外伝!「黒龍ラザフォードとマッドサイエンティスト」その19
海龍王アメリアと別れた後は特に何事も無く時間が過ぎて、いよいよ開幕式の時間が来たのでラザフォードは主賓席の前で他の演奏者、歌い手達と共に整列していた。
「ではこれよりピアツェンツア王国国王御前芸術演奏鑑賞会を開始する!」
国王が緊縛監禁されている幕屋前で宰相さんの号令により全国民が自由参加の「国王鑑賞の御前コンサート」が開始された。
その肝心な国王の姿が見えないのだが見物人のほとんどが気にしていない。
と言うより宰相さんが国王だと思っている人が大半なのだ。
事実上で実際にそうなので仕方ないのだ。
さりげなく宰相さんの横に陣取る官僚達の中に死んだ魚の目で龍王の覇気も威厳も何もかもが完全に消え失せた海龍王アメリアが涙目で佇んでいた。
何気に後ろの幕屋の中を覗いてしまったのであろう・・・・・・・お気の毒に。
と言うよりは「ココに居る!」と分かってて何で見ちゃうのかなぁ・・・
先ず最初は天龍教大聖堂の神官達による天龍王アメデを讃える歌の合唱が行われた。
天龍王へ届け!言わんばかりの合唱団の透き通った美しい歌声で海龍王アメリアの心も少しは癒されたであろう。
何でここで天龍王?と思われるかも知れないが中央大陸の大半の国では天龍王を主神として崇められているからだ。
詳しい話しは「魔法世界の解説者」の最初の方に書いてあるので読んで見てやって下さい。
そんブツを読んでる暇が無い!との人の為に簡単に解説すると、
政治的観点から見て「地龍王や海龍王より天龍王を神と崇めた方が為政者にとって都合が良いから」である。
地龍王や海龍王的にもその方が何かと都合が良いので黙認されているのである。
分かり易い言葉で言うと「神様の役割を地龍王と海龍王に押し付けられた」である。
なので天龍王アメデは自分が神呼ばわりされる事をメチャクチャ嫌がっている。
でも世界の守護者としての責務で神様役を仕方なく演じていると言う訳だ。
さりげない地味な仕返しに天龍王アメデは自分のお膝元の西の大陸では「地龍教」を普及させて地龍王クライルスハイムを神として崇めさせてたりする。
この様な背景から「地龍王と天龍王は不倶戴天の敵」なんてデマが広がってしまい地龍教と天龍教の仲は悪いのだが、アメデとクライルスハイムが人間達の勝手な誤解や解釈をいちいち訂正しない辺りは実に神様っぽいな、とは思う。
海龍王アメリアに至っては、この類の話しが出ると海底に逃げてしまう。
そして熱りが冷めるとバーベキューをやりに海上へと浮上して来るのだ。
だが・・・ほとんどの全世界の沿岸地域は当然「海龍教」なので教圏の規模から言うと天龍教や地龍教よりメチャクチャ大きい宗派なのだ。
自分だけコソコソ逃げるから自業自得だな。
しかし部外者の我々「真魔族」から言わせて貰うと「無駄な戦いが起こらん様に三龍王は自分達の教徒くらいはちゃんと〆てくんね?」とは思うが「自由主義」の、この世界・・・
中々ままならんのだよね。
余談だが真魔族が崇める最高神は一応「アヌ」なのだが、真魔族は元メソポタミア人なので比較的ズボラ・・・大らかな宗教感を持っている。
ので地域によって主神がティアマトだったりもしてて曖昧だ。
ちなみに儂はメソポタミアに関係ない「アテネ」様を信仰している、なにせ綺麗な女神様だからね。
そして一時期、真魔族内で「バルドル教」などとほざく珍妙なカルト教団が出来たが自ら赴いて撃滅した・・・つもりだった。
つーか、全員正座させて「儂を神呼ばわりすんな!」延々三時間に渡り説教かましただけだがね。
しかしそれから「バルドル教」が何故か亜人達を中心にして爆発的に世界中に広がってしまい儂にも手がつけられなくなった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今も「バルドル教」がある。
その時かました説教が「聖典」として残っていやがります!なんでじゃあああ??!!
その事をマクシムの野郎に指を刺されて大爆笑された!チックショオオ!!
ヴァシリーサには「信徒に御告げなんかを与えたら聖典になるのに決まってるでしょ?」
と呆れられた・・・・・・え?!御告げとかそう言うモンに捉えられてたの??!!
魔王の儂からしてコノ様なので真魔族の信仰はかなり適当・・・自由なのだ。
あれ?儂と天龍王アメデって同じ境遇じゃね?
知らんヤツから、いきなり神様呼ばわりされるのも結構キツイんすよ・・・
そして人間族最後の勢力である「魔族」の神は・・・
多分「アトラス神」なんじゃね?故郷がアトランティスなんだし、良くは知らんけど。
でも奴らは「我らは神をも殺す」とか厨二病満載なセリフを当たり前の様にほざくので信仰心とかはメッチャ低い気がする。
盛大に話しが逸れていた内に舞台が進みでは教会に住む孤児達による合唱が始まった。
ウム!可愛いらしくてヨシ!
そこからはフリー公演と言った感じに楽団や吟遊詩人達の公演が続いた。
観客もお目当て演者が出て来ると舞台側に寄り鑑賞して終わると露店巡りをすると言った感じに時間が流れる。
そして公演がお昼休みに入ると狙い通りに露店目当ての観客が一気に増えて会場は満員御礼になった。
舞台前が食事処となり人数も増えてかなり賑やかになったがラザフォードはこの騒音の中で歌えるのか?
「それでは午後の部を開始しまーーーす!!」
係の者が声を張り上げるが喧騒に掻き消されてしまう。
「ん?」「あれ?」「あのおねえちゃんきれー」
ゆっくり真っ直ぐに舞台へと向かう笑顔のラザフォードが通ると食事中の歓談でかなり煩かった人々が次々と黙る・・・
ラザフォードは何か魔法を使った訳では無い。
オーラ・・・何かしらのオーラを感じラザフォードに注目しているのだ。
そして遂にラザフォードが舞台へ立つ。
久しぶりの大きな舞台でさぞや緊張している?と思ったが普段とは顔つきが全然違う?!
十二分、烈迫の気合いが入っているのに凄く穏やかにも見える。
そして可愛いらしく微笑んではいるが、戦いの前の武人にも見えるのだ。
流石!トッププロ!場馴れ感も半端じゃなく威圧されずとも舞台に立つだけで何かに圧倒される!
地球の歌手とは凄まじき者なのだのう・・・
ラザフォードが舞台に立っただけで観客のザワザワが完全に収まり静寂が訪れる・・・
そして遂に!話しが脱線に次ぐ脱線をしまくりながらもラザフォードの舞台が始まった!
お前、ここまで来るのに始まってから何万字かかってるねん!!