第五節:昔の夢と事変のはじまり そして再開
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植物を使って籠を編む、
なんてのはテレビで見た光景以外の何ものでもなく、
まさか自分がこれをする必要があるとは思っていなかった。
でもあの人が言うには生きていくには必須なんだとか。
いわゆるサバイバルの技術、
簡易の手製の道具の作り方、
野生の獣の習性、
食べていいもの悪いもの、
水の良し悪し、
方角の知り方……
あの人は子供たちに色んなことを教えていた。
いや、これは本当は全部子供の親とかが教えることで、
子供たちは……孤児だった。
でも皆俺よりも遥かに幼いのに遥かに手馴れて上手く作っている。
小学一年生の年齢の子に手際で負けるというのは、
恥ずかしさや悔しさを通り越して絶望感すら覚える。
でも何故魔法のある世界でこんなことが必要なんだろうか?
魔法を使って出来ないことだらけなんだろうか?
じゃあ科学は?
俺にばかり掛かりきることは出来ないだろうに、
あの人は懇切丁寧に教えてくれた。
『魔法……俺はマナとかエーテルとか呼んでるんだが、
その資質を手に入れる為には試練がある。
元いた世界でゲーム……RPGをやったことはあるかな?
そのダンジョンを攻略するのと同じことをする、
まあその必要があるというわけだ。』
『魔法など使えない状態で人食いの獣がいる、
ダンジョンの最奥にたどり着く。
これがまずこの世界で“人”と成る為の試練と言うことさ。
つまり成人の儀式に近いな。』
『だがそれを終えても魔法など使えはしない。
身体の能力が上がって、
…魔力の流れを自分の体内に感じ取ることが出来るだけだ。』
『魔法を使う必要がある人間など本来はそう多くはない、だが……』
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夢。
昔の。
ここに来たばかりの。
目を覚ますと全身が痛い。
何がどうしてこうなった。
いや、俺の所為か。
俺があの時……。
目を覚ましたはずなのに見えるものは何もない。
目が潰れたのかと一瞬恐怖する。
身体のいたるところがヌルヌルする。
血か。
さっさと治療しないと命に関わる。
こんなところで死んでられるか。
ああ、見える……。
“あの人”に非常用に光源の魔法を覚えさせられていなければ、
人生が『リアル』に詰んでいたところだ。
明りに照らされたのは、瓦礫の山とボロボロの身体。
血の量の割に傷は浅いようだ。
だが防具も武器も色々と拉げている。
まあ完全ではなくとも使えるならばそれでいい。
ふ、ふ、ふふ、こりゃ人生で二番目の厄日だな…。
光源を付けては消し、付けては消し、
感応波を出しては引っ込め、出しては引っ込め、
を繰り返し進む。
この構造は魔窟ではなく魔宮、つまり人が作ったかのような何か。
何故こんなものが出来るのかは分からないが、
これが生じるようになった切っ掛けは教わった。
-魔王-
大体五百年くらい前にこの世界に現れたとかなんだとか。
……目の前のこと以外の説明的なことを考えるのは、
集中力が鈍っている証拠だ。
回復力にもう少し魔力を割り振るべきか…?
「(良かった!!!!)」
突如頭の中に声が聞こえる。
底抜けに明るい声。
こんな状況でもこんな声を出せるのかこいつは。
「(大丈夫?怪我は…折れちゃってるのか…、
ゴメン、私回復術出来ないから…。)」
そんな超高等技術は誰も期待しちゃいないし、
そもそもこれは念話だろうが。
「(そうだ、皆は?はぐれちゃったまま? そっか。
……うん、なんとかなるなる!!
一人よりも二人だもんね!)」
この場にいないのに随分と自信満々だな…。
こいつとの会話に割く体力が勿体ない。
だが、
「……感応波は俺が使うべきだった、すまない。」
最前衛だからこそ使わねばならない。
隊長をああしてしまったのは俺の、完全に俺の失策だ。
「(あれは仕方ないよ。
私だって穴が開くまで気づかなかったし。)」
確かにあの区域全部が“堕ち込む”とは誰も予想できなかった。
と言うかあんなことが起きるんだな。
そうして一瞬奔る、異様な感覚。