71話 「死霊の軍団」その3
《ねえ?イリスさん?》
「なあに?エリカさん」
《キモかった?》
「キモかったよ・・・」
《匂いとか凄かった?》
「凄かったよ・・・」
《内臓とか腐ってデロデロだった?》
「腐ってデロデロだったねぇ」
《もう帰っても良いっすか?》
「ダメです」
ゾンビ軍団の元へ急行している龍騎士隊イリス。
イリスの相棒の飛竜テレサは、ずっと飛び続けて疲れているのでお留守番だ。
イリスからお留守番を言い渡されたテレサは、
「キュイ?!キュイキュイイイーーンン?!
(大丈夫だよ?!アタシまだまだ飛べるモン?!)」と抵抗したが・・・
「ダメだよ、ほら翼が疲労でプルプルしているでしょ?休んでねテレサ」
イリスが撫でるテレサの翼は疲労の為に小刻みに震えている。
その内、テレサは地面にへばりついてしまった。
「ほら・・・ダメでしょ?」
「キュイイン・・・(初めての爆撃なのにぃ・・・)」
置いてきぼりで可哀想だが仕方ない、戦場ではどんな些細な要因でも死に直結する。
そしてこのテレサの異常な疲労感は天龍への進化の始まりでもあったのだ。
そのまま眠って進化に突入した。
飛竜テレサさん、天龍に昇格おめでとう!暫くの間お休み決定である。
龍騎士隊の駐屯地に仲間の進化の気配を察知した天舞龍リールが颯爽と現れて繭の様に羽団子状態になった飛竜テレサはリールに抱っこされて天空城へと連れて行かれた。
「「おお?!私と同じ蒼龍じゃん!珍しいね!」」嬉しそうな天舞龍リール。
良く分からないがテレサは珍しい龍になるらしい。
海龍と地龍への進化は、ただ寝るだけだが、天龍の進化時は羽団子状態になるのだ。
何でも大昔は進化の眠りの最中に、風などの影響で木から落ちる事が多かったから落下時の衝撃緩和の為に独自に進化したんだそうだ。
「テレサの羽団子・・・可愛いかったろうなぁ、見たかったなぁ」
テレサ羽団子を見れなくて超残念そうなイリスだった。
なので今回イリスはエリカに乗っているのだ。
そして勢いで来てしまったエリカだが彼女は普通にグロいのが苦手だ。
ここに来てゾンビ軍団の元へ行くのを嫌がりグズリ出している。
「もう・・・何よ?欲張って爆弾を8個も括り付けて来た癖に・・・」
「ビーストモード!!エリカー!!」とか言い出して身体中爆弾だらけのエリカ。
《相手がゾンビなのをすっかりと失念しておりました・・・》
「その爆弾全部ゾンビ達に落としたら帰って良いよ?」
《それ、最後まで作戦をやり切れって意味ですね?分かります》
「8個も括り付けるエリカが悪いのよ?」
8個の爆弾は、ほぼ龍騎士3人分だ。
帰れる訳ねえだろ!ささっと飛べ!と言いたげなイリスは手綱を揺らす。
すると無意識の内に速度を上げるエリカ。
イリスの絶妙な手綱捌きに思わず反応してしまうのだ。
イリスによる調教・・・いや訓練の賜物だね!
そうこうしている内にベレンガレア要塞が見えて来た。
「シルフィーナちゃんとガストンは輸送組を連れて要塞へ着陸して!」
「「ええ?!わたくし達も行きますわ?!」」
「後詰で強い人が要塞にも居ないとダメ!命令だよ!」
何かあった時の為に龍騎士隊の最大戦力の勇者ガストンには要塞守備に就いてて欲しいのだ。
「ほら、シルフィーナ、命令だよ?」不貞腐れる奥さんを宥める旦那さん。
「「ぶーぶー」」
シルフィーナも自分達が頑張って作った爆弾の威力が見たかったので、めっちゃ不貞腐れている。
シルフィーナ隊とガストン隊を要塞に残してイリス達はゾンビ軍団の索敵を開始する。
とは言え風に乗って死臭がして来るので位置は明白なのだが。
《うう~、いやーな匂い・・・》
マジ行きたくねーとか考えてるエリカだがイリスが「ホレホレ」と手綱を揺らすので仕方なく身体を匂いがする方位を合わせる。
「総員!急上昇!!」
念の為に高度2000mまで上昇して高速でフライパスしてゾンビ軍団の様子を伺う。
「隊長!見えました!」
ベレンガレア平野を埋め尽くすゾンビ達の群れ・・・
数日前より数が増えているのは生き残りのゴルド兵士を飲み込んだのだろう・・・
「うわ?!思ってたより進軍速度早かったね!急いで良かったよ」
《うええ~、想像以上にキモいよ~、なんか汁が地面に伸びてる~》
赤だか黒だか分からない液体を地面に擦りつけながらフラフラと歩くゾンビ達。
龍騎士達も初めて見るゾンビの醜悪な姿と吐き気のする匂いに顔を顰めている。
鼻が効く竜達は器用に鼻の周りの筋肉を動かして見事に鼻の穴を塞いでいる。
この悪臭・・・実は龍騎士達の接近を察知したネクロマンサーからの攻撃なのだ。
ボロボロの身体で人間より力の弱いゾンビ達は悪臭で相手を気絶させてから貪り食うのだ。
今現在ゾンビから流れている謎の液体はその魔法で出来た液体なのだ。
そして更にネクロマンサーの「悪臭」と言うスキルはゾンビ達の悪臭の威力を増大させる効果がある。
{ヌ?「悪臭」ノ効果ガ弱イ?何故ダ??}
想像以上に悪臭に対する耐性がある龍騎士達に困惑するネクロマンサー。
常日頃から不潔な龍騎士達には多少のクサイ匂いなど通用しない、と言う様な訳では断じて無く、天龍の眷族である飛竜や雷竜に乗っているからだ。
天龍王アメデの祝福を受けている竜達には状態異常攻撃はほとんど通用しない。
その竜に乗っている龍騎士達もその恩恵をしっかりと受けている。
ちなみに天龍王の祝福を受けていないイリスだが「悪臭」攻撃は通用しない。
何せイリスには頑張り屋さんの「契約花の水蓮」の精霊達が付いているからだ。
《うわ!くっさい!何コレ?!くっさい!》
《いやん?!イリスにクサイ匂いが付いちゃう!皆んな!いつもの行くよ!》
《分かった!そりゃあ!水蓮の香りバリアー!!》
《おや?悪臭が消えた???》急に悪臭が消えて不思議そうなエリカ。
匂いに関しては超優秀な水蓮の精霊達なのだ。
精霊達は毎日汗を流して訓練しているイリスの体臭消しで、慣れたモノなのだ。
ちなみにイリスの体臭は「普通」だ、汗をかけば普通に汗臭い。
いつも水蓮の香りがしているイリスの事をラーデンブルク公国の民の中には「花の香りのお姫様」と呼ぶ者が居るが、そんな非常識な生物は居ない。
イリスは普通に亜人なのだ。
☆「いつまでも人の匂いの話しすんなぁーーー!!めっちゃ恥ずかしいわ!」
エリカに至っては天龍王アメデの祝福をダイレクトに受けているので強力な状態異常耐性がある。
前の飛竜酔いは、単にエリカが朝飯を食い過ぎただけだ。
つまりネクロマンサーの「悪臭」攻撃は最初から無効化されているのだ。
{ヌウ?}アテが外れて悔しそうなネクロマンサー。
上空を旋回しながら風上を取る龍騎士隊イリス。
「そろそろ行くよ!総員戦闘準備!」
イリスの予想は要塞まで10km程の地点で頭を抑えるつもりだったのだが、ゾンビ軍団は要塞まで6km地点まで迫っていたのだ。
時間的猶予は無さそうだ。
「よし!先鋒隊の頭を叩く!第一小隊行くよ!」
イリスの号令で急降下を開始する第一小隊の龍騎士達。
遂に始まった龍騎士隊イリスの空爆作戦、果たして自作の爆弾はちゃんと爆発するのか?
そして訓練通りに爆撃コースに乗る第一小隊!
「ここだよ!投下!!」龍騎士達から25発の爆弾が投下された。
ヒューーーーーーーーン・・・・・・・・ゴン!ゴン!ドゴンドゴン!ゴン!ゴゴンゴン!!
鈍い音を立ててゾンビ軍団のド真ん中の地面に次々と突き刺さる爆弾達。
不発か?・・・いや、対艦用に開発された爆弾なので信管が作動して爆発するまで一拍あるのだ。
ズドゴオオオオンンン!!ゴガアアアアアアアアアンンンンン!!!
ズドドドオオオーーーーーーーンンンン!!!!!
ゾンビ軍団の中心で土砂を30mも巻き上げる大爆発が起こったのだった・・・