70話 「死霊の軍団」その2
「イリス隊長!!見て下さい!ゾンビの群れです!」
「うっひゃあ・・・これは酷いね・・・」
「上陸したゴルド王国軍壊滅せり」との魔王バルドルからの報告を受けて龍騎士隊イリスに確認と偵察の命令が下り、イリスが早速5騎の龍騎士を連れてベレンガレア平野に飛んで見たらベレンガレア平野を数万のゾンビの群れが埋め尽くしていたのだ。
「どうします?!爆弾なら持って来てます!爆撃しますか?!」
「いや・・・これは10発20発の爆撃でどうにかなるレベルじゃないよ・・・
手出ししないで一旦戻ってクレア師匠と対策を練ろう!」
「キュイーンキュイーンキュイーン!!!」
「そうだね・・・操っているヤツを叩かないと駄目だよね?テレサ」
天龍に進化間近なイリスの相棒の飛竜テレサは知恵と知識がもう完全に人間を超えている。
ネクロマンシーの性質を見抜いて術者へのピンポイント爆撃をイリスに進言する。
「でもピンポイントで狙うにしても火力不足は明白だね・・・無理せず引き返そう!」
「キュイーン!(了解!)」
イリスもネクロマンシーについて詳しく知っている訳では無い。
術者を倒してしまって良いかの判断が付かないのだ。
もしかしたら術者が解呪しなけばならなかったとしたら最悪なのだ。
《バルドルさん?見てる?》
《うむ、すまんイリス・・・完全に儂の失策じゃ。
それにこのネクロマンシーには「上級魔石」を使用した形跡が強く残っている。
調べて見たら採掘の作業員が2名、「上級魔石」を15個持って行方不明になっておる》
《それは聞かなかった事にするよ!真魔族の方で何とかしてね!》
《重ねてすまぬな・・・
それにしてもネクロマンシーとは・・・連中は本当にろくな事せんのう》
《これの対抗策はどうすれば良いのかな?》
《それもすまんな、過去の事例でも「上級魔石」を使っての術の行使など前例が無くてのう・・・
現在総力を上げて調査中じゃ》
《お願いね!私は報告しに戻るわ!》
イリス達はベレンガレア平野から離脱してラーデンブルクの首都へ退却する事にしたのだった。
帰還する途中で筏に乗ったゴルド兵士を発見して事情聴取の為に逮捕連行する。
進軍速度からゾンビの軍団がベレンガレア山脈の要塞到着まで10日ほどだろうと予想したイリスは首都に戻る前に一度ベレンガレア山脈の要塞に赴き守備兵達に警告を出す事にしたのだった。
「ゾンビの大軍ですか?!」予想外の事態に驚くベレンガレア要塞守備軍の司令官。
さすがにベレンガレア要塞でも対ゾンビ戦の対策などはしていない。
一瞬頭が真っ白になる司令官。
「通常のネクロマンシーとは違う術式で魔法が行使されてる可能性が高いです。
「感染」する恐れも強いので距離を取って攻撃して下さい・・・
最悪、早急に要塞を放棄する選択も有るかと思います・・・」
「・・・とりあえず新たに配備された要塞砲を撃ちまくりますよ。
弾切れになったら放棄も検討します・・・
それで「火」で感染が拡大する可能性は有りますか?」
砲撃をすればゾンビが焼かれて絶対に大量の煙が出る。
その煙を吸ってしまうとゾンビ菌が人に感染するのか?と聞いているのだ。
「あくまで予想ですが焼く分には大丈夫だと思います。
先程拘束した黒煙を浴びたであろう捕虜達に異常は有りませんでしたから。
但し、噛まれたり体液が付着するのは大変危険だと思います。
要塞を放棄するなら橋を落として下さい、少しは時間稼ぎが出来ます。
私達、龍騎士隊イリスも空輸での撤退のお手伝いが出来るかと思います」
「分かりました、我々も何とか時間稼ぎをやって見ます」
要塞砲と遠距離魔法攻撃で少しでも進軍してくるゾンビの数減らしを試みるつもり司令官。
「了解しました!絶対に無理はしないで下さい!!」
こうしてイリスはベレンガレア要塞を後にしてラーデンブルク公国の首都へと急いだのだった。
龍騎士隊の駐屯地に到着したイリスは6名の捕虜達をエリカに「そりゃあ!」して女王クレアの元へダッシュした。
「ええ?!何?この人達?!いやん?!上半身裸?!
こらあ!説明して行けー!イリスーー!」
「ごめーん!事情は皆んなに聞いてー!」あっという間に居なくなったイリス。
公爵邸に着いたイリスはクレアの居る部屋のドアをバターンして、
「師匠!!ゾンビです!ゾンビの軍団の襲来です!」
目の前には風呂上がりでバスタオル一枚の艶やかな姿の女王クレア。
「うむ?ゾンビだと??」
風呂上がりに油断していたら弟子が飛び込んで来ていきなりの「ゾンビ」発言だ。
さすがに困惑した表情のクレア。
矢継ぎ早に現在の状況の説明をするイリス。
説明を聞いて行く内に見る見る表情が険しくなるクレア。
「師匠!龍騎士隊イリスによるゾンビ軍団への全力爆撃の許可を下さい!
状況次第でベレンガレア要塞守備兵を空輸で退去させます!」
今から爆撃の準備をして出発すればゾンビ軍団がベレンガレア要塞に到達する前に頭を抑えられるのだ。
1分1秒が惜しいイリス、「早く!早く!」とバスタオル一枚の姿の師匠を急かす。
「わ・・・分かった!イリスの思う様にするが良い!」
イマイチ状況が掴めないが、とにかく時間が無いのだけは分かったので公爵の強権を発動させるクレア。
「ありがとうございますーーーー!!」大義名分を手にしたイリスはそう言ってドアも閉めんと走り出す。
こらあ!ドアくらい閉めて行かんかー!
残されたのは扉周辺に居た近衛兵士から丸見えのバスタオル一枚の姿のクレア・・・
「きゃああああああああああ???!!」
公爵邸にクレアの可愛いらしい悲鳴が響き渡った・・・
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イリスは駐屯地にリターンするなり、
「緊急出撃用意!!動ける隊員は全員爆装してね!ゾンビ軍団を全力で爆撃するよ!」
オラオラ状態のイリスは龍騎士達に総力戦を命令する。
それを聞いた隊員達は・・・
「おっしゃあああああ!!何か知らんが爆撃だぁあああ!!」
ゾンビとか何が何だか知らんが士気が急上昇したのだ!
隊員達も辛かったのだ・・・鍛冶屋さんと石工さんの作業が。
目標のゴルド艦隊はいつまで経っても近づいて来ないし・・・
もしかしてこのまま転職?!とか不安だったのだ。
「待てーーい!ちゃんと作戦会議してからだよ!!
先ずはゾンビ云々の話しをちゃんと説明しなさい!」
参謀エリカが「ノリ一発で動くんじゃねえ!」と待ったを掛ける。
「急いでいるのにーーー?!」
エリカに待ったを掛けられて「ぴょんぴょん」と跳ねながら状況説明をするイリス。
説明を聞いたエリカの顔色がドンドン悪くなり・・・
「何やってんのよ?!マジで時間が無いじゃん!総員出撃用意!!」
「だからそう言ってるじゃないのよーー!!」
イリスとエリカがそんなやり取りをしている間に隊員達は目をキラキラさせてドンドンと爆装の準備をしている。
と言うかイリスとエリカの言葉を誰も聞いちゃいねえ。
「ノーマルイリス爆弾はどうする?」
「うーん・・・重いから置いて行きましょう」
「ノーマルイリス爆弾って何なのさーーー?!」
「イリス式機関銃は?」
「だからイリス式機関銃って何なのーーー?!
もう名前の使用料金取ろう!絶対に取ってやるー!!」
とても「イリス」に溢れている龍騎士隊イリスの兵器群なのだ。
今回用意出来た「爆弾イリス(改)」は480発。皆んな毎日せっせと鍛冶屋さんを頑張っちゃったのだ。
最上限満載には一歩及ば無かったが充分な爆装をする事が出来た。
残念だがイリス式機関銃は重いから置いて行く事になった。
誰かに求む!軽量化!
爆弾を搭載出来なかった100名程の龍騎士達は木製の籠を取り付けてベレンガレア要塞守備兵の移送の準備を進める。
一騎につき3名の移送が可能だ。
要塞内に有る物質は残念ながら放棄するしか無い、人命最優先なのだ!
日々の厳しい訓練が実を結び2時間後には出撃準備を完了させた龍騎士隊イリス。
ゾンビ軍団との戦いが始まる!