新規連載
こちらの小説を大幅改定しまして、『残念王子は悪役令嬢と結婚したいので、結末を変えさせていただきます!』として新連載を始めました。
今回はそちらの一ページ目の途中まで公開させていただきます。7話まで毎日公開しますので、ぜひ今後はそちらを読んでいただけますと幸いです。
公爵令嬢、サラ・アーガイルは10歳という年齢にしては大人びた少女だった。
幼少期から公爵家の令嬢として教育されてきた彼女は、他の令嬢と比べても頭一つ分は飛び抜けて「優秀」である。
そんな彼女は今日というこの日……王太子の婚約者を決めるための顔合わせで謁見することになっている。
家柄も素行も問題のないサラは、王太子である第一王子の一番の婚約者候補として名が上がっており、あとは当人たち次第…と、本日の顔合わせが組まれたためだ。
―――どうせ私には拒否権などないもの。
おそらく婚約者に決まるのだろうと思いながら両親の隣で完璧なカーテシーを披露したサラが顔を上げると、初めて間近で王太子と目が合った。
瞬間、電撃が走ったように感じる。ビリリ、と脳天から足の指先まで駆け抜けた衝撃に目を丸くすると、目の前には同じように目を丸くしている婚約者……になるかもしれない少年。
決して一目惚れをしたわけではない。前々から王族が表に出るときは拝見していたし、釣り書きの絵も見ている為、幼いながらも整った顔立ちだったのは知っているのだ。
それならばなぜこんな風に衝撃が走ったのかというと、幼少期よりもずっとずっと昔の……この世界とは別の世界で生きていた時のことを思い出したのだ。
そして恐らく彼も同じような顔をしているので、きっと似たような事を思い出したのだろうと推測する。
「…サラ・アーガイルと申します。国王陛下、王妃殿下、本日はこの様な場にお招きいただき誠に光栄に存じます」
私は動揺を隠しつつ、ドレスをついと摘んで会釈をすると、王太子殿下はそれを笑顔で受け止めた。
「グレイグ王国第一王子。レオナルド・ジュニータ・グレイグと申します。婚約者候補の方がこんなに可愛らしくて嬉しいです。父上、母上。ぜひ彼女の事を知りたいので、少し庭園を散歩して来ても良いですか?」
会釈をしたままチラッと盗み見ると、相手は真っ赤な瞳を細めてにこりと微笑む。絶世の美少年。
―――私は知っている。彼がこの先、私をこっぴどく振る存在であることを。
「あら、まあ。ふふ、それは良いわね。ふたりで少しお話していらっしゃい」
そう王妃様が告げるので、私とレオナルド殿下はふたりで王宮のサロンから庭園へと出る。少し歩いたところで、殿下がピタリと歩みを止めた。振り向くと、きれいに切り揃えられた黒髪がサラリと揺れる。
「ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど…」
「…何でしょう」
「君も?」
砕けた口調でそう問われ、私はやはり、と思う。やはり彼も先程、思い出したのだ。
「……キラメキ☆学園物語」
「エトワール学園で愛を紡ぐ……」
ボソリと呟けば、そのタイトルに次ぐサブタイが殿下の口から紡がれた。
『キラメキ☆学園物語〜エトワール学園で愛を紡ぐ〜』はいわゆる乙女ゲームで、聖女に選ばれた平民の女の子が学園に通いながら攻略キャラクターと恋愛をする。…まあ、ありきたりなゲームだ。
そして目の前にいるレオナルド王子はゲームのメイン攻略キャラクターで、パッケージの中央を飾っている。ちなみに好感度が低いとあまり相手をされないものの、好感度が上がってからの甘々ぶりのギャップに心を掴まれた乙女が多く、常にランキング一位をキープしていた。
そんなきらびやかな彼とは反対に、私はいわゆる悪役令嬢。彼女自身は王子にちょっかいを出す主人公に毒を吐くくらいだが、学園を牛耳る彼女に取り入ろうと取り巻きが彼女の教科書を破いたり、水をかけたり足を引っ掛けたりし、それを知った上で止めなかったことで王子ルートでは婚約破棄を言い渡され、良くて国外追放…となる。
「やはり…殿下も思い出されていたのですね」
私を見た時の反応でほぼ確証はあった。やはり彼もまた思い出したのだ。前世を。そして、この世界のことを。