2章11 お嬢の荷造り
朝、浮かび上がるようにやってきた目覚め。
うん、今日も元気だ。
まず厨房に顔を出す。
パンは出来上がって直ぐが美味しい。
事情を話して持って行くパンを出来上がり次第、倉庫に入れていく。
ついでにバスケットも一つ借り受けよう。返せないかもしれないけど。
朝食前に軽く体を動かすかと庭にスペースを探すと同じ考えの人がいた。
「貴女も体を動かしに?」
テレーゼに声を掛ける。
既にテレーゼは軽く汗をかいていた。
「ええ、さぼるとすぐに体は動かなくなりますから」
右手にロングソード、左手にヒーターシールド。
スタンダードな騎士スタイル。
学んでいる流派も騎士団の制式の物だろう。
攻撃に無駄が無く素早いが、反面攻撃が単調で読み易い。
戦場で計算できる並みの騎士としての力はあるが何かが変わらないとこの上へは難しいだろう。
護衛は自分がやられたら護衛対象も終わりなのだ。
今でも弱いモンスターなら対処できるが、強いモンスターや一流の人間が相手となるといい様に弄ばれてしまうだろう。
う~ん、どうしようか?
取り敢えずちょっと早いがベルナリアと共にパーティに入れさせてもらおう。
「誰かに剣を習っていないのか?」
そう尋ねると、
「女の護衛は私一人ですから」と少し寂しそうな返答があった。
領主の護衛も居るだろうに……どういう事だ?
女性であることを理由に距離を置かれているという事だろうか?
それとも真面目過ぎて?美人過ぎて?
それは色々と勿体ない。
「手合わせをしてみるかい?」
その声が届いた途端テレーゼの顔が変わった。
凛とした表情、顔から甘さが消えた。
これほど真剣な顔が似合う人も珍しい。
こんな表情を向けられたら堪ったもんじゃない。
距離を置かれている理由が理解できたよ。
見惚れていたら命が危ない。普通の人は。
俺だって先程パーティに参入させなければ避けた方が良かったかもしれん。それくらいの物だ。
スキルは充分上回っているのでまともにやれば負けることは無いのだが。
テレーゼにフレンドリーファイアー防止機能について軽く説明して訓練に付き合うことにする。
防止機能には驚いていたようだが、試しにどうなるかやってみたら納得していないながらも理解はしてくれたようで安心して殴られてくれた。
防止機能はどうなっているのかは今一良く分からん。
一瞬霊体にでもなったかのように攻撃のみがすり抜けると言うか、不思議な状態になる。
体はまだしも装備や衣服もすり抜けるのはどうなっているのか、さっぱり分らん。
理解不能だ。
軽く1時間程、身体を動かして朝食の時間になる。
おせっかいかとも思ったがテレーゼと一緒に『乾燥』『浄化』『消臭』をする。
一緒に食堂に着いたらお嬢様とフランもご相伴に与っていた。
昨夜も感じた事だが、パンがうまい。
出来立てのほやほやでふっくらしている。
パンは出来立てだよな。
他にも朝食としては盛大な料理だったが、出発までの最後の食事だと思えばそんなものかという感想だ。
旅に出たら朝食でこんな料理は食べられまい。
昼前には出発になるとの事なので馬車の所で待機する。
俺たちは倉庫に入れてしまえばOKなんだが、お嬢様の荷物にてこずっているようだ。
いざとなったら倉庫に入れればとも思うが、それは止めておいた方がとも思う。
決まった量までに抑えると言うのは何においても必要になる事だろう。
俺が居れば、倉庫があればで楽を覚えてしまうと悪い影響が出てしまうだろう。
俺はいつものように馬にスケルトンを慣れさせるようにする。
別にスケルトンを馬に乗せる訳では無いが、いざという時にスケルトンで馬を曳かせる事はあるかもしれん。
スケルトンに手綱を曳いて馬を歩かせてみる。
最初馬が少し荒れた所を見せていたが次第に落ち着いてきた。
今回の馬車は2頭立てなので2頭を選ぶのに立ち会った。
2頭立てだと2頭のバランスが大切なんだ。
2頭の大きさ、スピードが合わないとまともに動かないという事も起こりえる。
出来れば牡馬2頭にしたかったんだが気性が激しいのしかいなかった。
モンスターに襲われた時の事を考えるとちょっとお薦めできそうにない。
気性の大人しい牝馬の中から何頭か候補を選び、スケルトンとの相性で2頭を決めたようだ。
そろそろ時間のはずだが……
今回の旅の随員は護衛テレーゼ、メイドタチアナ、馭者マルケス、俺、フランの5人とお嬢様ベルナリア。
人間と荷物が馬車の所に揃っていないのがお嬢とその荷物、メイド、護衛。
答えは簡単だな。
お嬢の部屋にノックして入る。
ほぼ予想通りの惨状だった。
「衣装を自分で決めたいとおっしゃられて……」
タチアナに状況を尋ねたらそんな答えが返ってきた。
ふむ。
「お嬢様、5分だ。5分で普段着一揃い、オシャレ着一揃い、夜着一揃いを決めてくれ。できなかったら俺達からお前さんへの浄化の魔法の支援は無くなると考えてくれ」
お嬢様の顔から血の気が引いた。
それだけ言って部屋を出た。
何か部屋の中から叫び声が聞こえた気がするが知らん。
それからキッチリ5分後、息を切らしたベルナリアが部屋を出てきた。
「おっ、やればできるじゃないか」
そう言うと俺をキッと睨んで、
「鬼、悪魔、人でなし!」
俺は軽く笑うと、
「もう出発予定時間は過ぎているんだ。出発しようぜ」
ベルナリアの荷物を掴むと馬車に向かって歩き出した。
「う~っ!」
何か唸ってますけど軽く無視。
お嬢様は荷物を積み込んでる間にお母上と抱き合って別れの挨拶をしている。
片道20日なので25日程度で帰ってこれるのでは無いでしょうか。
計算が合う様にノーラタンの街の外にゲートの出口を設定するのを忘れない様にしなくちゃ。




