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<R15>15歳未満の方は移動してください。

養女になったら幸せになったオレイユの話。

「ひとつだけ、あのうちから脱出する方法がある。

それは私の娘になる事だ。

私にはもう家族がいない。だから、君を養女にしても反対するものはいない。」


私はこの優しいリゲッティさんが大好きなので、

「お願いします!私を養女にしてください」

と頼んだ。


恋愛要素薄めですがよかったら読んでくださいね!

この家では私はいない事になっている。


11歳で母が亡くなった。

物心ついた時から母は寝たきりだった。

母は、

「オレイユ、あなたの父には気をつけなさい。あなたを残していかねばならないなんて…。オレイユの幸せを祈っているわ。」

とよく言ってた。


母の葬儀は簡素だった。

そして半年も経たないうちに、父は妾と私と同じ歳の義妹のメリッサを連れてきた。


政略結婚の両親の仲は悪く、父は妾を作って帰ってこなかった。


もともと帰って来なかった父に対しての愛情はない。

父も好きでもない相手の子供である私が嫌いだったようだ。


そんな私がいるところに2人を呼んだのは伯爵家にいた方がいい暮らしができるからだろう。


義母と義妹は私の持ち物を全部捨て、メイドを自分達の所から連れてきてた。そして部屋の移動を強制された。


新しい私の部屋は北向きの当直室を改造した部屋。

しかも普段から出て来れないように鍵をかけられた。

なにも与えられずに過ごす日々。

栄養も足りずに、体はガリガリ、髪はボサボサだった。


鍵が開くのは少しの残飯を乗せたトレーが運ばれてくる夕方の一回だけ。


トレーを運んでくるメイドは何人かいる。

曜日ごとの当番制らしいが、知らないメイドばかり。しかし、毎週木曜日が私を慕ってくれたタニーの当番の日なのは嬉しかった。


タニーはいつも自分のご飯を分けてくれて、

そして色々な話を聞かせてくれた。

「どうにかお嬢様を助け出したいです!」

がタニーの口癖だ。


何度目かの木曜日。

私はタニーが来るのをウキウキしながら待っていた。

タニーは嬉しそうに入ってきた。


「庭師のジョンに聞いたんですけどね、当直室には隠し扉があるらしいですよ。だから2人で開けてみましょうよ!」

とタニーは楽しそうに話を続ける。


「なんでもジョンの話によると、この本棚の一番下の引き出しの裏にレバーがあって、引くと扉が開くらしいですよ。

50年前に実際に開けているところを見たと!」


「え?ジョンは68歳でしょ?そんな50年前の記憶あてになるの?」

私は笑いながら、タニーが言った一番下の引き出しを出して床に置いた。

引き出しのあった場所に手を入れるとたしかに金属に手が当たる。


私はそれを引いた。


本棚かゆっくり動いて、そこに通路が見えた。

通路の先はなんだか明るい。

まじまじと覗き込む。


通路は高さ130センチくらい、幅が50センチくらい。

私なら進めるが、少しぽっちゃりしたタニーではつっかえるかもしれない…


「お嬢様、これって狭いし低いし私は通れないです」

悲しそうにタニーはつぶやいた。


とりあえず進んでみると、天井がだんだん低くなり、とうとう四つん這いになった。

四つん這いの先には光が見える。


そのまま突き進むと、なんと!

倉庫に併設された犬小屋から外に出れた。


宿直室、その横が増築された倉庫、その横に造り付けの犬小屋と並んでいる。


これは逃げ道だったんだ!


私はもう一度犬小屋に入ると部屋に戻った。


「タニー!すごいわ!倉庫横の犬小屋に通じていたの!犬小屋から出られるわ!」

私はタニーに抱きついた。


「お嬢様!逃げ道は確保できましたね」

タニーと手を取り合って喜んだ。

「庭師のジョンもお嬢様を心配していましたから、こっそり伝えておきますね」


その日から、たまに外に出るようになった。


でも見つかったら何をされるかわからないのでフラフラできない。

メイドや義家族に見つからないようにコソコソと隣の屋敷の庭に来た。


ここは昔から空き家だ。


だから、隣の家の庭を散歩していたら、

空き家だと思っていた屋敷の勝手口が開いた時、ビックリして固まった。


勝手口を開けたのは、年老いたメイドだった。

メイドはびっくりしていたが私をみると気を落ち着かせて

「どうしました?お嬢さん。あなたは確か、あの窓から見える女の子?」


カーテンのない私の部屋は丸見えだったようだ!

恥ずかしい…


「…はい…」

私は返事をしたが、勝手口から漂ういい匂いにお腹が鳴った。


年老いたメイドはフフフと笑うと、

「お嬢様、私はマアサと言います。これからはマアサとお呼びください」


「ところでお嬢様、我が家のご主人様と一緒にランチはいかがですか?

我が家のご主人様はあまり手の込んだものはお好きではないので簡単なランチですが…」


私は頷いた。


中に入ると、最近引っ越しできたようで、新しい家具が並んでいた。


案内された部屋にはソファーに座って本を読む白髪頭の男性がいた。


「おやおや可愛いお客さんだね」

そう言うと、白髪頭の男性は私を撫でてくれて、

「私はサイモン・リゲッティだよ」

と自己紹介してくれた。

「オレイユ・ウィルソンです」

私も名乗った。


ランチはよく煮込んだ野菜たっぷりのコンソメスープと、サンドウィッチだった。


私の食べる様子をメイドのマアサとリゲッティさんは嬉しそうに眺めていた。

そして、

「お腹がすいたらいつでもおいで。」

と言ってくれた。


その日から、少しずつ、リゲッティさんの家に行く事が増えた。

リゲッティさんの家には、リゲッティさんとメイドのマアサしかいない。


初めのうちは、たまにランチをご馳走になったが、だんだんリゲッティさんは、本を読む楽しさを教えてくれるようになり、歴史やマナーなどを教えてくれるようになった。


私は覚えるのが楽しかった。


庭師のジョンとタニーは私の脱走を手伝ってくれた。

服が土で汚れたらバレるので、汚れないように通路に敷く物をくれたり、誰かに遭遇しそうになったら注意を逸らせてくれたり。


そして、閉じ込められて一年、リゲッティさんのところにくるようになって半年が経とうとした時、リゲッティさんは言った。

「あのうちに、このまま居たいか?」


「やだ!早くいなくなりたい」

私は言った。


「ひとつだけ、あのうちから脱出する方法がある。

それは私の娘になる事だ。

私にはもう家族がいない。だから、君を養女にしても反対するものはいない。」


私はこの優しいリゲッティさんが大好きなので、

「お願いします!私を養女にしてください」

と頼んだ。


「オレイユ、君の家の横には住みたくないだろ?

だから、君が養女になったら私の本当の家に帰るつもりだけど、どうだろうか?。ここは借家だし、私も思い入れがない。」


私は頷いた。


「私の養女になるには、教会で手続きが必要だ。

なに、私に任せて欲しい。

うまくいけば、明日出発できるよ。

明日はここに来ずに、家で待っていてくれるかい?」


そう言ってリゲッティさんは飴をくれた。


次の日、言われた通り待っていると、

部屋の鍵が開いた。

父だった。


「一年ほど前に隣に越してきた爺さんがお前を養女に欲しいと、金を積んできた。

窓から見えるお前がわかいいから子供にしたいと」

と父は馬鹿にしたように言った。


「年寄りは目が悪いからな。

お前に1人、メイドをつけて寄越して欲しいって希望だから、昔からいたタニーをつけていく。

あいつは可愛いメリッサからクビにするように頼まれてたんだ」

父は、私に部屋を出るように促した。


玄関にはタニーが待っていた。


「年老いたメイドしかいない爺さんはお前を買うのに全財産使ったんじゃないのか?

お前を子供にしてどうするんだろうな」


父は嫌な笑いを浮かべたが、手続きが必要なのでタニーと私を教会まで連れて行った。


教会の中にある記録室に通されると、

そこにはリゲッティさんがすでに待っていた。


手続きは簡単なものだった。


リゲッティさんは、私を養女にするための条件書を父に差し出した。

父は全部読むと納得した。


それを見た司祭様はその紙を声に出して読んだ。


「一つ、オレイユはウィルソン家と縁を切り他人になる。

一つ、オレイユは今後サイモン・リゲッティの娘になる。

一つ、オレイユの持っていたウィルソン家に係る全ての権利はなくなる。

一つ、ウィルソン家の権利はオレイユ以外の正統な者に帰属することとなる。

一つ、オレイユの今後の権利はオレイユだけのものである。

一つ、サイモン・リゲッティの持つ全ての権利は今後オレイユに承継される。」


読み上げた後、司祭様は私と、リゲッティさんと父の顔を見た。


「異議のあるものは名乗りでよ」

司祭様の言葉に誰も返事をしない。


「では異議がなかったので、成立とする。3人とも、書類に署名を」

そう言われて、リゲッティさんと、父と私はサインをした。


父は振り返らずに去って行った。


「オレイユは今日から私の娘だよ。」

とリゲッティさんは嬉しそうに言うと、


「タニーも今日からよろしく頼むよ。

最初の仕事はオレイユを美しくすることだ」


リゲッティさんはそう言うと、屋敷とは反対の方に向い、高位貴族の屋敷があるエリアに入った。

一軒のお屋敷の門をくぐり正門に馬車を停めた。


お屋敷の二階に案内されると、いつも屋敷にいるメイドのマアサが笑顔で待っていた。

「さあさあ、まずはバスタイムですよ。」


マアサとタニーに手伝ってもらい湯浴みをした。


タニーは毎週木曜日、少しのお湯を持ってきてくれていた。

あの時は体や頭を拭いて清潔を保てるようにしていたが、たっぷりのお湯に浸かり、誰かにきれいにしてもらうのは久々だった。


自分に起こった幸せだとはまだ信じられない!


「オレイユ様、申し訳ありませんが本日はお召し物がないので、これを着ていただけませんでしょうか?

お好きな色がわからなかったのでオレイユ様の目の色と同じ、セルリアンブルーのドレスにしました」


マアサはそう言うと、新しいドレスを着るのを手伝ってくれた。

ドレスを着て、髪を結ってもらった。


「さあさあ、ご主人様がお待ちですよ」

とサロンに通された。


サロンには沢山の家族写真がある。

ウィルソン家のお隣の借家に飾ってあった写真もある…。

どの写真も幸せそうな家族写真だった。


「あらためて、オレイユ嬢。私の娘になってくれてありがとう。

私は家族が事故で死んでからずっと、この家族で暮らした家に帰る勇気がなくてね。

借家や新しい家を買って転々としていたんだ。

…20年間、この家に帰ってなかったんだ。

でも、新しい家族であるオレイユがいるから久々に帰ってきたよ。」


私は、意を決した。


「私のお父様!」

頑張って呼んだ。


「お父様と呼んでくれてありがとう!オレイユは私の新しい家族だ!」


この日はマアサやタニーを交えて、お父様と4人でゲームをしたりして過ごした。


次の日、お父様は

「教会で養女になる手続きが完了した通知が来たから、今日は貴族院に行って、後継者の手続きを取らないと!

それから新しい洋服を見に行こう!」

と言った。


私は昨日とは違う淡いピンクのドレスを着せられ、父と貴族院に向かった。


ここで初めて、お父様『サイモン・リゲッティ様』はいくつもの名前があり、リゲッティ姓はいくつかある領地の領主としての姓だと教えられた。


一般的に知られているのは『スワロー公爵』だと!

スワロー公爵は、この国で5本の指に入る公爵家だ!


「一つ、サイモン・リゲッティの持つ全ての権利は今後オレイユに承継される」


とお父様は言うと


「だから、スワロー公爵としての地位もオレイユが継承することになる」


お父様は笑って言った。


「スワロー公爵の名前を教会で出すと相手がどんな事を企むか目にみえている!だから、あえて伏せたんだよ。

それに仕事以外ではいつもリゲッティ姓を名乗っているしね。」


お父様はウインクをした。



貴族院に着くと別室に通された。

教会からの書類を提出して、後継者の手続きを済ませた。


貴族院から出る時、聞き覚えのある声が聞こえた。

すごく怒鳴っている


「なぜ私たちがウィルソン邸から出なければならないんだ!!」

すごい剣幕で怒っているのは『元父』

貴族院の職員は手元の書類を見ながら答える。


「ですから、養女に行ってしまったオレイユ嬢の持っていたウィルソン家に係る全ての権利はなくなったんですよね?」

職員が確認すると、

「そうだ!」

と返事をした。


「そしてウィルソン家の権利はオレイユ嬢以外の正統な者に帰属することとなるんですよね?」

と職員は更に確認した。


「そうだ、それがどうした?」


「今まで、ウィルソン家の正統な血統であるオレイユ嬢が全ての権利と権限、そして財産を持っていました。」


「そんなはずはない!」

と『元父』は怒鳴る。


「この国では子供が生まれるたびに、『資産や権利は血統で管理される』という書類にサインするのは知っていますね?」


『元父』はわかっていない。

多分、読まずにサインしているんだろう…。


「ウィルソン家の正統な血統はオレイユ嬢だけですよね?貴方は婿養子で血縁ではないし…。前ウィルソン伯爵とは後継者の手続きはされなかったようですし。」

職員は書類から目を離し、元父を見た。


「となると正統な血統である者は、オレイユ嬢の叔母家族になります。

叔母はすでに亡くなっていますが、息子が2人いるので

、ウィルソン家の後を継げるのは、この叔母の息子の次男、クリムト様になります。

貴方はウィルソン姓は名乗れますが伯爵ではなくなりますね」


「そんな横暴許されるはずがない!」

と暴れる元父。


それを見ていたお父様は

「行こうか」

と馬車まで無言で歩いた。


「オレイユのお父さん、今は他人だけど…彼は署名をする時点で気づいてなかったんだね。

文官が貴族院で暴れたらどうなる事か…」


この後、この話題には触れなかった。


「じゃあ、気分転換にお昼を食べてから、買い物に行って、オレイユに必要な物を買おうじゃないか」

とお父様は言うと、素敵なレストランに連れてきてくれた。


「ここでランチを取りながら会合をよくするんだよ。気に入ったならまた来よう」

と言ってくれた。


ランチの後は、この国1番のヤムノ商会に連れてきてくれた。


ヤムノ商会の一階は人がいっぱい見えたが、別の入り口から入り、個室に通された。


個室に素敵なドレスや靴、扇、帽子にバック、アクセサリー類まで!沢山並んでいて、好きなものを選ぶように言われた。


自分では選べなくて、ヤムノ商会の店員と、タニーに相談にのってもらいなが決めた。


お父様は私が触った物全てを買った。


「買いすぎです…こんなにあっても着ていく場所もないし…」


「15歳になったら王立学園の入学式だよ?それまでに友達を作るためにお茶会に参加しないとね。あっ!勉強道具も必要だね」


お父様は笑うと、

「来月、また学用品を買いに来ないとね」

と言った。


沢山の荷物を持って、私たちの後ろからヤムノ商会の侍従が馬車までついてきてくれた。


荷物はスワロー家の馬車の後ろに準備されたヤムノ商会の馬車に積み込まれていく。

『こちらのスワロー公爵様は沢山買い物をしましたよー』と言われているようだ。


と、そこに元家族が何やら荷物を持ってやってきた。

どうも宝石部門の責任者に会いたいと言っているようだ。


お得意様専用の入り口に立つ私に気づいた義妹のメリッサと目が合った。


メリッサは私に気づいて目を見開いた。

そして元義母の腕を掴み、何やら話した後、馬車に荷物を乗せてもらっている私とお父様を指さした。


メリッサの声が少し離れたところから聞こえる。

「あの人は?」

メリッサは商会の人に私を指差して聞いた。


商会の人は怪訝な顔をして

「あちらの方の馬車の家紋はご覧になった事ありませんか?

どこの貴族様かご存知ないのですか?」


メリッサが黙っていると、商会の人は首を振ってため息をついた。

「あの家紋はこの国では有名なスワロー公爵様の家紋ですよ?

まさか、あなた方も貴族の端くれなら知らないなんてそんな不敬な事…!」


そして軽蔑した目で3人を見ると、

「我が商会の大切なお客様を指で指して、不敬な事を言うなんて…申し訳ありませんがお引き取りください」


と戸を閉められた。



私とお父様が帰るとしばらくして『元父』がスワロー公爵家に押しかけてきた。


外門のところでわめき散らす元父のところに、お父様は出向いて行った。

私はお父様にも、元父にも目隠しになる外門近くの生垣から様子を伺った。



「騙したなー!」

と暴れる元父。


「何の事ですか?」

と冷めた口調のお父様はなんだか別人のようだった。


「なぜ私たちがウィルソン伯爵家から出ていなねばならないんだ!それにあんたはリゲッティと名乗ったじゃないか!」

そこで、何かに気づくと元父は笑い出した。


「あんたはリゲッティと名乗った。嘘をついたから、この前の書類は無効だな!

そうだよ、あの家から出なくていいんだ!」


「一つ、オレイユはウィルソン家と縁を切り他人になる。

一つ、オレイユは今後サイモン・リゲッティの娘になる。

一つ、オレイユの持っていたウィルソン家に係る全ての権利はなくなる。

一つ、ウィルソン家の権利はオレイユ以外の正統な者に帰属することとなる。

一つ、オレイユの今後の権利はオレイユだけのものである。

一つ、サイモン・リゲッティの持つ全ての権利は今後オレイユに承継される。」


お父様はあの契約書を再度口に出した。


「サイモン・リゲッティの持つ全ての権利は今後オレイユに承継されるとは、

私の持つ権利や複数の名前、資産、全てがオレイユのものになるんだよ。

リゲッティは私が持つ複数の名前の一つだから、嘘なんてない。

そして、

オレイユの権利はオレイユだけのもの…

つまり縁を切った君たちは、例え私やオレイユが死んでも権利は主張できない。」


お父様は軽蔑したように冷たい、そして凄みのある声で言った。

「娘をいじめて大切にしなかったからじゃないのか?」


お父様が続けて何か言おうとしたら、誰かが馬で走ってきた。

それを見たお父様は

「高位貴族の屋敷しかないところで騒ぐから…」


と、馬に乗った警備隊がやってきて元父を押さえつけた。


「スワロー公爵様!お怪我は?」

警備隊が聞く。


「スワロー公爵家の敷地には入ってきてないから大丈夫。この通り、門の扉を閉めたままで、私は中にいたしね」

父は警備隊に微笑み、そしてまた元父を見ると


「ウィルソン伯爵家の貴金属や権利は、新しいウィルソン伯爵のものになるんだ。売ったり持ち出したりしたら、窃盗罪だからね」

と言って、とこちらにやってきた。


「オレイユ、盗み見はいけないよ。お嬢様のすることじゃない」

とフフフと楽しそうに笑った。



それから元家族の事はどうなったのか詳しくは知らないが、新しいウィルソン伯爵になったのは、会ったことのない叔母の息子のクリムト様だと聞いた。


クリムト様は、ラドン辺境伯の次男。叔母はクリムト様を産んですぐに亡くなったようだ。


これはタニーがウィルソン邸にいる庭師のジョンから聞いてきた話。


なんでもジョンの話によると、私のお母様が私を産んだのは18歳で結婚してから5年後だが、叔母様はラドン辺境伯に嫁いですぐにお二人の子供を産んで亡くなったから、クリムト様は、私と同じ歳だと聞いた。


もう終わった事に対して未練はないから、ふーんとだけ答えた。


私がスワロー公爵家の娘になって1ヶ月が経った頃、私のお披露目パーティーがあった。


私は、タニーとマアサにドレスを選んでもらい、綺麗に髪を結ってもらった。

1ヶ月、念入りに手入れされた私のミルクティ色の髪は艶々と輝いており、私のセルリアンブルーの瞳の色に合わせたドレスを着た私は別人のようだと思った。


私のお披露目に合わせて、お父様は白髪頭を染めた。

お父様は、今まで自分のことに無頓着だったが、私が来てから、気をつかうようになったとマアサが笑っていた。


白髪のお父様は初老の男性だったが、髪を染めると若々しくなった。

なんとお父様は45歳だったと聞いた!

そんなに外見に無頓着だったのか…


お披露目パーティーには沢山の貴族が招かれていた。


そこには、同じくらいの年齢の貴族の子供が沢山来ていた。


養女である事を揶揄されるかと心配していたが、亡くなったお母様のお友達が多く参加しており、皆、私をお祝いしてくれた。


参加した貴族の中には、亡くなった叔母の夫であるラドン辺境伯と、後継のリード様、ウィルソン伯爵家を継いだクリムト様もいて、初めて挨拶をした。


クリムト様の横にはなくなった母に似た女性がいた。


その人は祖母だと名乗った。


お父様は、祖母と私を別室に案内してくれた。


祖母はお礼を言うと、少しずつ話出した。


「次女であるジョアンがラドン辺境伯の元に嫁いで、リードと、クリムトと言う2人の男の子を産んだんだけどね。

クリムトを産んですぐに亡くなってしまったんだよ。」

祖母は目を伏せながら言った。


「私はラドン辺境伯のところに孫の様子を見に行ったら、辺境伯のところには育児のできるメイドがほとんどいなくてね。

辺境だから、乳母を探すのも一苦労で…。

私は辺境伯の所で、2人の孫の面倒を見ることにしたんだよ。」


少し沈黙の後、絞り出すように言った。


「ウィルソン家からの手紙がだんだんと少なくなってきていて、ここ数年は手紙を送っても返事がなかったが、なにせラドン領周辺がちょうど騒がしい時でね…。

おかしいとは思っていたのに…。

まさか、娘は亡くなり、孫のオレイユは虐待されていたなんて…。

なんでおかしいと思った時、見に行かなかったのか…」


祖母は泣きながら私を抱きしめた。


そして、父にお礼を言った。


ラドン辺境伯も従兄弟のリード様やクリムト様もいい人で、私の様子に気づかずにすまないと謝ってくれた。



このパーティーでは、沢山のご令嬢と挨拶をして、仲良くなれそうなお嬢様とお茶会の約束をした。


お披露目会の後から、沢山のお茶会の招待状が届き、マアサが招待状を選別した後、私は仲良く出来そうなお嬢様のお茶会を選んだ。


皆、いい方ばかりで、王立学園の入学までに何を勉強しておくか、とか、マナー講座のおさらいをしたりとか。


…自然と仲良くなるのは真面目なお嬢様ばかりで、1ヶ月もすると、マディソン様と言う侯爵家のお嬢様と、ケイトリン様という伯爵家のお嬢様と特に仲良くなった。


3人でお茶を飲みながら、詩の朗読会をしたり、小説の朗読会をしたりするのが今はすごく楽しい。


お茶会はいつも、シームズ侯爵家のマディソン様の屋敷の温室ですることが多かった。


ある日、3人で刺繍をしていた。

私は刺繍などしたことがなかったから、本当に下手で恥ずかしかったが、2人は笑わずに、一生懸命にコツを教えてくれた。


私は教えてもらったとおりに、刺繍をすると、さっきよりも綺麗にできて嬉しくなった。


すると

「うまくできてるじゃないか」


後ろから声がして、振り返ると、綺麗なシルバーブロンドの人が立っていた。碧の目は宝石のようで、綺麗な顔の男性だった。

マディソン様とお顔がそっくりで、すぐに兄妹だとわかる。



「グレア兄様!いつからいたの?

レディのお茶会を盗み見するなんて失礼よ!」


グレア様は、マディソン様の2番目のお兄様で私たち2歳上。


「おや?いつもこの時間は温室のバラ園のソファーで読書をするのが日課なのに…。」


マディソン様は、何かに気づいたらしく


「いつもって事は、お茶会の時はバラ園の中にいたのね!いつから見ていたの?」


「最初から」

グレア様は微笑んだ。

「最初からって?」

マディソン様はグレア様を睨んだ。

「2ヶ月くらい前から?」

と視線を逸らすグレア様。


マディソン様の視線の先には

薔薇の木の影になるようにして小さな椅子があった。


「あれはお母様が薔薇を眺めるために置いた椅子!!」

マディソン様はグレア様に文句を言うと、グレア様は温室から出て行った。


その日を境に、私たちのお茶会の日は呼んでもいないのにグレア様はお茶会にやってきて、私たちの様子を何も言わずに眺めていた。


初めは文句を言っていたマディソン様も、何回かするとグレア様を無視してお茶会を始めるようになった。


グレア様は、何も言わないけど、詩の朗読会の時は素敵な詩の本を何も言わずに机に置いてくれたり、学園の帰りにチョコレートを買ってきてお茶会にそっと出してくれたりした。


そして、ある日、スワロー公爵家に、マディソン様のお家、シームズ侯爵家からの使者がやってきた。


なんと、グレア様が私との婚約を希望しているという内容だった。

婚約のためならどんな条件でも飲むと。


父は使者に手紙を渡した。


『オレイユがグレア様を好きになったら初めて婚約を認める事。

婚約期間を含め、生涯、オレイユ以外の親族ではない女性とは2人きりになってはいけない事。

オレイユと婚約を希望した場合、結婚してもオレイユが持つ権利を一切主張しない事。

グレア様は結婚してもスワロー姓は名乗れない事』


など、かなり厳しい内容だった。


財産狙いなら、ここで諦める内容だが、グレア様はその条件を飲んで、

それからいつも手紙や花をくれる。

素敵な詩集があると綺麗な包装紙に包んで送られてくる。


父は、その熱意を温かい目で見てくれて


「オレイユが幸せになる人を選ぶのを私は見届けるよ。貴族の繋がりの結婚なんて絶対にさせない」


と言ってくれた。

そこで初めてらそういった内容の求婚やお見合いが沢山来ていた事を知った。


もうすぐ、入学式。

それが近づくにつれてグレア様のアプローチも激しくなってきた。


「焦っているね。入学したら沢山の男子生徒がいるからね。可愛いオレイユの事が心配なんだよ」

と父は笑っていた。


入学式の日はあっという間にやってきた。


その日、私はお父様と家族写真を撮った。



「オレイユに出会って、そして君が娘になってくれて本当に良かった。」


と、お父様は笑顔で、入学式の日に撮った写真を眺めた。

お父様の視線の先には、私がこの家に来てすぐの写真と、入学式で撮った写真が並んでいた。


「この写真の横にはいつかオレイユの結婚式の写真が並ぶのかな…。さて誰と?」

お父様はフフフと笑った。



それからしばらくして、私はグレア様と婚約した。



公爵様は婚約者候補に対して厳しい条件をつけてますが、それは新しい娘に対して財産目当てで求婚してくる貴族を排除するためです。


ちゃんと婿養子が入って欲しいですが、それを伏せています。


優しい公爵様の気持ちがオレイユにはちゃんと伝わってます。

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