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第二節:酒場にて



「しかし貸し切りとは驚いたな、参加するのがここまで多いのか」

酒場と呼ばれてはいるが実際は広い『ホール』のような場所で、

普段は酒飲みばかりではなく仕事の斡旋やら交渉やら職探しやらで

人が(ひし)めいている。

しかし、今そこにいるのは概ね荒くれどもばかり。

と言っても『アウトロー』というわけでもないのだけれども。


「十四だったかな、この町以外の部隊も参加するみたい。

 …うぇっ!?正規兵も来てるの!!? 何これ、何が起きるの」

十四、一部隊二十人以上が普通なので、

単純に考えても二百八十人…。

それに確かにいるこの都市お抱えの兵士。

治安維持だ何だので普段の(・・・)俺たちのようには、

都市の外に出る仕事をしない奴ら。

彼らが出張ると言うことは想像以上に大きな案件らしい。


それにしてもこいつは距離が近い。

「何度も言うけど引っ付くなくっ付くな」

「ああ!ごめーんね!ジョーイチくん!!」

と言いながら背中をバンバン叩いてくる女。

一切距離を取る気配がない。


頭痛がしてくるわ。




-




いつもならば踊り子や楽師や吟遊詩人の上がる壇上には、

正規装備と思わしき姿の複数の兵士と、

正装をした役人が立っている。

兵士は七人、その全員が顔を見せている。


この都市の兵士で素顔を晒すということは、

普段の生活を狙われても何ら問題がない実力者。

即ち彼らは全員上級の正規兵ということになる。

対して役人は一人……。

つまり、上級正規兵複数人を役人たった一人の護衛として表に出す、

それほどに重大な事案があるということだろうか。




「諸君!!静粛に!!!」

壇の中央より都市正規の布告官の声が通る。

発せられた言葉は、“魔道による思念の増幅”で

この喧噪を完全に制圧するかのような声となり、

一瞬で場を静める。




「第六月、二日、我らが都市の外郭南西部第七区画にて、

 小規模の異界化報告あり!」


「五日、対処の為の先遣隊を派遣! 未だ帰還せず!」


「九日、都市区画封鎖・封印の提議が承認!!」


「翌十日より周辺区画の避難を開始!!」


十日余七日(とおかあまりなのか)、公式封鎖の完了!封印術式発動!!」


「…二十日、異界の拡大を確認!!」


 一息吸う役人。


「開拓法第四条、及び緊急動議により…

 議会、議会首席の名の下、貴殿らに下命あり!!!」


「アレイン外郭南西部、第七区画、

 封鎖地域の異界化を解除せよ!!!」


布告官は壇の中央から退く。

布告官の言葉は終わった、と皆が気づくも誰一人言葉を発しない。

次いで壇の中央に、最も重厚な装備をした兵士が歩み寄る。


「私は第一部隊隊長フレイス。

 貴殿らに告ぐ。

 これは、“下命”だ。

 だが貴殿らにこの任務への参加を強制することはない。

 ただし、今この都市にありてこの下命を請けない“荒くれども”は、

 以後、この都市における“仕事”を禁ずる。」


「参加を望む組、団、隊の頭領はこの後、

 第二議会場に参上すること。」

「前報酬、及び成功報酬に関する契約内容を協議したい。」


「聞き逃しがあり、確認が必要ならば後に各広場にて、

 布告の正式文章を掲示する。」

「直後の契約協議への参加権はないが、

 追加の参加に関しては我々も吝かではない。」


「以上、この場におけるアレイン議会正規の布告を終了する。」



壇上より役人と兵士が去る。

直後酒場には喧騒どころか騒動とも言える程の混乱が巻き起こる。



-


仲間と話そうにもこれでは大声で話されても判然としないだろう。

こういう時は場が酒でも飲むか、料理でも突いていた方が良い。

と思っても食器を持つ手は少し震える。


((下命だってさ))

異常に通る声が聞こえる。


これは…思念増幅…念話か。

ということは……


((ケス、いきなりは勘弁しろよ))

どこにいるか分からないが多分後ろだろう。


((この状況でいきなり以外は無理だろ……))

もっともだ。


((都市の正式事業、ま、防衛だけど、

  それをここまで大掛かりに布告するなんて……。

  相当危ない案件みたいだね。

  で、何でマイレイアは黙ってるの?使えるでしょ、念話。))

本当に珍しく黙っている彼女に目を向ける。


((議会首席……))

ぽつりと言った単語、それだけでは俺は何も分からないんだけど。

((議会首席って、師匠…隊長の後ろ盾でしょ。

  だから私たちは確実に強制参加。 それは別にいいけど……))

歯切れが悪い。

いや確かに、こんな重要案件をと言うか仕事を隊員に、

事前に何も通さずに(・・・・)というのは初めてだ。


「ことの重大さもだが、

 報酬に関する契約を“協議”なんてあるからだろう。」

念話ではない、普通の声。

それでもこのうるささの中はっきりと伝わる。

どういう技術だ。


マイレイアのいる方向とは真逆から聞こえる声に振り向くと、

いつの間にか真隣にいるのは朝の男。


「基本、この都市で貴族様が(・・・・・・・・・)

 一方的な契約…報酬内容以外をぶん投げてくること以外あるか?

 その意味でも今回のは布告までは極秘に進めなければならない、

 そういう案件だったんだろうさ。

 お仕事が成立するかどうかも分からないのに報酬の協議(・・)なんて、

 噂だけでもこれから商売に影響が出るしな。」

説明的な説明をありがとう、カイレキ。

俺だけでなく二人もお前に感謝しているぞ、多分。



((そういうことじゃなくて))

マイレイアが何か言おうとするが、

「そしてこれは伝令、全隊員東外郭の小酒場に集合。

 まあうちの隊員だけだからさっさと行った方がいいな。」

それじゃ、と残りの隊員に伝えに行くのであろうカイレキ。

一瞬で視界から消える。

この密集したところでそんな技使うとか頭おかしいなアイツ……。



((……マイレイア、何かあるのか?))

((あはははは、大丈夫大丈夫、ただの要らん心配よ!

  さあ飲め飲め!))

いつもの調子に戻ってる。

いやこれから外に出るのに何してくれるのキミ。



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