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3章4 楽園という名の地獄

この回から3回分ほどセクシャル&ショッキングな回が続く予定です。

そういうのは読みたくないという方は飛ばすことをお勧めします。

なるべく穏やかな表現をするつもりですが、ご了承ください。

「分かりました。ありがとうございます」

 タチアナさんに返答して馭者のマルケスに声を掛けに行く。


「ちょっと呼ばれたので中に入るが、さっきみたいに泥濘を避けられない時には馬車を停めて声を掛けてくれ。『乾燥』を使うから」

「あいよ」

 その返答を受けてマルケスに『乾燥』を掛けてから入口に向かう。


 入口は進行方向左側だ。

 扉を開けて動き出した馬車の入口のステップに足を掛ける。


 馬車の中はそんなに広くは無いので防具の(たぐい)は外して倉庫に入れた。

 馬車の内部は前後2.4m程、左右1.6m程、高さ1.9m程とあまり大きくは無い。

 入口の反対側の壁の中央から入り口側に向かってテーブルが設置されており、サイズは0.5m×1.2m。

 その入口の反対の壁の上部にはランプが固定できるようになっている。

 馬車の前方と後方側はベンチになっており、そこに分かれて女性陣4人が座っている。

 因みに前方奥にタチアナさん、前方入り口側にフランが、後方奥にベルナリア、後方入り口側にテレーゼさんが座っている。


乾燥(ドライ)』『浄化(クレンズ)

 俺は服を乾かし、泥で汚れていた衣服と靴をキレイにして中に入ろうとする。

 俺が体を馬車の中に入れようとステップから持ち上げた時、フランが入り口側に体を寄せて中に入れという動きを見せた。

(えっ?そこ?)

 そういう疑問が浮かんだがいつまでも入り口に立っている訳にもいかず、後ろ手に扉を閉じながら開けてもらった場所に体を落ち着かせた。


 ベンチは男3人は並べないけど、タチアナさん、俺、フランなら余裕はないけど何とかという位だった。


「外は寒くありませんでしたか?」

 タチアナさんが紅茶をポットからカップへと注ぎながらそんな労りの言葉を掛けてくれる。

「服が濡れたままではやはり少し肌寒いですね。でも俺は『乾燥』を使えますので大丈夫ですよ」

 すぐ横から紅茶の入ったカップが差し出される。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 カップを手に持って先ずは鼻を近づけて立ち昇る薫りを楽しむ。

 馥郁(ふくいく)たる薫りが辺りを包んでいた。

「いい薫りですね。いただきます」

 そう言うと俺は琥珀色の液体を軽く口に含んだ。

「うっ!?」

「「「「えっ!?」」」」

「美味い!」

 お約束とはいえ、ベタ過ぎるだろうか?

 皆の緊張が解けた所で俺は……


「かはっ!?」

「「「「ええっ!?」」」」

「いい茶葉を使っていますね~。」

 呆れたような顔をする者、怒ったような顔を向ける者、無関心を装う者……

 四者四様もとい、三者三様の表情を浮かべる面々。

 悪かったよう。そんな顔をしないでおくれよう。


「……ねえユウキ、もっと魔法の事を教えて?」

 そう顔を体ごと乗り出すように近づけて声を掛けてきたのは勿論ベルナリアだ。

「魔法って一般魔法の事でいいのか?それとも他の魔法の事か?」

「両方!」

 あ~、目をキラキラさせちゃってもう。

 そう言えば他の人にはレベルアップという認識は無いんだったな。

「そうだな、一般魔法は誰が使っても同じという事は無い」

「?」

「例えば俺とフランが『水作成』を唱えたとする。結果は同じか?答えはNoだ。何が違うか分かるかい?」

 ベルナリアは静かに首を左右に振る。

「威力さ。『水作成』なら作られる水の量が違ってくるんだ」

 ベルナリアを初め、他の面々もへ~っって感じで聞いている。

「魔法の威力は色々な要素によって全然変わってくる。魔法強度((1+(知力×2+精神力)/300)/2)、習熟度(呪文レベル)、あと魔法強化系スキルの『オーバーブースト』、勇者スキルの『魔法マスタリー』のスキル補正なんてものもある」


 メ、メタい。俺は誰に説明をしているんだ。

 またサーナリアさんおこかもしれん。


「俺の『一般魔法』のスキルレベルは10、10レベルの『水作成』の基本水作成量は1,024L、知力は400、精神力は315、計算すると魔法強度は2.35833、つまり一度の詠唱で作成される水は約2,415Lになる。フランの場合は5レベルの基本作成量32L、知力86の精神力86、魔法強度が0.93、作成される水は約29.8Lとなる。『水作成』の基本作成量はレベル1で2L、レベル2で4L、レベル3で8Lと倍になっていく」


 何だこれ。まるで誰かが俺の口を使ってしゃべっているようだ。


「『水作成』が『一般魔法』レベルによって作成量が違う様に、『一般魔法』の他の効果も様々な量や距離、範囲などが変わる。それを超えない量、範囲で詠唱者の意によって調節できる。『着火』は持続時間、『微風』は風量、『浄化』『乾燥』『消臭』は範囲、『加熱』『冷却』はエネルギー量、『望遠』は倍率、『発光』は持続時間×全光束が変わってくる」


 ()が為の説明か?

 そんな疑問が浮かんだがもちろんそれに答える者無し。


「攻撃魔法も同じように計算される。攻撃魔法の種類とレベルによって基本攻撃力と消費MPが決まって、詠唱者の魔法強度と『オーバーブースト』と『魔法マスタリー』の補正によって最終の攻撃力が決まる。攻撃を受ける人の魔法防御力による補正値によって減少されて最終のダメージが決まる。はっ!?」

 右側からフランが右手を包み込むように握ってきた。

 途端に頭の中から何かが抜けていったような感覚があった。

「俺は何をしゃべらされていたんだ!?」

 右に居るフランと目が合ったが、

「とても難しい話していたようでした。半分も理解できませんでした」

 そう言葉が返ってきた。

 俺は背中に嫌な汗をドッと掻いていた。

 喉が渇いた。

 まだカップに半分以上残っていた紅茶を一気に呷った。

 それで一息つけると思っていた。

 俺はこの馬車の中が伏魔殿だという事にまだ気付いていなかった。


 俺の手の中で香り高い湯気を上げていた琥珀色の液体、俺はそれに守られていた事を知らされた。

 紅茶の香りがポットの小さな注ぎ口から漏れる微かな物に弱まると空間を別の香りが支配し始めた。

 例えようもなく甘く蠱惑的な女の匂い。

 今までにここまでの匂いを浴びたことは無かった。

 現代において日本人は体臭が弱いと言われていたし、大部分の女性は毎日風呂に入るのが当たり前だった。

 しかしこの世界、『浄化』の魔法はあってもお風呂を使う人は現代社会よりも遥かに少なく、石鹸、ボディーソープの類は言うに及ばず。

 結果、左右のタチアナ、フランも前面のテレーゼ、僅かにベルナリアでさえ女の香りを放っていた。

(しまった!!)

 気付いた時には既に遅し。

 最早若干の前傾姿勢を余儀なくされてしまっていた。

「どうかなさいましたか?」

 タチアナさんが話しかけてくるが最早状況は切迫しており、話しかけてくる耳をくすぐる息や先程まで何の興味も無かった二の腕の感触までが俺を追い込んでくる。

(何とかばれない内にアレをどうにかしなければ……)


 最悪の場合、ばれても仕方ないと……

 え~い、ままよ。

消臭(デオドライズ)

 なるべく他の人に聞かれない様にと祈りながら小声で唱えた。

「何かおっしゃいましたか?」

 周囲の女性の匂いが消え呼吸が楽になった。

「いえ、何でもありません」

 タチアナさんにはそう答えたが……

 ベルナリアとテレーゼにも聞こえなかったようだが……

 どうやらフランには気付かれたかもしれん。

 むっちゃ俺を見てくる。


 その時、馬車がゆっくりと停まり前の窓が軽く叩かれる音がした。

 マルケスに呼ばれているのは俺だろう。

「マルケスに呼ばれているようです。すみませんがマルケスにもお茶を入れていただけませんか?」

 タチアナさんにお願いすると、

「はい、お入れしますね」

 新しいカップを取り出すとポットからまだ温かい紅茶を入れてくれた。

「ありがとうございます」

 そうお礼を言って倉庫に入れベンチを立った。

 正直、まだアレがアレしていたけど、早く立ち去りたい一心で、でも他の人になるべく知られたくなくて、タチアナさん、ベルナリア、テレーゼに背を向ける姿勢で、という事はフランにはまともに眼前に突きつけるような体制でドア前に移動し、扉を開けて外に出た。


「……」


 馬車の前に出ると馬の前にはプールの様な水たまりが……

「こいつはひどいだろ?何とか出来るかい?」

 おっちゃんに紅茶の入ったカップを渡して、

「おっちゃん、俺やるよ。めっちゃやるよ。是非やらせてもらうよ」

 俺は馬車の前に出るといつもはやらない身振り手振りを加えて壮大に魔法を唱えた。

乾燥(ドライ)

 今度は身振りだけじゃなくて唱える呪文も詠唱するよ。おっちゃん、ありがとう。

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