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名探偵ラト・クリスタルの追放  作者: 実里晶
円卓からの挑戦状
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第56話 見果てぬ夢を見続ける者たちへと告げる


 まず、煙突(えんとつ)崩壊(ほうかい)して炎の柱が立ち上るのが見えた。

 炎によって周辺は真昼のように明るくなった。

 続いて石蔵全体が破壊されて、激しい炎に巻き込まれる。

 それから爆風と轟音が母屋(おもや)を襲い、揺らした。

 ラトとクリフはそれぞれ座っていたソファから転げ落ちた。

 マラカイト邸を津波のように襲った衝撃が収まると、二人は庭の向こうをうかがう。石蔵の実験室は破壊されている。毒ガスの入ったタンクも倒れ、大きな穴が空き、破れているのがみえた。

 それを見たラトはすぐさまマラカイト博士の部屋へ、クリフは二階へ上がってリサの部屋へと飛び込んだ。

 リサはまだ起きていた。よほど恐ろしかったのだろう、寝台のそばにかがみこんでいる。


「クリフさん、今の音はなんですか?」

「話はあとだ。今すぐ風上に逃げるぞ! 手ぬぐいはあるか? 外に出る前に口もとを(おお)うんだ。肌もなるべく(さら)さないほうがいい」


 混乱しているリサを(かか)え上げると、クリフは脇目(わきめ)もふらずにマラカイト博士の家を飛び出した。

 先にラトに連れ出されていたマラカイト博士は、暗闇の中で燃え上がる離れに必死に手を伸ばそうとしていた。


「じ、実験室が! ワシの実験室が燃えておる! ワシの研究はどうなったんじゃ!?」

「研究どころじゃありませんよ、博士。すぐに周辺の住民を避難させなければいけません!」

「ええい、離せラト。あれだけ燃えておれば、毒の成分も燃え()きておるはずじゃ!」

「それを確かめるまでは誰も近づけませんってば!」

「離せ! あれはワシの研究じゃっ……! ワシの、ワシの大切な実験なんじゃ~っ……!」


 半狂乱になって叫ぶ老人を車椅子に押さえつけるようにして、ラトたちはマラカイト邸から急いで遠ざかった。





 マラカイト邸の周辺はすぐさま近衛兵団によって封鎖(ふうさ)された。

 とはいえこの封鎖は霊廟のときとは違い、純粋に危険から民を遠ざけるためだった。

 毒ガスは爆発によって()()らされ、あわや大惨事かと思われたが、幸いなことにラトとクリフの脳内で想定されたような最悪な事態は起きなかった。

 博士の言ったとおり、火がついたことでガスの成分はすっかり焼き払われていたのかもしれない。あるいは、風が王都の外へと吹いていたことが功を(そう)したとも考えられる。

 念のため、(ちり)が舞い落ちたとみられる土は捨てられることになり、マラカイト邸へ入ることが許されたのは三日後のことだった。

 その間、マラカイト博士とリサはクリフたちと共にペリドット家のタウンハウスに滞在することになった。

 騒ぎが一段落し、マラカイト邸へと入る許可が降りたあとも、なかなか二人はそこから出ることができそうになかった。

 なにしろ世間の関心は王都の片隅で起きた激しい爆発事故に集中しており、マラカイト博士の研究のことが知れると、ありとあらゆる記者がその結果を知ろうとして、博士の居所(いどころ)を探し回っていたからだ。

 彼らは近衛兵に守られているマラカイト邸にこそ近づくことはなかったが、二日もするとどうやらペリドット侯爵家に(かくま)われているらしいという噂を()ぎつけて、タウンハウスの周辺に出没するようになった。

 博士とリサは遮光幕(カーテン)を何重にも下ろした暗い客室で息をひそめているほかなかった。

 許可がおりるのを待って、ラト・クリスタルとクリフ・アキシナイトのふたりは博士たちのかわりにマラカイト邸へと舞い戻った。

 幸いなことにマラカイト邸は火に巻かれることなく残っていた。

 しかし離れは無残(むざん)そのもののようすであった。

 天井は跡形(あとかた)もなく吹き飛び、壁面も崩れている。とくに暖炉があった箇所(かしょ)と、タンクの近くがひどい。

 あたりには人工迷宮発生装置の部品が飛び散っている。

 このぶんでは、ロンズデーライトの星の欠片も灰になってしまったことだろう。

 瓦礫(がれき)の下からはアルフレッドの遺体が出てきた。

 遺体は全身が黒く焼け焦げており、クリフには原型(げんけい)を留めていないように見えた。

 いけすかない男ではあったが、このような死に方をしたとなると、同業者だということもあって不憫(ふびん)に思えてくる。

 ラトは現場と遺体を丹念(たんねん)に調べると、タウンハウスに戻った。

 タウンハウスでは、マラカイト博士とリサが待ち構えていた。


「ラト、わしの研究はどうなったのじゃ!? 実験は成功したのか!?」


 込み入った話になりそうだと感じたラトは使用人に人数分の紅茶を()れるように頼み、話の続きは談話室(だんわしつ)に移すことになった。

 使用人たちはこの時刻にこうなることを予見(よけん)していたのだろうか。

 談話室にはすでに暖炉に火が入り、部屋の空気はほどよく(ぬく)もっており、人数分の紅茶が用意されていた。

 それも適温の紅茶である。博士の席にはミルクが添えられていた。


「マラカイト博士、アルフレッドは()くなっていました」


 マラカイト博士は実験の結果ばかりを知りたがったが、しかし、ラトが開口一番に口にしたのはその無惨(むざん)な事実であった。

 そのときになって、マラカイト博士はようやく実験の協力者のことを思い出したのだろう。流石に沈痛(ちんつう)な面持ちとなる。


「ああ……そうじゃったか……。奴には気の毒なことをしてしまったのう」

「念のため、司祭様にも来ていただきましたが、アルフレッドが蘇生することはありませんでした」


 ラトが説明すると、マラカイト博士は明らかに落胆(らくたん)の表情を浮かべる。

 実験が失敗に終わったことを予感したのだろう。

 もしも実験が成功し、離れが迷宮化していたならば、アルフレッドは蘇生するはずだからだ。


「しかし、博士、爆発によって装置が破壊されたせいかもしれません。もしかしたら、実験は成功していたのかもしれないのですよ」


 リサがかけたはげましの言葉には、実験のせいで人がひとり死んでしまったことの悲しみは(ふく)まれていなかった。

 彼女にとっては、資金と引き換えに体の関係をせまったアルフレッドの死は、些細(ささい)な問題に過ぎないのだろう。

 それは一種の残酷さととらえることもできたが、実験の結果に集中している二人はまるで気がついていないようだった。


「爆発は何らかの原因でタンクの中に入っていた毒ガスが()れ出て、暖炉の火が着火したことによるものと思われます。最後にバルブの確認をしたのは誰ですか?」


 ラトが訊ねると、リサがみずから名乗り出た。


「私です。みなさんと実験室に入ったときに……。もしかして、バルブがゆるんでいたのを見逃してしまったのでしょうか」

「いや、そうじゃとしたら、ここにいる全員が毒ガスを吸って、とっくの昔に死んでおるわい」


 不安そうなリサを、今度はマラカイト博士が(なぐさ)める。


「それくらい毒ガスは強力なものなのですね、博士?」

「当然じゃ。場合によっては、ワシが吸っていたかもしれない毒ガスじゃぞ。長く苦しむよりは、ひと息で楽に()けるほうが良いじゃろう」

「一理あります。現場でアルフレッドの遺体を確認しましたが、彼の死因は焼死ではありませんでした」


 それは実際に現場に行き、共にアルフレッドの遺体を確認したクリフには、にわかには信じ難い話だった。


「本当か? ラト。あれだけ黒焦(くろこ)げになっていたんだぞ」

「確かだよ、クリフくん。強い熱で衣服や髪、皮膚はひどく焼けただれて、(すす)(おお)われていたけどね、爆風で吹き飛ばされたのが幸いしたんだろう。体の内側は大したことがなかった。ちなみに激しい火災で死んだ場合、遺体の鼻や(のど)の奥まで熱傷(ねっしょう)が起こり、灰や煤が付着するのが普通だ。被害者は炎で熱された空気を吸い込んでしまうんだよ。しかし――アルフレッドの場合、熱傷はそれほどではなかった。つまり、彼は炎をほとんど吸いこんでいないということになる。アルフレッドは爆発が起きたときには毒ガスで死んでいたと考えるのが妥当(だとう)だ」


 女性の前でするにはどうにも生々(なまなま)しい話だが、リサも、マラカイト博士と共にラトの話を真剣に聞いていた。彼女にとっても、実験は大切なものなのだろうとクリフには感じられた。


「それから、もうひとつわかったことがあります。現場の付近を僕のレガリアで調べてみたのです。すると、離れを中心として魔法の反応が出ました」


 ラトがレガリアの()め込まれた自分のステッキを見せる。

 事件現場で魔法を使用したかどうかがわかる魔力探知の鉱石技能(こうせきスキル)は、ナミル氏の事件、地下拳闘場の事件でみせたものと同じだろう。

 そのときは魔法が使われたかどうかがわかるだけで大した能力ではないと思ったが、今回ばかりは違う意味があった。


「本当かっ? つまりそれは、ワシの研究が成功したということか!?」


 再び、アルフレッドの犠牲は忘れ去られてしまった。

 博士は満面の笑みを浮かべている。

 リサはその隣で目を見開き、驚愕(きょうがく)の表情だった。

 しかし、ラトの言葉はどちらもを落胆(らくたん)させるものだった。


「さて、残念ですが、成功したかどうかまではわかりません。実験中、アルフレッドは離れで何度か魔法を使い、装置の効果を試したはずですから、そのときの魔法の痕跡(こんせき)かもしれません。僕のレガリアの鉱石技能では、誰が使用したどんな魔法かまでは判別できないのです」

「なんじゃ、ぬか喜びさせよって……」


 博士は一転して(くや)しそうに奥歯を噛んでいる。

 しかし途中で何かを考え込むようなしぐさをみせた。


「いや、しかし……そういうことなら……」

「どうしたのですか、博士」

「ふうむ、もしかするとじゃぞ、ラトよ。あの晩、離れにいたのは確かにアルフレッドだけなのじゃな」

「そうですね。あの晩、僕とクリフ君は居間に残り、実験室の様子をうかがっていました。ですが、ほかの誰かが出入りした形跡(けいせき)はありませんでした」


 実験室からアルフレッドが出て来ていないことも確かだ。

 そもそも石蔵には鍵がかかっており、脱出は不可能だ。

 鍵を持っていたのは博士自身である。博士の世話をしていたリサも持ち出すことはできるだろうが、彼女は自室に戻った後、外に出ていない。

 リサがもしもこっそり出ようとしたとしても、廊下や階段の(きし)む音ですぐに気がついただろう。

 博士にいたっては不自由な下半身と車椅子の乗り降りという難関がある。


「では、毒ガスのバルブを開けたのはアルフレッド自身なのではないか? 考えてもみよ、部屋にはアルフレッドしかいなかったのじゃ。毒ガスを流出させることができたのはアルフレッドしかおらん」


 博士はどこか興奮(こうふん)した様子でそう言った。

 ラトは紅茶のカップを受け皿に戻し、両手を組んでその上に(あご)をのせ、訊ねる。


「じつに興味深い見解(けんかい)です。誰も入れず、出ることもできない密室の中で毒ガスが()れたのならば、確かにその可能性は高い。しかし、毒ガスのバルブを自ら開けるのは、自殺を(ため)すようなものです」


 クリフもラトと同意見だった。

 バルブを開けたのがアルフレッド自身であるということは考えたが、直前にリサに迫っていた下劣(げれつ)な男が突然、人生を悲観(ひかん)して自殺をはかるだろうか。

 しかし、マラカイト博士には確信があるようだった。


「つまり――つまり、じゃ。わしの実験は成功したのじゃ。魔物じゃよ、ラト。おそらく、あの晩、実験室には魔物が出たのじゃ!」


 老科学者はそう言って(つば)を飛ばした。


「そう考えればすべて納得がいくというものじゃ、アルフレッドは実験を成功させたのじゃ。その結果、離れは迷宮と化したのじゃろう。迷宮化実験には魔法が使用できるようになるという効果もあるが、副作用として魔物が出現する可能性もあった。その予想通り、離れには何らかの魔物が出たのじゃろう」

「なるほど。もしも魔物が出たとしたら、アルフレッドは戦おうとしたでしょうね」

「そうとも。しかしだ、ラト。もしかしたら……いや、きっと、そこで想定外の出来事が起きたのじゃよ。その魔物は想定よりもずっと強い魔物だったのじゃ。アルフレッドは魔物を倒そうとしたが(かな)わなかったのじゃろう」

「ふむ、続けてください」

「まだわからないか、ラト。探偵騎士ともあろうものが!」


 ラトは探偵騎士ではないが、マラカイト博士にとってはジェイネルの息子というだけで、同じようなものなのだろう。


「アルフレッドは魔物を外に出すまいとして、わざと毒ガスを使ったのじゃ!」


 毒ガスを使えば魔物を殺せると思ったのか、それとも、もう少し知恵を働かせてガスに引火させようとしたかはわからない。

 わからないが、しかし彼は王都に魔物を放ってはいけないという一心(いっしん)から自己犠牲(ぎせい)の精神を発揮して、毒ガスが()き出てくると知っていてなお、鉄パイプに駆け寄り、バルブを開けた。

 そして毒ガスを吸ったアルフレッドはその場で死亡してしまった。

 部屋にはガスが充満(じゅうまん)し、大爆発が起きたという筋書きである。

 魔物はその衝撃で(ちり)になったか、吹き飛ばされたか、逃げ去ったのだろう。

 この主張が確かなら、離れには魔物がいたということになり、実験は成功したということになる。

 博士はいま()べた自分の説を心から信じ切っているようだった。

 歓喜(かんき)の涙を流し、声を詰まらせながら話し続けている。


「科学の道を(こころざ)し、苦節(くせつ)数十年……ようやくこのときが来た。科学が日の目を見るときが。探偵騎士団を見返し、先王陛下とのお約束を守り、このワシが宮廷(きゅうてい)に返り咲く日が来たのじゃ……!」

「博士……おめでとうございます……!」

「おお、リサ。お前もよろこんでくれるか」

「はい、博士。博士の悲願(ひがん)はわたしの希望でもあります。喜んでおりますとも!」


 リサも涙を流していた。

 ふたりは手をしっかりと握りあい、まるで親子のように支え合っていた。

 そんな二人を、ラトは物も言わずにどこか遠くから見つめていた。

 クリフはラトの様子をみて、はっとした表情を浮かべる。

 ラトは紅茶に全くと言っていいほど手をつけず、そしてその瞳は恐ろしいほど()()えとしていた。

 長いまつげに(ふち)どられた瞳は(またた)きもせず、何ら感情を浮かべずに黙っている。

 端正(たんせい)な顔立ちとも(あい)まって、人形のようにも見えた。

 マラカイト博士はその視線に気がついていなかったが、リサは違った。

 彼女はどこか居心地(いごこち)の悪そうな様子であった。

 ラトは博士の(せつ)を黙って聞いただけで「そうだ」とも「違う」とも言わなかった。

 しばらくステッキを手にして立ち上がり、冷たい声で言った。


「僕はしばらくひとりで自分の考えというものをまとめたいと思います。今日はこれで失礼します」


 そう言って自室に帰って行った。

 表情といい、態度といい、まるで取り付く島もない様子だった。

 その素振りはどこか他人を遠ざけたいようにも見え、クリフもわざわざ後を追おうとは思わなかった。

 その後、ラトは夕食の席にも姿を現わさなかった。

 再びラトが部屋の外に出てきたのは、博士たちが食事と歓談(かんだん)を終えて、就寝のために客室に戻った後だった。

 クリフはジェイネルの帰宅を待っていた。

 だが今夜は急な用事が入ってしまったとかで、どうあってもタウンハウスには戻らないと知り、あきらめて寝室に戻ろうとしていたときのことだった。


 窓ガラスごしにラトの緑色の頭が見えた。

 初日に昼食をとったテラスだ。


 クリフはいったん通り過ぎようとしたが、少し考えてテラスに出た。

 ラトは長椅子(ベンチ)に腰かけていた。

 ひざ掛けの上には赤い手紙が()せられている。

 だが、ラトのまなざしは手紙ではなく、中庭の何もない暗がりに向かっていた。

 クリフは黙りこくっているラトの隣に腰かける。

 とくに何か考えというものがあったというわけではない。

 しかし、太鼓(たいこ)も叩かず、妙な煙草(たばこ)を吸うでもなく、やかましいことを言うわけでもないラトというのはおよそ初めて見た。

 無視をするのも不義理(ふぎり)というものだろう。

 しばらく、お互いに黙っていた。

 ラトは手紙を一枚手にとると、折り目を無視して丁寧(ていねい)に折りたたんだ。手紙は紙飛行機になる。

 手に取って放ると、ラトの折ったそれはぐるりと庭を一周し、戻ってくる。

 

「よく飛ぶな」


 クリフが思わずそう口にすると、ラトが答えた。


「以前、博士が折り方を教えてくださったんだ」


 テラスの床に落ちた紙飛行機を、ラトは(ひろ)い上げるでもなく、無気力に見つめていた。


「……博士はね」


 ラトは小さな声で呟くように言った。


「昔から探偵騎士がきらいだったけれど僕には何でも教えてくれたよ。嫌そうな顔はしたけど、追い払うことはしなかった。博士は誰であっても科学は平等だと(おっしゃ)っていた。知識と教育は求める者にいつでも無償で与えられるべきだというのが博士の考えなんだ」

「そうか。立派な人なんだな」

「うん、僕はそんな博士のことが、パパ卿の次に大好きだったよ」

「なあ、ラト……。もしかすると、お前はもうとっくの昔に事件の犯人に辿りついてるんじゃないのか?」


 クリフがそう言うと、ラトの無表情の仮面はたちまち崩れ去った。

 ラトは眉間(みけん)(しわ)をよせ、中庭の暗闇を(にら)みつけている。


「どうしてそう思うの?」

「俺には事件のことはわからないが、お前とはちょっとした付き合いだ。様子がおかしいことくらい気づくさ」


 昼間、ラトは博士たちの前で明らかに落胆(らくたん)し、そして言うべき言葉を(つつし)んでいた。いつものラトのならしないことだ。

 そう言うと、ラトの表情はいよいよ悲痛(ひつう)なものとなった。

 奥歯を()みしめて、必死に感情を押さえ込んでいるようにみえる。

 クリフには、いま、ラトが何を恐れているのかが手に取るようにわかる気がした。

 だからラトが次の言葉を口にしたときも、クリフは(おどろ)かなかった。


「……事件の犯人はリサだ。彼女がアルフレッドと、新聞記者のニック・ナイジェルを殺害したんだ」


 重苦しい沈黙が降りた。

 あのリサが、という気持ちと、やっぱりか、という気持ちが同時に押し寄せる。


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