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欠けているもの  作者: たき
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4

 【飯いく?】


 【今日はおにぎり持ってきたので、ここで食うのさ】


 【13時にロビーで待ってる】


 【おいこら。おにぎり持ってきたって言っただろう】


 【おにぎり持ってくればいいじゃん】


 ぐぬぅぅぅぅぅぅぅ。

 斜め前に見える髪がうっすら揺れている気がしないでもない。


 ぴこん。


 毎度のことながらご丁寧にスケジュールの招待メールだ。

 拒否っても無駄なことは経験済みだ。


 承認はするが、コメントという名の抗議文も入れておく。




 「今日は天ぷらにしようと思うんだが」


 「ほー。おにぎりだから気を使ってくれたのか。そういえば、天ぷらとは、その昔、連れて行かれた天ぷらを食べて蕁麻疹がでたことがあったんだが、あれは油のせいだったと思う」


 「本当におにぎり持って来たのか。で、そこはどういう感じの店だったんだ?」


 「大衆食堂っぽかった気がする」


 「いつ頃?」


 「大学生の頃」


 「誰と?」


 「院生の人」


 「男?女?」


 「男」


 「・・・」


 質問責めにしておいていきなりの放置。しかも目を眇めてこっちを見てやがる。当時は何も法に触れることはしてはいないはずだ。おそらく。

 空気が重いな。

 こちらから逆に質問をするべきだろうか。


 「ふーん。あのさ、その後から今まで、天ぷらとか油物は食べてない?」


 「いんや、食べてるよ直後から。あ、もしかしてアレルギーのこと気にしてくれてる? 蕁麻疹はね、あの時だけなんだよ。それ以降は出てない」


 「食ってるのか。普通、やめるだろう。下手したらアナフィロキシーだって」


 「ものは試しだ。試したところ、何も起きなかったから、あの店の何かと波長が合わなかっただけだと結論づけた」


 「そうか。お前は普通じゃなかったな。じゃ、行ってみるか」


 「こちらの許可も得ようとしているように聞こえるけど、そうじゃないよな。行くんだろ?」


 「いや、今回だけは聞いてみた。だけど大丈夫だろうとは判断した。何かあったら俺が責任とるし」


 「食べると決めたのは私だから責任云々はいらん。ただ、倒れた時には救急車に放り込んでくれればいい。あとは医者が何とかする。五橋は仕事に戻ってよし、以上だ」


 「何が以上だ。お前は俺のことを何だと思ってんだ。まぁいいや。これ以上お前と言葉遊びをしている暇はない。ランチの時間は意外と短いからな。行くぞ」


 正論だ。しかし、どこかで聞いたことがあるセリフだな。深堀はしないが。


 ちなみに、私の所属する拠点のビルを中心に、これまで全方位を制覇した。

 これは私にとっては快挙であり、果たして、これまで行ったお店にひとりでたどり着けるのかの自信はない。なんせ、1回しか行かないからな。こいつは。

 好みの味があってもう一回行きたいと言えれば連れて行ってくれるとは思うが、何かが、そう言わせないんだ。

 だからあとでひとりで来られるように店の名前くらいは覚えていようとは思う。

 食べている間はその店に対して興味はある。だが、仕事に入ってしまうと、悲しいかな、全くもって遥か彼方に追いやられてしまうんだ。



 後でわざわざネットで見たりすることはないが、そこそこのお店ばかりだろう。

 残念だがこれまで一度たりともお金を払ったことはない。

 そう、ただ飯だ。


 しかも毎回、個室。毎回というかほぼ毎日な。


 いつも帰りに会計をするのが普通だと思うんだが、、、私の認識が間違っていなければの話だが。


 ところがだ。

 この男は毎回会計を素通りするんだ。そんなルールは聞いたことがない。売買契約に違反しているんじゃなかろうかと心配になったりしたが、お店の方々も暖かく送り出してくださるので、食い逃げではないらしい。


 「今日こそは受け取ってもらうからな」


 小学生の頃のなんとかゴッコ遊びで、ジャングルジムの上からビシッと指をさして決め台詞を言う男子を思い出した。


 「いらねーよ。俺自身のためのものだからな。俺が俺の趣味や目的のために金を出しているだけだ」


 「趣味? そんな要素がどこにある」


 飯を食うことが趣味なのか?

 あの、超有名なゴローさんのように。


 だったら私という付録はいらないんじゃなかろうか。あ、そうか。一人でお店に入れない症候群だな。このかわいこちゃんめ。


 「くっ、、」


 「お前、また妙な妄想してやがるな。やめろ」


 「いやね、五橋がさ、女子と同じで一人で飯屋に入れないと思うとさ、かわいいじゃないかと思っただけだ。ああ、ちなみに私はどこでもお一人様大丈夫派だ。行かないだけで。

 ところでな、お前は社内でお友達はいないのか? ちょっと可哀想になるぞ。誘う相手が私だけってのは。それほどまでに選択肢がないのかと不憫になるじゃないか」


 「はぁ? っかじゃねぇの!? 興味のない奴は誘わないだけだ。誰でもいいわけじゃない」


 ほぉ。


 「やめろ。首をかしげるな」


 なんだとぅおぅ。自分でも気づいていない動作にケチをつけられた。


 「そういえば、さっきはロビーで(たか)られてたな」


 「だれが(たか)られてたって?」


 「五橋(おまえ)だ。なかなかなハーレムっぷりで、五橋は男だと言うことを思い出していた。感慨深い。あの勢いならお友達100人はあっという間に達成するな」


 「見てたのか。だから遅れたのか」


 「そうだ」


 エレベータを降りた直後に、いつも五橋のいる場所に大勢の女子が群がっているその中心に五橋がいるのに、コンマ1秒くらいで気づいていた。

 すかさず、観葉植物に隠れて様子を伺っていたんだ。あの女子らはなぜあそこに群がっているのか、たんに待ち合わせ場所がかぶっただけなのか、と。しばらく様子を見るまでもなく、数人の見た目バッチリ女子力高めな女子たちが五橋に次々と話しかけていたんだ。五橋を食事に誘っているらしいとな。


 「お前のせいで、肉食獣に食いつかれるところだったんだぞ」


 はて? 肉食獣とな?

 あそこにいたのは女子力の高そうな身綺麗な女子たちだったと思ったが。いたか? 獣が?


 「だからやめろ。小首を傾げるのも、上目遣いもやめろ」


 ひとの思考を邪魔しやがって。

 姑か、小姑か。


 「ちょっと思い出していただけじゃん。獣がいたかどうか」


 「あー、悪かったよ。とにかくだ、次からは5分前、いや10分前行動をしろ」


 「・・・・・・・えー、次もあるのかよ」


 今日は金曜日だからして、来週もってことだよな。

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