12話 「絶望的な状況の中で」
早る気持ちを抑えて帰路を急ぐイリスとシルフィーナ。
平静を装っているが風の魔法をフルに使いシルフィーナの飛ぶ速度が早い。
ユグドラシルの森に近づくとイリスにも森の異変が感じとれた・・・
「あれ?ママの気配を感じない?」
物心がついた時から、いつも当たり前の様にイリス達ウッドエルフを守っていたユグドラシルの大きく優しい気配を今はほとんど感じ無いのだ。
「シルフィーナ!ママの所へ!」イリスの嫌な予感が確信に変わる!
森に降りると薄くなったユグドラシルの気配を補う様に地龍王クライルスハイムの「龍気」が森を覆っていた。
その「龍気」がユグドラシルの霊樹を包み込んで守っているのだが・・・
しかし・・・
パキパキ・・・ペキッ
小さな音をたててユグドラシルの霊樹の樹皮が少しずつ剥がれ落ちている。
「ママ?・・・」その惨状に呆然とユグドラシルの前に佇むイリス。
「ねぇママ?・・・どうしたの?
なんで「おかえりなさい」って言ってくれないの?」
フラフラとユグドラシルの霊樹に近寄って幹に触れると・・・
パラパラパラパラと樹皮の表面が崩れて落ちた・・・
全ての「ユグドラシルの瞳」の譲渡を終えたユグドラシルはイリスと思念波を使い話す力すら失っていたのだ。
「ママ?・・・ママーーー!!」
受け入れる事を拒絶していた「ユグドラシルが枯れた」と言う事実を理解して叫ぶイリス。
「嫌だよママ!いやーーーー!!!」狂ったように叫び続けるイリス・・
すると・・・
「「エルフの少女よそんなに悲しむとユグドラシル様が安心して逝けぬ・・・
辛いだろうが我らは受け入れるしか無いのだ」」
イリスのすぐ横から静かでそれでいて耳によく通る声が聞こえた。
イリスはゆっくりと声がした方向を見ると・・・
そこに体長50mを超える地龍王クライルスハイムが顕現していた・・・
顕現したという表現は正しくないかも知れない、最初からクライルスハイムはここに居たのだ。
クライルスハイムが余りにも森に溶け込んでいた為にイリスとシルフィーナが気がつかなかったのだ。
「「それにな、ユグドラシル様はまだ死んではおらぬ。
霊樹は我の龍気で20年は朽ちぬ、その間ユグドラシル様に語り掛けるが良い。
お主に言葉で答えるのは叶わぬかも知れぬが喜ばれるであろう」」
そうイリスに告げるとクライルスハイムはフッと姿を消した。
突然のクライルスハイムの降臨に一言も言えず唖然としていたイリスとシルフィーナ。
ハッ!と我に返り・・・
「ママ・・・まだ死んでない?20年?」
クライルスハイムに出会った事よりクライルスハイムの言葉がイリスの心を打つ。
「その様ですわ、ユグドラシル様のお言葉は感じる事は出来ませんけど、イリスちゃんに再会出来た喜びの感情は伝わって来ますわ」
「そう・・・なんだ」
まだ心の整理は全然ついて無いが狂おしい程の悲しみは収まりつつあった。
「・・・それよりも・・・シルフェリアが」
シルフィーナがシルフェリアの霊樹を見ながら呟いた。
薄く気配が残るユグドラシルと比べてシルフェリアの気配は皆無と言って良い程に感じる事が出来ない。
「シルフェリア?」
シルフェリアの霊樹はユグドラシルの霊樹のすぐ脇にある。
イリスがシルフェリアの霊樹の前に来て、そっと手を触れると、
《スー、スー》とシルフェリアの寝息を感じた。
「寝ているの?シルフェリア?」イリスがスリスリと霊樹を撫でるが反応が無い。
シルフェリアの今の状態は昏睡状態だ、このまま意識が無いまま霊樹は朽ち果てる事になる。
クライルスハイムの降臨で頭が冷えて冷静に状況分析が出来る様になったイリスは、
「・・・鑑定」シルフェリアに教えてもらった魔法を発動する。
ここでイリスはシルフェリアが魔力枯渇症状だと知る。
正確には魔力がドンドン抜けて体内に魔力を蓄積出来ない状態だ。
「どうにかしないと・・・」かなり絶望的な状態だ。
人間にしたら出血が止まらないと同じ事になっているのだ。
クライルスハイムが龍力での魔力供与、輸血してくれているが根本的な問題解決をしないと駄目だ。
「でも・・・どうやって??」
天龍ならば効果的な対処も出来るがここには居ない、自分の不甲斐無さに目に涙を浮かべるイリス。
「リールをとっ捕まえよう!」
シルフィーナがある提案をして来た。
「天舞龍リールなら何か効果的な対処方法を知っているはず!
リールを捕まえて聞くのですわ!」
「ええ?!女神様を?!でもどうやって??」この提案には驚きしかないイリス。
「そう・・・ですわね・・・」
超音速で飛び回る相手を捕まえるのは並大抵の事では無い。
「出勤途中に網?を使い捕獲する?」
なんか変な事になって来たぞ?誰しも出勤途中で網を投げられれば怒ると思うが?
「網?延縄漁見たいに?」
なぜ延縄漁を知っているイリス?そしてなぜ延縄漁?!
「それですわ!」シルフィーナが乗って来たぁ?!
「風の捕縛陣をリールが通る出勤経路に延縄漁の様にたくさん垂らして連続で掛かる様にすれば、さしものリールでも止まるわ!」
いや!シルフィーナが出勤前のリールの所に赴いて事情を話せば?!
この時の2人は冷静の様に見えて実は完全にテンパっていたのだ!
誰だよ、2人が冷静になったなんて言った奴!私だよ!
こうして「出勤中の天舞龍リールを延縄漁で捕まえよう作戦」が発動したのだ。
リール的にはマジで大迷惑極まりない大作戦になりそうだった。