2章15 ベルナリアの悩み
宿からスケルトンを回収して出発となった。
もちろん街中でスケルトンを展開するわけにはいかないので馬車は無防備なのだが、街中で襲われるような事はしていない。
街の西門から街の外に出る。
緩やかな丘を縫うようにして作られている街道を王都方面に向かって進んで行く。
途中で見つけた牧場で牛乳、チーズ、卵を手に入れるとこれで買い物は完了。
途中の街、エメロン、バリーモアを経由してあと18日の道中となる予定だ。
いつものように俺は馭者の隣の席に、女性4人はカーゴの中という配置で移動していた。
スケルトンは今、同時に支配できるのは36体になっている。
6×6の構成にして6体のチームに分け、6体の内訳を3体がノーマル、1体づつのアーチャー(弓矢)、ガーダー(大型両手盾)、グラディエーター(両手剣)の構成にしている。
移動中は4チームとガーダー2体で馬車を守らせ、5体の2チームを遊撃として周囲の警戒と狩りを行わせている。
テサーラを出て最初の日は襲撃も狩りの成果も何も無かった。
さすがに街の近くでモンスターが襲撃してくるようになったんじゃ世も末だわな。
野営中のスケルトンは俺以外の5人に1チームづつ護衛に付いている。
あとの1チームは馬に付けておいた。
俺は煉瓦で竈を組み、テントを2つ建てたら周りの様子を窺った。
マルケスは馬の世話をしていたので馬の前に桶を置いて水を出してあげた。
タチアナは夕食の料理を作るというので言われた材料と鍋と薪を出し、やはり樽に水を入れて出した。
「たーるっ」
アト〇エシリーズかよ!とは誰も突っ込んではくれない。
ちょっと寂しい。
ベルナリアとテレーゼとフランは一緒に行動している。
と言っても何をしているという事も無い。
今はタチアナが料理しているのを見ているだけだ。
お嬢様と護衛なんだからそれでいいのだが。
俺は薪の補充をしようと斧を持って適当な木を切り倒しに向かった。
野営地の傍の木を切り倒すのは忍びないので少し離れた所の木を選んで斧を打ち込み始めた。
どうやらベルナリアに野営地を離れようとするところを見られていたらしい。
斧を打ち込んでいた方向にある開けた場所にベルナリアと護衛1(テレーゼ)と2(フラン)、更にその護衛のスケルトンが18体が現れた。
多っ!
「そっち側に倒れる予定だから別の方向に居てくれ」
一応俺の言う事は聞き入れてくれるらしい。
「何か用があったのか?」
登場メンバーを見たら誰の行動かが丸わかり。
ベルナリアが来たがったのだろう。
「別に用という事はないけど……」
「暇だったのか?」
斧を打ち込んでいくと木の半ばあたりまで刃が達したので反対側に移動して斧を打ち込む。
「やる事無いし……」
「ここにも無いぞ?」
何回か斧を打ち込んでいると幹の切れ目からミシミシと音がし始める。
「倒れるぞ。一応気を付けてくれ」
最後に止めの一撃を加えると木は耐えかねたように倒れ始め、遂にズシンと音を立ててその身を地面に横たえた。
「話くらいはできるでしょう?」
「まぁ、できるっちゃぁできるな」
俺は横になった幹に斧を振り下ろしながら肯定した。
他の2人は何してるかと窺っても特に……だな。
周りに目を向けながらも耳はこっちって感じだな。
「ねぇ、ユウキはどうして冒険者やってるの?」
おっとぉ、そう来るか……
「冒険者にそれを聞いちゃうか?w」
フランの方に目を向けると軽く頷いた。
フランにも聞いちゃったのか……
「聞いちゃダメなの?」
幹を適当な長さで切っていくなら鋸の方が便利かもしれんな。
幹に斧を打ち下ろすのにも少し飽きてきた。
「う~ん、それは聞かない方が良いってやつだな」
「どうして?」
幹をいくつかに切った分と残りを倉庫に取り敢えず仕舞い込んで指で移動しようと合図をする。
俺の意図を汲んで移動し始めた皆を確認して、振り返りながら会話を続ける。
「冒険者なんて皆、色々な事情を抱えているからな」
「そうなの?」
野営地の傍の切り株の所に先程切った幹を置くと今度は幹の断面に斧を下ろし始める。
「そりゃそうさ。冒険者なんてやらなくて済むならそれに越したことは無い」
薪を割りながら答える。
「誰だって命がけでモンスターの前に立ちたいとは思わないだろう?真面な人間ならな」
「……」
ベルナリアは何かを考え込んでいる。
それが何かは分からないが。
「多少実入りが良いって言ったって命を落としたらそれまでなんだぜ?」
実際問題、俺は商人とかをすれば人並み以上の活躍はできる。
商人にとって倉庫と転移門だけで充分にチートだろう。
でも商人をするギフトポイントの使い方はしていない。
このキャラクターは戦う為のギフトを取得した。
引き籠りなりになりに戦う為に……
「まぁ俺が冒険者になったのは仕事もせずにブラブラしてたら親に放り出されたってだけなんだが……」
「えっ?!」
ベルナリアがぽか~んってしてる。
あ~、フランもだ。
「やりたい事とやる理由を同時に失った時に落ち込んじゃってね。なかなか立ち直れなかったんだよ」
薪を割りながら何んとはなしに話していたんだが余計なことを言ってしまったかな?
「俺は幸いネクロマンサーの才能が有ったみたいだし、仲間もできたからしばらくは冒険者を続けないとな」
ネクロマンサーならスケルトンを盾に逃げることもできるし、安全を確保しやすい。
それにあと8000年生きるとしたらお金はいくらあっても足りやしない。
……本当に俺、あと8000年もこの世界で生きるのか?
「ところでベルナリアは何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「……」
あらら、これは重症だ。
「今回の王都行きは学校の下見ですが、そもそもの学校行きは嫁ぎ先の選定と花嫁修業が目的と言われています。どちらかと言えば見初めてもらう為の」
テレーゼの話によるとそういう事らしい。
下級とはいえ貴族の娘、そんなものだろう。
どんな相手に見初められるか、それが一番の問題なのだが……
「まぁ、一度その列車に乗ると途中下車は難しいか……」
呟くように声が漏れた。
「13歳のハ〇ーワークか……」
「何か言いました?」
フランに聞かれてしまったらしい。
「別に何でも無いよ」
俺は何かを断ち切るように斧を振り下ろす。
カランと断ち切られた薪か左右で乾いた音を立てる。
「旅が終わって帰るまでまだ40日はある。君よりも選択肢も時間も残されているさ」
フランには両方あげられなかったからな。
我ながら酷い男だ。
竈の前でタチアナが手を振っている。
夕食ができたらしい。
すっかり任せてしまったな。
明日の朝からは手伝いを申し出た方がいいかもな。
割った薪に乾燥を掛けてから斧と一緒に収納した。
「さぁめしめし、タチアナさんの渾身のめしを堪能するぞ~っ!!」
俺はやや強引にフランとテレーゼの肩に腕を回し、竈の傍で手を振るタチアナさんの方に歩くことを促した。




