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駆け抜けて、

カクヨムお題。

走る。

 




 いつも通りおはようって挨拶をして、いつも通り隣に並んで、そしていつも通り笑い合って。

 そんな毎日がずっと続いていくと心の何処かでは思い描いていた。


 多分それはアイツも一緒で、もしかしたら死ぬの時まで隣に一緒にいられるんだと私は思っていた。


 いや、思っていたかった。


 その考えが間違っていたことに気づいたのはいつも隣りにいる幼馴染のアイツが、私には見せない笑顔で笑っていたからだ。


 なんでそんな顔で笑っているの、なんで聞かなくてはわかる。

 アイツはあの子が好きなのだ。

 そしてよりによってアイツは私に「あの子が好き」と、そう告げた。


「──そっか、ガンバレ」

「応援、してくれるの?」

「勿論、私たち親友じゃん!」


 なんて口から出まかせを言ってのけてはみたが、私だって昔からアイツが好きだった。

 足の早かったアイツが、手を引いてくれたアイツが、おんぶしてくれたアイツが、私にだけ本音を話してくれアイツが、ずっとずっと、幼い頃から好きだった。


 大好きだった。



 世界はどうしてこんなにも残酷なのだろう。

 ずっと昔からアイツを好きだった私ではなくて、ポッでの笑顔の愛らしいあの子がアイツの心を射止めてしまう。

 私たったアイツの行為を邪険にしないのに、裏切らないのに、アイツはあの子に夢中なのだ。


 たとえ私が不毛な恋だと告げたならアイツはあの子を諦めただろうか?

 嫌われかもしれないよと伝えたならば思いを隠し通したのだろうか。

 私には分からない。


 ただ私の黒い感情はどうしようもなく消えることはないない。


「ぅぅあぁあぁああああぁ──!」


 そうだとしでこの思いは、想いは、アイツには届かない。


 たった一人で歩むことになってしまった帰宅路を全速力で駆け抜けて、言い出せない言葉の代わりに声をあげて。

 近所のおばちゃんからは「青春だね」と微笑まれたけれど、これが青春ならばなんて苦く苦しいものだのだろう。


「ぁぁぁあああぁ──!!」


 好きだった。

 好きでした。

 大好きでした。


 私は幼馴染が、アイツが、同性の彼女を愛していました。


 不毛な恋だと分かっていながら、愛される事はないと知っていながら、この場所に立っていれば一番の親友で、アイツの"同性"としての一番でいられるとずっと思っていたから。


 嗚呼、それなのに。

 それなのに!


 アイツが好きになったのが同じ女だなんて!


 笑顔の可愛いあの子、小柄なあの子、ちょっと抜けたおっちょこちょいの女の子。

 私と違った"女の子"を彼女は好きになってしまった。


 この後悔にも怨みにも似た感情を閉じ込めておくのは今の私にはできない、出来るわけがない。

 あの幸せそうな顔を隣で見ているだけだなんてなんて地獄なのだろう。



 どうしようもない衝動に駆られ、駆け出して。

 私は血の味のする唾を飲み込み。

 息があって心臓が痛い。

 額には汗がながらワイシャツが背中に張り付いていた。


 なんで、どうしてと今更考えたところでどうにもならないのは理解している。

 アイツが好きになったのはあの子で、私ではない。

 同性だから好きになったのではなくて、あの子だからアイツは好きになったのだ。


 そんな事は分かりきっているのに、それでも私は────。


「ぅぅぅううあぁあ──!」




 誰かを恨まない様に、あの子とアイツを傷つけない様に、私はこの感情に区切りをつけなくてはならない。


 全速力で走り切って、倒れるまで駆け抜けて、そして全ての感情を朝と涙に変えたら言ってやるんだ。


 おめでとう。


 と、ただその言葉を。



百合百合の話。

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