53話 「将軍エリカと惨劇」
「全く・・・イリスは・・・
偵察に行っただけなのに、そんな話しを持ってくるとはのう・・・」
とりあえずイリスの独断でどうにかなる問題で無いので、一旦グリプス王国の件を女王クレアに報告するイリスとエリカ。
二人の報告を受けてクレアは苦笑いを浮かべている。
「軍事的にもグリプス王国に拠点を置く事は補給の面でメリットがあります」
そう言って地図を広げて説明を開始するエリカ。
「現在、龍騎士隊イリスの連続航続距離は1500km程です。
つまり有効作戦可能距離は600kmが限界ですが・・・」
竜達の駐屯地に帰還する体力を残す為に余裕を持って作戦可能距離を取らないといけない。
竜達は頑張れば2000kmは飛べるらしいが天龍からの大事な預かり者の竜を酷使するつもりは毛頭無いのだ。
「ここからグリプス王国まで北西へ850km程です。
もしラーデンブルクから600kmを超えた地点で戦闘を行っても・・・」
「そのままグリプス王国へ行けば問題は無い訳じゃな?」
「その通りです、北西方面に関して言えば作戦可能距離は1200kmと倍になります」
「ほぼ北西の海域全てで作戦行動が可能になりますね?」
話しを聞いていた軍務大臣が感心した声を上げる。
「公爵閣下、この提案に軍務省は全面的に賛成しますぞ」
「軍務大臣よ・・・我が国は現在、鎖国中じゃぞ?」
「はははは、そんな事を敵国に対して律儀を守る必要は無いでしょう?」
「そりゃそうじゃが・・・」
「エリカ少佐を准将へ昇進させて、担当司令官としてグリプス王国へ派遣すれば相手も悪い感情は持たないでしょう?」
「ええええ?!」予想もして無い展開に驚くエリカ。
「何を驚く?君の戦略じゃからな、君が責任者として赴くのが当然だろう?」
「ふむ?色々と試すのもアリじゃな?
よし!エリカ准将よ!全権を任せる!
グリプス王国へ使者として赴き存分に力を発揮せよ!」
「師匠?!?!」
こうして「新将軍」エリカは司令官としてグリプス王国との交渉へ赴く事になった。
ちなみにエリカの「将官」への昇格は元々決まっていた決定事項で時期が早くなっただけに過ぎない。
「あの?私は?」私も行きたい!行きたい!アピールのイリス。
「お主は部隊編成の仕事があるじゃろう?もう息抜きの時間は終わりじゃ。
エリカ准将の護衛は、ロイ大尉とする」
「えー?そんなぁ」残念イリス!目論見破れる!
「あー、そうそう、イリス中尉も龍騎士隊の部隊人員数が増えたからな。
君も昇進だ、部隊編成を頼むぞイリス少佐」
これも既に決定事項でエリカのついでに昇格させられるイリス。
左官昇格おめでとう!やっと給料が増えて極貧生活からオサラバ出来るね!
イリスとエリカ・・・欅の木窃盗事件の賠償金の完済まで後20年・・・
「良いなぁ・・・私もグリプス王国へ行きたかった・・・」
「私がちゃんと交渉してすぐに呼ぶよ?」
テフテフと龍騎士隊イリスの駐屯地を目指して歩くイリスとエリカ。
ラーデンブルクの軍人は訓練の為に馬車などの利用は緊急時以外はしないのだ。
5km先の駐屯地へ到着すると早速、エリカ准将に随伴する部隊の編成を始める。
「えっ?私がエリカ殿・・・エリカ将軍の護衛ですか?」
「そっ、ロイ大尉は指揮下の第3小隊の長期間任務の準備をして下さい。
シルフィーナ大尉の第1小隊も予備随伴です。こちらも準備して下さい」
「分かりましたわ。ガストン大尉の第2小隊はどうしますの?」
「第2小隊は本国周辺の監視です。
これより半分以上の部隊が居なくなりますから警戒は厳にお願いします。
私は第4、第5小隊の訓練を行います」
第4、第5小隊は訓練部隊でまだまだ実戦には投入出来ないのだ。
更には第6、第7小隊が新設される予定だ。
おや?これって少しマズくね?メッチャ人少なくね?定員割れじゃね?
「了解しました。
でも隊長の人数が全然足りてませんね?これ問題ですよねぇ・・・」
ガストンの指摘通りに隊員数が激増して指揮出来る人材が全然足りて無いのだ。
ミイでは隊長になれるまで経験を積んでいないからね。
「その件ではグリプス王国のグリプス戦隊から人員を出してくれる様に交渉して欲しいとエリカ将軍にお願いしています」
第6、第7小隊はグリプス戦隊組で編成予定なのだ、なるほどね。
そのグリプス戦隊の龍騎士訓練で竜達が飛べば風が復活する寸法って訳だ。
グリプス戦隊を龍騎士隊イリスに組み込む、これも今回の交渉の重要事項だ。
まぁ・・・エリカのお願いだから一二も無く承諾されると思うが。
こうして鎖国中のラーデンブルク公国だが裏では色々な工作をしているのだ。
「出発します!!」エリカの号令で駐屯地を次々と発進する総勢256名の龍騎士達と向こうで編成予定の187体の飛竜と雷竜達。
今回のエリカは交渉をする将官で今日は飛べないので飛竜に乗せて貰っている。
「・・・・・・・・・・何か一気に寂しくなったーーーー??!!」
遠征隊が出発してガラーンとした駐屯地を見てメッチャ寂しがる留守番イリス。
普段は出撃後の駐屯地を見る機会が無いからね。
「イリス少佐、遊んで無いで早く訓練を始めますよ」
「あっはい、すみません」
それでもガストンに促されてチャッチャかと仕事を始める優等生イリスだった。
「それでグリプス王国ってどんな所なのですか?」
「うーん?報告優先で帰って来ちゃったから見て無いのよねー」
ロイとエリカは仲良く飛竜に前後で相席をしている、この配置がこの後に始める悍ましい惨劇の原因になろうとは・・・この時は誰も思って無かった・・・・・・・・
「キュイ?キュイキュイイイーン??」
「うん、そうよ、そのままの高度で前進してね」
完璧に竜語を話せるエリカが先導をしている、ロイもある程度は竜と会話出来る様になって来たのだ。
竜の語彙力は普通の人間の大人並み、最近は竜語の解析も進み隊員全員が竜と日常会話程度は出来る様になっている。
その内、竜語会話が士官昇格試験に導入される見込みだ。
「このまま王宮に向かうのですか?」
「うんにゃ、一回王都郊外でグリプス戦隊と合流します。
そこで私とロイ大尉とシルフィーナ大尉の3名と護衛の隊員10名で王城に入城予定です」
ゴオオオオオオオオオ!!!
「キュイ??」少し向かい風に煽られる飛竜。
「あっ、海から向かい風来るから気をつけてね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・結構揺れるね?」
「普段のエリカ殿は自分で飛んでますからね、大体こんな感じですよ?」
「そうなんだ?・・・・・そう・・・なんだ??・・・・・ん??
あれ?・・・・・・あれれれ???」
「エリカ殿?どうしたんですか?」
後ろに座るエリカの異常に気が付いたらロイ。
「いや、何か・・・目が回る?・・・・・あれーー??
いやいやいや、そんな馬鹿な・・・私が乗り物酔いなんて・・・そんな馬鹿・・・
そんな馬鹿な?・・・・・・・・・・私は天空の眷属、グリフォンロードだよ?
ううううーーーー??!!」
「ええええ??一旦高度下げますか??」
「ああ・・・これ・・・もうダメ?・・・・」
「キュイ?キュイ?キュイ?キュキュン?キイイン??
(ままままままままさか??冗談ですよね?やめて下さい??)
と懇願する飛竜だが、エリカはもうダメらしいよ?
「○☆○☆○☆○☆○!!!!!!!」
「うわーーーー?!?!」
「キュイイイーン?!キュイイイーン?!」
(ああーーーん?!いやあーーーーんん?!)
「○☆○☆○☆○☆○☆○☆○ーーーーーー!!!」
こうしてグリプス王国まで残り50km地点の上空で身の毛もよだつ惨劇が起こってしまったのだった・・・