。
金鉱石がメインで加工が必要なのだが、時価15億円相当の金鉱石が置かれている。
なかなか目の付け所が良い豪商である。
あの降り注ぐ大岩はその金鉱石を守る為の古代の防御機能だとトレジャーハンター達は踏んでいる。
それらのわざとらしく置かれている財宝は無論の事、本命の魔石から目を逸らす為にシルバニアが用意した物だ。
魔石に目が行かなければ金鉱石程度なら幾らでも持って行ってくれい状態なのだ。
でもトレジャーハントは窃盗行為に変わり無いのでシルバニアは今回も彼らに容赦するつもりは無い。
しかし今回の敵は職人さんが多く今までの様な頭空っぽのアホな侵入者と違い強敵だ。
果たして霊峰シルバニアは迫り来る職人さん達の猛攻に耐える事が出来るのだろうか。
「アイツらマジでやべぇ・・・」
先程落下した大岩に全く動じる事の無くきゃっきゃっと岩談議をしている岩盤職人にトレジャーハンター達がドン引きしている所にグリフォンのエリカが飛来した。
《こんにちは~?》先ずエリカは岩盤職人達とモロに目が合った・・・
「ぐ・・・?」
《ぐ?》
「グリフォンだぁあああああ?!?!魔物だぁああああ?!?!
みんな逃げろぉおおおおおおお!!!!」
あれほど冷静だった魔法使いのリーダーが叫ぶ!
《えええええええーーーーーーー?!?!》
エリカを見て突然恐慌状態になる岩盤職人達!!え?!どうした?!
腰が抜けて四つん這いになって這って逃げる者も居る始末。
《え?え?えー?あの?あの?あの?》突然の修羅場に大混乱のエリカ。
「待てグリフォン!!岩盤職人さんに手を触れさせんそ!」
出番来たーーー!とばかりに武器を取りエリカを取り囲むトレジャーハンター達!
トレジャーハントが無い時は冒険者として活動しているので対魔物戦はお手のものなのだ。
「悪辣な人喰いグリフォンめ!職人さんに触るな!」
《いや指一本触れてまけんけどーーーーー?!
と言うより人間なんて食べません!すっごく失礼です!訂正して下さい!》
いきなりの「人喰い」の言い掛かりに激オコのエリカ。
「ひぃいいいいい?!?!グリフォンが人の言葉を喋ったーーー?!」
《グリフォンが喋るのは普通じゃないですかぁ?!》
エリカの言う通り、この世界のグリフォンは言語能力が高く、言葉を話す個体が多い。
なのでイリスとエリカの初対面の時にイリスは言葉でエリカにコミニケーションを取って来たのだ。
「た・・・食べないのか?」
《食べません!と言うより先ずは人の話しをちゃんと聞け》
グリフォンの姿だと話しが進まんと理解したエリカはボウン!と人の姿になる。
「おおー??女の子になったぞ?可愛いなぁ」
「すげー、原理が気になるなぁ」
エリカが可愛い女の子だと分かると直ぐに警戒心を解く現金な岩盤職人達。
魔物特有の罠かも知れないのでトレジャーハンター達は警戒を解いていない、当然だわな。
岩盤職人達が何でエリカを見て恐慌状態になったか?
それは彼らは魔物を見た事がほとんど無かったからだ。
管理された近代的な坑道は想像以上に安全で酸欠とガス爆発事故に気を付けていれば魔物の襲来とかの危険性は皆無の快適な職場なのだ。
こう言った大規模鉱山の鉱夫達は一度坑道に籠ると衣食住を坑道内で済ませる事が出来るので休みの日以外は外に出て来ない。
「箱入り娘」ならず「坑道入り職人さん」なのだ。
ずっと穴暮らしって辛く無い?と聞かれると全然辛くない、穴暮らしは結構快適なのだ。
夏は涼しく、冬は暖かい、空調がしっかりしているビルの中に居るのと大差は無い。
作者も地下鉄工事で3年間ほど穴に籠ったが外より快適だった、何せ天気に左右されないからね。
「なるほど・・・貴方達は鉱夫さんとトレジャーハンターさん達なのですね」
「そうだ、それで君の用事は?」
「うーん?・・・トレジャーハントは窃盗行為とも言えますが、その点は分かってますか?」
危険性が低い集団と判断して入山しない様に説得を試みる事にしたエリカ。
「その点は徹底的に調べている。
国際法でここはどの国にも機関にも属していない空白地域だ。
自己責任での資源の採取に問題は無いはずだ」
「なるほど・・・うーん?・・・霊峰に侵入する事に対する忌避感とかは?」
一応、霊峰シルバニアは聖域だ、宗教的な問題は無いのか?と詰問するエリカ。
「神話には登場する聖域ではあるが何かしらの信仰が有ったとかの事実は確認されていない」
「うーん?シルバニアさん・・・色々と不備があり過ぎねぇ・・・」
理路整然と話すトレジャーハンターの団長にエリカは最初から苦境に立たされてしまったのだった。