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1話 「ドンゴさんの死」

南の大陸で起こったラーデンブルク公国による「核攻撃」は・・・龍種達によって「無かった」事にされた。


何分にも相手はゾンビ軍団とネクロマンサーで「目撃者」が居ないのでベレンガレア要塞守備兵と龍騎士隊イリスと魔王バルドルが黙っていたら他の者にバレる事が無いからだ。


「その代わり・・・この件を誰かに口外した者は・・・次は本気で一生拘束します」

椅子に座りゲン○ウスタイルで目がマジな天舞龍リールの「次は無期懲役」にするぞ?との本気の脅しに・・・


「「すみませんでしたーーーー!!!」」

直立不動のままでしっかりと90度に頭を下げる魔王バルドルと女王クレアの総責任者の2人。


こうして天龍に拘束された風竜シルフィーナと勇者ガストンは「天空城」から釈放されたが、地龍に拘束されたイリスとエリカの救出をしなければならないクレアとバルドルの表情は暗い・・・


この世界でも、結構お手軽な「核攻撃」が誕生してしまったが、使用した瞬間に龍種に「無期懲役」の刑に処されるので使う者が現れる事は無くなったのだった。

何事も先手先手の対応は必要だよねー。


『貴方達・・・本当に何をしているのです?』

魔王バルドルとエルフの女王クレアの「ユグドラシルの瞳」を持つ世界の守護者2人の醜態に「世界の言葉」こと「女神ハルモニア」も唖然としている様子だ。





「「まぁ・・・確かに地球のプロトニウムを使った核兵器より威力は数段落ちるが、やって良い事と悪い事が有るのではないかな?」」

穏やかな口調だが、メチャクチャ怒っている地龍王クライルスハイム。


「仰る通りで御座います、申し訳ありませんでした」と魔王バルドル。


「この事は永遠に封印して再発しない様に努めて参ります」と女王クレア。


こうなれば平謝りするしかない!バルドルとクレアは同じ世界の守護者である地龍王にもまた深々と90度に頭を下げるのだった。

国の王、2人の誠心誠意の謝罪にイリスとエリカもようやく釈放されるのだった。




釈放された4人だが、これから女王クレアからの「お仕置きタイム」が待っている。


「今日はここまで・・・ブリックリンよ、やるが良い」


「ああああああああ・・・足ぃいいい・・・ああ!やめて下さいましぃ!!」


「おおお?・・・・・・・・おおお・・・きゃあ?!エッチ!やめてぇ!」


「へああああ?!やめて!やめてブリックリン!足をツンツンしないでぇえ?!」


石畳の上で正座説教5時間明けの4人の足をクレアの指示で楽しそうにツンツンしているブリックリン。

つんつんされてイリス、エリカ、シルフィーナは悶え苦しんでいる。


武人たる勇者ガストンは精神修養の修行で長時間の正座は慣れているので全然大丈夫な様子。

と言うかガストンって「今回も」何も悪い事して無いじゃん?


ブリックリンにそれを指摘されると、

「んー?まぁ・・・仲間だしね、連帯責任だよ」と笑うガストンは「神」だ。


ちなみにこの「お仕置きタイム」は毎日5時間の3ヶ月間続くのだった。

長命を誇るクレアのお説教の話しは停滞する事は決して無いのだ。


イリス的には足がしんどいが、クレアの話しが面白いので「お仕置き」タイムが結構好きな事実は余計にクレアを怒らせるだけなので生涯誰にも暴露する事は無かったのだ。



それからラーデンブルク公国とゴルド王国との戦争だが、

ハーゲン侯爵一派のヴィグル帝国への寝返りで西の大陸の南方戦線が一気に崩壊したゴルド王国軍はラーデンブルク公国に派兵している場合では無くなり、ゴルド王国艦隊がラーデンブルク公国近海より完全撤退した事で一応の終結をしている。


中央大陸でのグリプス王国を巡る戦いでも、

グリプス王国が順調に領地を広げた上で強国のヴィアール共和国との軍事同盟を結んだ事により連合国側に挽回の策は無く、グリプス王国の1人勝ちの状態らしい。


戦火から一応逃れたラーデンブルク公国、龍騎士隊イリスの爆弾制作もここまでだね!

ってそんなに聞き分けが良い連中な訳が無いじゃないですか。


駐屯地に帰還した日から工具を引っ張り出して爆弾作りを再開する龍騎士達。


「イリス隊長達・・・大丈夫かな?」


「隊長と参謀の逮捕なんていつもの事じゃない?」


「それもそうだな」


隊長イリスの逮捕に隊員達の動揺は・・・全く無かった。

目の前で起こった核爆発も、「スッゲーーー?!」程度にしか思ってない隊員達。

隊長イリスの「何事にも動じるな!」との教えに忠実な隊員達であった。


「隊長の逮捕には少しは動揺してよーーーー?!」

釈放されて駐屯地に帰還したイリスを見て隊員達の反応が、

「おかえりー」の一言で終わってしまって悲しくなったイリス。


「あっ!隊長!「イリス改」を530発作っておきましたよ!」


「私が居ない間に爆弾が増えてんじゃん・・・」

無期懲役が向こうから凄え勢いで走ってくる幻覚が見えたイリス。


「改良して爆弾内に魔法を仕込める仕様になってますよ!」


「無期懲役になるからやめてぇーーーー!!」

無期懲役に肩を叩かれる幻覚が見えたイリス。


「イリス隊長なら無期懲役でも大丈夫ですよ!」


「何が大丈夫なのぉーーーーー?!」

無期懲役に連行される幻覚が見えたイリス。


こうしていつもの日常が戻って来たと思っていたら悲しい知らせがイリスの元へやって来てしまう。


ゴブリンの街に有るエルフの領事館から、

『ゴブリンロードのドンゴ氏が危篤状態』との短い手紙だ。


「・・・・・・・」手紙を見て微動だにしないイリス。


イリスも分かっているのだ。

寿命が無いに等しいハイエルフの自分が定命の有る種族と一緒の時間を歩く事が出来ないと言う事は・・・


ましてドンゴは出会った時からゴブリンとしては、かなりの高齢でイリスにとってお爺ちゃんの様な存在だった。


「イリス様のお役に立つ為にまだまだ生きますぞ!ワハハハハハハハ!!」

年齢的に身体の彼方此方にガタが来て寝込む事が多くなっても、そう笑って言葉通りに寿命と戦って頑張って生きてくれたのだ。


そうこれは天寿・・・大往生・・・でも悲しい・・・嫌だ!


「イリス・・・ドンゴさんの所に行ってあげて・・・」

微動だにせず大粒の涙をボロボロ流すイリスの肩をエリカが抱く。


最近は空ばかり飛んでいて使う事がめっきりと少なくなった転移陣を使いゴブリンの街へと急ぐイリス。


ゴブリンの街に有るエルフの領事館に到着したイリスに男性職員が、

「ドンゴ殿の意識はまだあるとの事です・・・イリス様、お急ぎを」と声を掛けると、

イリスは涙を流しながらドンゴの自宅まで走り始めた。


初めてイリスが開拓真っ最中の時代の時にこの街に来てから120年経ち、街中にはイリスが知らない大きな建物も随分と増えて道もほとんどが石畳になっている。


あれだけ物不足に悩んでいたのにラーデンブルク公国とヴィグル帝国との貿易で市場には物が溢れている。

そして大通りには沢山の着飾ったゴブリン達と亜人達とで賑わっているのだ。


いつの間にか人間の移住者も居る様子だ、国として成立するのも時間の問題だろう。


当時はまだ1000人にも満たなかった開拓村の住民達も今では人口160万人を誇る東の大陸屈指の大都市へと変貌しているのだ。


イリスにとっては、あっという間の120年だったがゴブリン達にとっては一生分の時間が流れたのだな・・・と街を走りながら改めて自分がハイエルフだと自覚するイリス。


今日の自分はラーデンブルク公国のお姫様でも龍騎士隊イリスの隊長でも何者でも無い、

ただのハイエルフとして自分の使命を果たす為にイリスはドンゴの家の前に立つ。


家の前にはドンゴの弟子達100名ばかり整列してイリスに頭を下げる。

涙目で目を腫らしたイリスも彼らに頭を下げると・・・


「師匠がお待ちしております、イリス様どうぞ・・・」

出会った当時は幼かったイリスと同じくらいの背丈のゴブリンの子供だったが今ではもうすっかりと老人になったドンゴの弟子が家の扉を開けてくれた。


ゴブリンロードのドンゴとハイエルフのイリスとの最後の時間が訪れる。




「ドンゴさん・・・・・」


「おお・・・イリ・・ス様・・・最後・・・に・・・お会い・・・出来・・・て・・・光栄・・・です」


ドンゴ宅に入ってイリスが見たのは、あの大戦斧を持ち筋骨隆々の重戦士ゴブリンロードのドンゴでは無く、もはや生命の源の魔力も完全に枯れてシオシオに萎びてしまったゴブリンの老人だった。


「ふえ・・・ふえええええええ・・・・」

イリスはフラフラとベッドに横たわるドンゴに覆い被さり泣き出した。


「わはは・・はは、申し・・・訳・・・ござい・・・ません。

この・・・ドンゴ・・・ここ・・・まで・・・に・・・御座い・・・ます」


「嫌だよ・・・ドンゴさん・・・ふええええええ・・・」

先立つ者を優しく見送る役目を持つハイエルフであるイリスだが、悲しいモノは悲しくて仕方ないのだ。


旅立つ前に泣いてしまうとドンゴの魂が黄泉の国に行き辛くなる事が分かっているが泣くのを止める事が出来ない。


「はあ・・・思えば・・・300年・・・の生・・・で・・・イリス・・・様に・・・出会えた・・・事が・・・最良の・・・出来事・・・で・・・御座いまし・・・た」


「ふええええええ・・・・」イリスは泣きながらでも旅立つドンゴの遺言を聞く・・・

それがハイエルフとしての使命だから。


「この・・・ドンゴ・・・少しは・・・イリス様の・・・お役・・・に・・・立て・・・ました・・・かな?」


「うん・・・充分過ぎるくらいドンゴさんに助けて貰ったよ・・・

本当にありがとう・・・ドンゴさん・・・うえええええええ・・・」


ユグドラシルとシルフェリアの時と違いイリスも大人になった。

みっともなく泣こうがハイエルフとしてドンゴの魂をしっかりと黄泉の国へと送るつもりなのだ。


「グズ・・・ハイエルフのイリスが認めます。

ゴブリンロードのドンゴはこの世界での役目をしっかりと果たしたと・・・」


「おお・・・なんと・・・珠玉な・・・お言葉・・・なのか・・・

生き・・・た・・・甲斐・・・が・・・あり・・・ました・・・ぞ・・・」


イリスに認められて安心したのか、そう言うとドンゴは深く眠りについた。


もう意識が戻る事は無いだろう・・・


イリスはハイエルフになってから、あれほど好きだった歌を今まで一度も歌った事は無い・・・

それはハイエルフが歌を歌うのは鎮魂の時と決まっているからだ。


悲しみの余りにユグドラシルとシルフェリアにハイエルフの歌を歌って上げれなかった事が今までの人生で最も後悔している事なのだ・・・


なのでもう後悔はしない。


ドンゴの為に全身全霊でハイエルフの歌を歌うイリス・・・


「ゴブリンロード・ドンゴの次の生に更なる祝福があらん事を・・・・・・・

ラーーーーーーーーーーーーーー♪♪♪♪♪ラララララーーーー♪♪♪♪」


ハイエルフの歌は魂に呼び掛ける物で明確な言語化が出来ない。

イリスのそよ風の様な優しく美しい歌声がゴブリンの街に流れる。


「ラーーーーー♪♪♪♪ラララララーーー♪♪♪♪♪♪♪♪」


イリスの歌声に光の精霊が反応してドンゴの身体が淡く光を放つ・・・

ドンゴの身体に死が訪れた証だ・・・


悲しみで崩れそうになる足に力を入れ直して更に天に届く様に歌い続けるイリス。


「ラララララ♪♪♪ララーー♪♪♪」


ドンゴの亡骸から放つ光が強くなり、魔法生命体として形が維持出来なくなり徐々に魔力へと変換されて行く亡骸・・・


そして亡骸は完全に光の粒子となり、お別れを告げるかの様にイリスの周囲を回り始めた。


「ラララララーーーー♪♪♪♪ラーーーーー♪♪♪」


そして光の粒子も消えて行く・・・ベッドに残ったのはドンゴが着ていた服だけになった。

ドンゴの身体は無事に世界へと帰って行ったのだ。


そして魂もしっかりと黄泉の国へと送り出したのだ。


「ラララララ♪♪♪♪ラ・・・・ララーーー・・・・」


そして徐々に小さくなるイリスの歌声・・・












「ドンゴさん・・・・・今まで本当にありがとうございました・・・」

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