11話 「ドライアドの涙」
イリスが「ドライアドの森」へ旅立ち8ヶ月が経ちました。
連絡が無いと言う事は頑張って集中しているからでしょう。
これが良く言われた「亭主元気で留守がいい!」・・・全然意味がちがうわい!
そんなノリツッコミは置いておいて。
とうとう刻が訪れました・・・凄い深刻な事態なのに私のせいで台無しですけど。
《シルフェリア?大丈夫ですか?》
「ふふふ・・・身体の崩壊が始まってしまいましたね・・・」
《ごめんなさいシルフェリア・・・わたくしが不甲斐無いばかりに・・・》
「いいえ、いいえ!ユグドラシル様はこの世界の為に尽くしたのです。
不甲斐無いなんて言ってはいけません」
《そう・・・ですわね・・・》
遂に私とユグドラシル様に、目には見えない原子レベルでの崩壊が始まったのです。
原子結合の崩壊・・・つまり寿命が来たのです。
後200年は猶予が有ると思ってましたが・・・
このまま崩壊が進むと30年?ほどで完全に滅びる事となりましょう。
イリスが成人するのに120年・・・
「せめてイリスたんの成人までな!」と思っておりましたが、残念ですが大人になったイリスを見る事は叶いそうにありません。
結構余裕あんじゃねえか?・・・仕方ありませんこれが私なので。
「ユグドラシル様、「瞳」の譲渡を急ぐべきです」
「ユグドラシルの瞳」はユグドラシル様から世界の管理を移管された証。
継承出来ませんでした☆テヘペロ!では済みません!
現在、天龍王、地龍王、海龍王に譲渡が完了してます、残り3つです。
この森の支配権も既に地龍王が継承して森の管理の準備の為に龍都の建設を急いでいます。
「やはり「魔族」にも「瞳」を譲渡する御意志に変わりはありませんか?」
《変わりありません、彼らには充分に世界を管理する力があります。
わたくし達との理念や思想の違いで継承が覆る事は許されないです》
「分かりました、その人選は私にお任せ頂きたいのですが?」
《残念ですが魔族のどなたが継承するかは「瞳」が決めます。
わたくし達が介入する事は出来ません」
「そうですか・・・」
え~?ヤバい奴が継承しちゃったらどうしよう?
頼むぞ!「瞳」よ、清く正しく、明るく楽しい者の所へと飛ぶのだぞ?
《実は先程「エルフ」への譲渡が完了しています》
「!!!!それは・・・どなたへ?」
まさかイリスとか言わないですよね?!ユグドラシル様?!
《ハイエルフ族のクレアです》
「・・・そうですか」
うっひゃー!ビビったわー!でも、めっちゃ順当な所へいって良かったよぉ!
ナイス!「瞳」タン!
イリスには「小娘よ、お主に「瞳」はまだ早い」だもんね!
あれ??安心したら・・・眠気?が・・・ああ、これが眠気なのですね・・・
誕生してから1500余年、初めての眠りです・・・このままイリスと再会出来ないのは嫌です!世界よ・・・もう少し・・・時間・・・を・・・
ユグドラシルとシルフェリアに滅びの危機が迫っているなど思いもよらないイリスは呆れた様子で、酔っ払い共を見ています。
「それでそれで♪イリスちゃん、私の試練は難しかったですか?」
酔っ払い特有のウザ絡みをしてくるシルヴァーナに対して、
「幼児になにさせてんねん!とは思いました」
と冷静にツッコミを入れるイリス、少し口調がシルフェリアに似てきた?
この8ヶ月の試練でイリスは精神的に大きく成長したのだった。
しかしエルフ的には幼児とは言え50歳は50歳なので歳相応と言えば相当か・・・
もう1人の酔っ払いは?
あれ?大人しく少し泣きながらチビチビとお酒を舐めている?泣き上戸?
「シルフィーナ・・・悲しい時ほど明るくあれ、ユグドラシル様の教えですよ?」
シルヴァーナは別にアル中で早い時間からお酒を飲んでいた訳で無い。
いち早くユグドラシルとシルフェリアの滅びを感じ取り、お酒を飲まないとイリスの前で泣き崩れてしまいそうだったからだ。
そして少し遅れて今、シルフィーナも仲間の滅びを察知したのだ。
「ええ・・・分かってはおりますけど・・・ダメな様ですわ」
そんなシルフィーナの様子を見てシルヴァーナも一筋の涙を流す・・・
流した涙が光を放ち始めて結晶化する・・・
「イリス・・・これが「ドライアドの涙」ですわ」
シルヴァーナが出来たばかりの「ドライアドの涙」の結晶をイリスに手渡す。
イリスは手の中の「ドライアドの涙」をジッと見つめて、
「悲しい輝き・・・なんでそんなに悲しいの?」と呟いた。
「うふふふ、これで私からの試練は終わりです」
とても理由を告げられずシルヴァーナは笑いながら誤魔化した。
「さっ・・・シルフェリアが首を長くして待っておりますわ。
そろそろ帰りましょうイリス・・・」
飲んだくれ精霊シルフィーナもとてもお酒を楽しめる心境では無いのだろう、
早く帰りユグドラシルとシルフェリアの様子を確認したいのか、帰宅を促す。
何か嫌な予感がしているイリスは、
「そうだね!シルヴァーナさん!ありがとうございました!」
とペコリと頭を下げた。
さて帰るか!と言う段階でまた問題が生じる。
ブリックリンの様子がおかしい・・・意識が朦朧としてるのか丸まったまま全然動かないのだ。
「あらまぁ、この子「進化」が始まっていますね」
ブリックリンを撫でながらシルヴァーナが診察をしている。
「進化?ブリックリンは地龍さんになるの?」
「ええ♪喜ばしい事ですね」悲しき滅びの中にでも新たな誕生を迎える・・・まさに宇宙の真理とも言えるタイミングだ。
「この子は私が責任を持って守ります。
安心してシルフェリアの元へ帰っても大丈夫ですよ」
「進化にどれくらい掛かるの?」寂しそうに尋ねるイリス。
「そうですねぇ・・・この子の力は強大です・・・
通常は2年ほど寝るのですが力が強いこの子は3年以上掛かるかと思いますわ」
「3年・・・そっか頑張って!ブリックリン!」
人間だったら「うえええ?!3年?!」と言う反応だろうがエルフなイリスは、
「良かったぁ3年ならあっという間だね!」と言う反応だった。
《イリスも頑張れよ》完全に眠る前にブリックリンはどうにかイリスに激励を贈ったのだった。