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第十四節:別れのその先


屍動者は未だに湧き続けている。

あの女が正体を見せてからは随分と攻撃的だが、

所詮は脆い庶民の身体。


数をこなして失っていた罪悪感が蘇ってくる。

そして怒りも。



無理にでも残るべきだったか。

とは言え、この身体では足手まといになることは必至。

隠れて体を回復させようにもそんな場所も時間もこの階にはない。



あの女が瞬間移動でもしない限りは俺に追いつくことはないだろう。

が、さっさとあの部屋に……。



瓦礫。



なるほどね、そりゃそうか。

壁ぶち抜いてきたもんね。



あの食堂のような部屋は崩れ、

あの部屋に通ることが出来なくなっている。

目の前にあるのは瓦礫


と、『オーク』の死体。



……まずくないか?

下手するとこれが屍動者に……。

腑分けしてるから大丈夫だよね?



ぴくり、ぴくりと動く肉塊が見える。

あ、これダメな『パターン』だ……。



のそり、と起き上がったそれ(・・)は生前以上に目に生気がない。

そりゃそうだ死んでるんだし。



うおおおお!!?



中身を失っているとは思えない速度の攻撃。

あの上級正規兵ほどではないが、

こいつのも当たれば“即死”なのは間違いない。


だが、

「アレに比べれば」

回避。


「ただの」

回避。


「お遊びよ!」

回避。


単調にぶん回すだけの攻撃。

正直退屈でさえある。


この身体が万全ならば。



流石にこの状態で避け続けるのは消耗がキツい。

倒すには既に消耗しすぎている……!



『オーク』の攻撃が壁を削る。

床を凹ませる。

テーブルの残骸をまき散らす。


ということは!

瓦礫を背に

攻撃を敵の真正面スレスレで避ける。


『オーク』の攻撃は部屋の入口を塞いでいた瓦礫に直撃する。

吹き飛ぶ瓦礫。


俺がやってもよかったって?

今の状態でそんな精微な制御が出来る訳ないだろ!

部屋ごと吹き飛ばしちまうわ!



『オーク』は振り返りなおも武器をぶん回している。

向こうの部屋がよく見えない。

『オーク』を誘導し位置をずらして見ると……。




あれは……出口か。




戻る、その選択肢がないわけではない。

今になってもその考えが脳裏を()ぎる。



ああ、アイツの覚悟を無駄にするわけにはいかない。

俺も覚悟を決める。


逡巡の後、俺は『オーク』の攻撃を楽々とすり抜け、

次の階の深淵に飛び込んだ。






---

---


家族の顔を覚えている奴は、

この稼業で生き永らえる奴じゃあない。


以前裏切(・・)った傭兵団で聞いた言葉だ。


なるほど、一理ある。

そんな奴らがわざわざ命を捨てる仕事を選ぶわけがない。



俺たち町で生きていた浮浪児は冬よりも夏が怖い。

冬はどこぞに潜っているか、

城壁の外で火でも炊いていればいいんだが、

夏は見た目から臭いから目立つからな。

簡単に見つかって守備隊に押さえつけられて……。



まあ帰ってきた奴はいないよ。

それも当然だな。

こうやって、“裏切る者”をやってるんだから。



帰る場所なんてものはないさ。

組織だって守ってくれるわけじゃあない。

家族?

新しく作る?





お前、家族を裏切りたい(・・・・・)のか?





---

---




破裂音が複数回響く。

あの女が来る前に、掃除は終わらせておきたいからな。

もし、アレを粉々の状態からでも復活させられたら堪らんが。


念入りに死体は――――来たか。



     「うふふ」



「うふふ」

        「うふふ」

            「うふふ」

「うふふ」



同じ声。

だが重なって聞こえる。

一人で輪唱でもしているのかと錯覚する。



さてどうしたものか。

目の前の女……のような何かは、

屍動者を引き連れてゆらゆらしながら近づいてくる。



まあいくつか試してみるか。

まずは……。



引き金を引く。

一度、二度、三度、四度。




何も起きない。

少なくとも視覚的には。




五度目、雷撃が発生する。

轟音を伴った閃光がいびつな軌道を描いて、

目の前の異形に命中するも変化は見られない。


異形は笑っている。 「うふふ」



「これは、なし(・・)か」



六度目、衝撃音。

異形の肉が揺れる。

一瞬波打つも変化は見られない。


心なしか泡立つ肉の部位が増える。

そして異形は笑っている 「うふふ」 「うふふ」



「これもなし(・・)



七度目、鋭い音がする。

その瞬間に女の頭が後ろに仰け反る。

だが再び俺を笑顔で見据え、変化は見られない。


笑い声が増える。「うふふ」「うふふ」「うふふ」「うふふ」「うふふ」

頭にくっ付いた口からではない声は、生理的嫌悪感を増幅する。



「ヒトを止めているだけでなく、生物も止めているのか?」

問いかけるようにつぶやく。

応答があればそれだけでも“コレ”の思考に近づける。




だが異形は笑うだけ。

「うふふ」




八度目。

雷撃に次ぐ大きさの破裂音。

女の額に穴が開き、頭の後ろが()ぜる。

ぐらり…、と前のめりになるも穴は即座に塞がり、笑顔は変わらず。



「うふふ」「うふふ」「うふふ」「うふふ」「うふふ」「うふふ」「うふふ」




キリがない。

疑いよりもキリがないものの対処は、ただただ面倒だ。

せめて解答(こたえ)があってくれればいいんだが。




感応波による感応の悪寒が途端に増える。


見ると周囲の屍動者が増えている。

最初と同じで物量ですり潰すつもりか?



目の前には異形の女。

屍動者は俺とも女とも一定の距離を保っているように見える。




未だに目的が分からない。

会話が出来ない対象とやるのはこれだから(・・・・・)嫌なんだが、

まあ好き嫌いも言ってられない。



……女の動きが変わった。




何だコレ(・・)は、いやアレ(・・)は。



女が、異形が両手を前に広げ、走り寄ってきた。



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