21話 「ラーデンブルクへの里帰り」
自分がまだまだ弱いと解ったイリスはイリスダンジョンの経営の傍らで大地の精霊王シルバニアの修行に明け暮れた。
そして更に3年が経過した頃、クレアから手紙が来た。
『いい加減に顔を出さんかい!!』の一文だけ書かれていた。
「そう言えば10年近く帰ってないや」
寿命が長いエルフと言えど10年は少し期間が空き過ぎなので久しぶりにラーデンブルクに居る師匠クレアの顔を見に行く事にしたイリス。
「えっ?イリス、ラーデンブルクへ帰るの?」
「うん、ちょっと里帰りにね、ブリックリンとエリカは?」
《私は新企画のアトラクションの準備で忙しいからパスですね》
「俺も新しい集落の建設があるからね」
最近のイリスダンジョン周辺は賑やかだ。
戦乱荒れ狂う世界で比較的安全と言う事で世界の各大陸からエルフや亜人が移住して来てるのだ。
特に驚いたのは高位の魔物のヴァンパイアがイリスに助けを求めて来た事だ。
「そんなに他の大陸は戦争が激しいのですか?」
ヴァンパイアのリーダーの男性との話し合いの中で探る様にイリスが切り出す。
「はい、魑魅魍魎が跋扈しているとはまさしくあの事です・・・
我も品行が良いとは言えませんでしたが・・・酷いモノでした」
聞けば各勢力が自分達の利益のみ追求している日本の戦国時代その物の動乱っぷりなのだそうだ。
「特に中央大陸のピアツェンツェア王国が滅亡したのが更に混乱に拍車をかけてしまいまして・・・」
「ええ?!あの国、滅んだんですか?!」
これにはビックリイリス・・・イリスにも馴染みがあった国だけに驚く。
「正確には「戦略的な撤退」でしたが・・・
国内で酷い寝返りがあり大陸中央部を維持するのが難しくなり古巣のヴィアール共和国へ撤退したと言う方が正しいかと思います」
「随分と混乱してますね・・・」
イリスはピアツェンツェア王国に居たエルフや友好的な亜人をラーデンブルク公国へ連れて来て本当に良かったと思った。
「我等ヴァンパイアもその混乱の中で住んでいた集落を奪われてしまい行く宛がありません、イリス様に忠誠を誓いますので、どうか御慈悲を賜りますよう」
そう言って深く頭を下げるヴァンパイアのリーダーの男性。
「うーん?」
安易に了承も拒否も出来ないイリスは考え込む・・・
道理的には受け入れるべきなのだが相手は強い力を持ったヴァンパイア・・・
簡単に受け入れて良いのやら・・・
すると転移陣に反応があり突如として魔王が降臨した?!
「あれ?バルバトさん?どしたの?」
「いや・・・お主は相変わらず軽いのう・・・イリスよ・・・」
全く!魔王が出て来たんだから少しは驚かんかい!この小娘は・・・
この小娘は我の城とイリスダンジョンを転移陣で繋げておるのじゃ!
理由は・・・「魔王軍の人もイリスダンジョンへ遊びに来て下さい!」との事だ。
「やりましたね!これでイリスダンジョンに遊びに行き易くなりましたよ!」
いや・・・お主は一応、魔王軍の「四天王」なのじゃから・・・
遊園地に遊びに行くのはどうかと思うのだよ?
だがしかし・・・
「うぬ・・・好きにせよ」
って言うしか無いじゃん?!四天王全員が何かソワソワしてるし・・・
「ダメだ!」何て言える雰囲気じゃ無かったのだよ・・・我、悪者になるじゃん?!
なので魔王城とイリスダンジョンは通通な訳じゃ。
「おお・・・バルバト様・・・お久しぶりでございます」
「うむ、お主も大変な目に合うたモノじゃのう・・・
もうこうなってしまったからには仕方あるまい?
過去の因縁は捨てて皆で我の城に来ぬか?」
「えっ?バルバトさんの知り合いだったの?」
「うぬ、知り合いと言うより「旧敵」・・・だったと言って良かったかの?
我等より3代、4代前が勢力争いをしてな・・・袂を別ったのじゃ・・・
しかし同じヴァンパイアじゃ、過去の因縁は断ち切れると思うのじゃ」
「それは・・・確かに我はバルバト様に思う所など何もありませんが、御側近の方々が何て言われるか・・・」
「それはこちらも同じじゃ。
ほとんど会った事も無い者達をなんで恨めるのじゃ?
お主達の先祖と戦った者は全員「転生門」をくぐりもうおらぬ」
ヴァンパイアの3代、4代前ともなると有に5000年前以上の出来事じゃな。
「それは言えるわね・・・そんな前の事を恨み続けるのも大変だよね」
おお?!小娘よ!お主もたまには良い事を言うでないか!
「そう言う事じゃ、気兼ねなく城に来るが良い」
「しかし・・・」やはりいきなりは来ずらい様子じゃな・・・
「それなら少しの間なら此処に居て良いよ?
気持ちの整理が付いたら転移陣を使って向こうに行けば?
それに第三者の此処でなら交流するにも都合良いじゃないかな?」
おお?!また良い事を言うでないか!小娘よ。
うむうむ、小娘も順調に成長しておるではないか。
「うちも悪役の役者さんが欲しかったんだ!」
ん?何だ?小娘よ、お主は何を言っておるのじゃ?
「新企画!「美少女と吸血鬼」の演劇をしているんだけど役者さん不足なの!
ヴァンパイアさんには最適な仕事じゃない?!だって本物の吸血鬼なんだから!」
いや!そうなんじゃが役者とな?
それこそ役者などいきなり出来るモノなのか?
「イリス様、大変ありがたいお話しです。
役者など出来るか分かりませぬが一生懸命にやらして頂きます」
おや?こやつ了承してしまったぞ?
「バルバトさんもそれで良いかな?!ヴァンパイアさん気持ちの整理が付くまで此処で役者さんをやりながら魔王城への移住の話しも進めると言う事で!」
「あ・・・うん、良いじゃないかな?」
なんかイリスは役者さんが欲しかっただけな気もするが・・・
まぁ、悪い話しで無い事だけは確かだから・・・良い?のかな?
「やったーーーー!ヴァンパイアさん達も一緒に頑張ろうねっ!!」
「はい!よろしくお願いします!」
我を置き去りに話しが決まってしもうた・・・
こんな感じで魔王バルバト的には腑に落ちない所はあったが、今ではヴァンパイア達も立派に公演をこなしてイリスダンジョンは連日盛況なのだ。
イリスが少し離れても問題無し!なのだ。
こうしてイリスは一人、ラーデンブルク公国へ帰還する事になった。