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第四節:「お前も英雄になればいい」



異世界もの、というのは元いた世界、いや俺が生まれて育った世界での漫画とか小説?とかのジャンルで、

まあ興味はなかったかな… と言ってしまえば嘘になるけど、普通に漫画を色々読んでたら出てくる典型的な設定の一つだった気がする。


ただそれが自分の身に現実に起こるとは思ってもなかったし、ましてや望んでもなかったんだけど。


内容はまあそのままだよ、元いた世界から異世界に行って元の世界の知識やら技能やらで活躍するってそんな感じ。

俺にはそんなものなかったけどね。


へええ!ふーん!?

と大げさに驚くような仕草。

別に彼女は俺をバカにしてるわけじゃあない。

こういう風に“なってしまった(・・・・・・・)”のを俺は知っている。



向こうは平和だったよ。

怖いくらいに。


いや、俺がいた国の話だけどさ。

魔物どころか獣さえ稀で、『ジャグチ』を捻れば飲める水が出て、コンビニで気軽に買い食い出来て、

服なんて値段さえ気にしなければ何着だって用意出来た。


何その理想郷…

とこれまた大げさに驚く彼女。

だが目が笑っていない。


後ろの席の男が尻を触っているのだ。


「おい」

男に声をかける。

「ああ?なんですかね?ああ!

 寝床でするようなことしてるから娼館かと思っちまったよ」

下卑た笑いが響く。

後ろの男は男ども(・・)のようだ。

「空想話で女口説いてどこかに売るのかな?

 それとも頭の足らない女を犯りすてでもするか!?」

下卑た笑いがひびく。


「おい」

胸ぐらを掴む。

「ああ?んだこの手は?おめえ、

 “ここ”の酒場で手出したらどうなるかぐらい分かんだろ?」

商都市アレインでは公的な仕事斡旋をしている酒場で、

私闘を吹っ掛けることに対する刑罰は、分かりやすい。


死刑だ。



例え相手がどれだけ挑発しようとも、

酒場の中だけでは安全というわけだ。

そして相手は俺たち二人よりもはるかに多い数。

十五人か。



別の男がマイレイアの胸に手を伸ばす。

それを遮る。

「じょうちゃんよ、こんな空想馬鹿より俺たちと“お話”しようぜ、

 なあ、お金も払ってやるからさあ!!」

下卑たわらいがひびく。


「おいおい、こんなに言い返さない玉無し初めて見たぜ」

「兄ちゃんよお、穴に突っ込むんじゃなくて、

 突っ込まれる方がお似合いなんじゃねえか!?」

げびたわらいが





()()


マイレイアに血が降りかからないように。

拳の先で爆ぜる男の頭


瞬間、男の仲間共が即座に臨戦態勢に



入らせない。



拳が奔る。




一撃。


   一撃。

 一撃。  一撃。

         一撃。

一撃。

       一撃。




半分も死ぬと表情が変わるのが分かる。

逃げる気か、命乞いかは分からない。


一撃。


一撃。


一撃。


一撃。


一撃。


一撃。



淡々と。




ただの口喧嘩か、嫌がらせか、と見ていた客は凍り付いている。

叫び声さえ上がらない。


酒場の主と酒場守(さかばも)りが異常に気付いた頃には、

最後の一撃を加えるところだった。


酒場守りが来る前に、頭抱えてへたり込み俯いているマイレイアを



蹴り飛ばす。


彼女の身体が宙を走り、終着点の酒場の台が砕ける。



彼女なら軽傷で済むだろう。




---



「例外を作れ、と言うのは非常に難しい話だ、

 と言うのは我々が例外だからこそ分かることだろう?」

壮麗な作りの部屋には二人。


「今議会は紛糾状態だよ。

 特に酒場利権を背景に持つ貴族と正規部隊からは、

 即時の死刑執行を求める声さえある。」

一人は立って、一人は座っている。


「逆に通商利権を背景に持つ貴族は割と同情的、

 と言うか静観している風だ。」

豪華な机を挟んで、二人は睨み合っているかのように視線を外さない。


「酒場の客によれば、君の部下一人が(・・・)先に手を出した、

 らしい。」

椅子の長い背もたれに頭を任せる、座っている男。

見下ろすような形になる。


「だが“手を出された方”が、

 その男一人に(・・・・・)過度の侮辱を加えていたとの証言もある。」

疲れた声。


「“犠牲者”と言っていいのか分からないほど、

 彼らには悪評があった。

 何れこういうことは起きると。

 だからというわけではないが、

 市井には同情的な声もあるにはある。」

相も変わらず視線は外さない、まばたき一つしない。


「だがあくまでも“あるにはある(・・・・・・)”程度ということだ。」

座っている男は前のめりになり、机に肘をつき口の前で手を組む。


「この都市の酒場は他の国に比べると独自の権力を持ちすぎている。

 それを削るには……。

 ――私としては寧ろこういう事件を待ってはいた。

 ……待ってはいたが君の部下には……期待していなかった。」



沈黙。



沈黙。



沈黙。




「最初の嘆願以外は黙っているつもりか。

 ……余程重要な戦力らしい。」

座っている側がようやく視線を外し、口元だけを歪める。


「法を曲げろとは言いません。」

立っている側が口を開く。

「死罪に値するならば、死刑に値する行動を取らせれば良い、

 と思っています。」


目を見開く座っている男。


「なるほど。“貸し(・・)一つ”、か」

座っている男の目が笑う。



---



---




第十月 二十日余三日


商都市アレイン 議会 布告。

次の者、死罪に値するもその情状を鑑み、

至ボォドレアの新規通商路開拓を命ず。


・イバラキ ジョーイチ


この者に助力する者は死罪に当たる者とする。



---


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