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2章9 一夜の過ち?

 街を出てノーラタンに続く街道を2人はゆく。


 ノーラタンはグリンウェルに向かう街道を途中で南に曲がった所にある人口1万人ほどの小規模な街だ。

 そう言えば先日この辺りで金髪縦ロールとくっコロ女騎士と出会ったんだがアレがノーラタンの領主の娘って言ってたんじゃぁと今更ながらに気付く。

 依頼主はアレの親父か……。

 どんな親父なんだろう?

 一瞬頭の寂しい小さくて丸い生き物が見えた気がするが、うん幻だろう。

 あまりにも遺伝を無視し過ぎている。

 メンデルさんが怒っちゃうよ。 


 結局、今日は陽が沈むまで進んで少し開けた場所があったのでテントを設置して休む事にした。

 新しい仕事をすぐに受けてしまったので忙しない一日にしてしまった。

 フランには申し訳ない事をしてしまったのではないだろうか。

 スケルトンを2人の護衛と野営地の守備とに振り分けて、俺とフランにそれぞれ6体野営地を中心に残りを配置した。


 その日はそのまま人々の様々な想いを宵闇に包み込んだまま更けるものだと思われた。

 手早く夕食を作り明日に備えて早く休もうとお互いのテントに潜り込んで暫く、俺が疲れから横になってウトウトし始めた頃にそれは起こった。

『あ・る・じ・こ・う・げ・き・う・け・た。は・ん・げ・き・す・る?』


 俺は慌ててテントの出たがおかしい。

 テントの周りには攻撃を受けている様子が無かった。

 フランのテントを見るがこっちもやはり攻撃を受けている様子が無い。

 えっ?って言うかフランの護衛のスケルトンがテントの周りにいない。

 視界の隅に表示されているミニマップを確認すると、フランのマークが野営地から150m程離れた場所に表示されている。

「なっ、なんでや?」

 フランの表示の周りにはスケルトンを表すマークが6個、それを囲むように20程の数の敵を表す表示がある。

 かなり良くない状況のようだ。

『俺が駆け付けるまでフランを中心に守りに徹しろ』

 スケルトンにそう指示を出してフランに念話で、

『今すぐ行くからそこから動かずに!』

 どこかで聞いたことがある歌のようなセリフを言って駆け出した。

 フランが居るのは街道から離れる方向。

 緩やかな下り斜面を転がるように駆けると直ぐに木々の間から魔法で作り出した明かりに照らされて小川の煌きの中に白い影が見え隠れしていた。

 小川の(へり)にたどり着いた時には2m程下の水面に太腿付近まで水に漬かりながら20体程のゴブリンに囲まれているフランとスケルトンズが……フランの体の何ヶ所かからは血が滲んで体を赤く染めていた。

 フランの向こう側からは今にも襲い掛からんと錆び付いたショートソードを振り上げて跳びかかるゴブリンが……

 俺は2m程高い所にいるという地の利を生かしてその場からの跳び蹴りを敢行、ゴブリンの顔を蹴り飛ばしフランを守る事には成功しつつも水の中の石にバランスを失いそのまま後ろ向きに倒れこんだ。

(髪の毛が茶色だと下も……)

……何か色々見えちゃいけない物を見てしまったような気がするが今はそんな場合ではない。

 緊急避難的状況であることを盾に無実を主張することを脳内で閣議決定して、目の前の状況をまず何とかするべきだと理性的判断をする俺に逆らう俺の体……

 俺の護衛のスケルトンが2mの崖を下りてきて12体になったのでスケルトンを順次攻撃表示に変更。

 更にスケルトン2体を生贄に青い目の俺を召喚。

 俺の理性をバーストストリーム……


 俺が正気に戻ったらゴブリンはスケルトンで倒してました。

 俺が錯乱していた時間はほんの瞬間だったようだ。

 というか俺は錯乱している場合じゃ無い。

 俺はフランに回復(ヒール)を掛けて傷を治すと感極まってフランを抱きしめて、

「良かった!無事で良かった!」

 とやってしまってから気が付いて凍った。

 不適切な行動だったと思った時には既に遅し。

 俺は就寝中だったので薄着なのはまだしも、目の前のフランは()である。

 先程まで水に漬かっていたのを主張するように背中に髪の毛が張り付いている。

 そして俺の腹の上部には『ふにょん』がある。

 それが何であるかは言及する必要を認めないので割愛するがコメントとして、

「それはいいものだ!」とだけ言わせていただこう。


 幸いフランも凍結していたようで充分に堪能する時間をいただけたようだが、アディショナルタイムはここまでのようだ。

 再起動はフランの方が早かった。

「あっ、あの~」

 口に出した言葉はそうなのだがたぶん言いたい事は、

『これはどういう状態で、いつまでこの状態なのか?』という事だろう。

 俺は残念そうな顔を張り付けたままフランを抱き上げ、『乾燥(ドライ)』『浄化(クレンズ)』2つの魔法を紡ぎ彼女を衣服のところまで運んで背を向けた。

 この場にいる12体のスケルトンを護衛に残し、21体のゴブリンの死体を回収し野営地に戻った。


 ゴブリンに囲まれるなんてフランも怖い思いをしただろう。

 ゴブリンはこの世界でも女性の敵だ。

 この世界のゴブリンは所謂エロゲー仕様という奴では無い。

 ある意味もっと残酷である意味では優しい。

 生まれてくるゴブリンは全て雄だ。

 では生きているゴブリンの雌はどうやって存在しているのか?

 人間やエルフ等の亜人間の女性をゴブリンの雌に変えてしまう薬があるらしい。

 その薬を飲んでしまうと一週間ほどで身も心もゴブリンの雌になってしまうと言う。

 ただゴブリンの巣窟を攻撃して探索しても原料らしいものも作成済みの薬も見つかっていない。

 そのため未だに謎に包まれていると言う。

 助け出された女性の話はたくさん残されている。

 色々な表現がされているが大体の話は共通している。


・その薬は飲み薬のようだった。

・初めの内は鼻が曲がるような臭気を放っていたが、時間が経つにつれ段々甘い美味しそうな香りに変わっていく。

・のどの渇きと共にその薬が危険なものだと言う思いが薄れていってしまう。


 正に魔薬だ。

 一度ゴブリンの雌になってしまうと、もう元の人間や亜人間に戻る方法は無い。

 ゴブリンになりきる前ならエリクサーで治るらしいのだが、エリクサーを作れる人間は数が限られている。

 今、エタナリア王国でエリクサーを作れるのは3人しかいない。

 材料にも貴重な物が使われていてエリクサーは希少で値が張る。

 つまり全ての平民、殆どの貴族の女性にとっても一度その薬を飲んでしまったら助からないのだ。

 完全にゴブリンに変わてしまう前に死なせてやるのがせめてもの慈悲と言われる所以だ。


 この辺りにもゴブリンが繁殖してしまっていると厄介だ。

 早い内に手を打った方がいいのではないだろうか。


 そんなことを考えているとフランもテントに戻ったようだ。

 明日フランに少し注意を促しておいた方がいいだろう。

 明日に備えて今日は早く寝るつもりだったのだが跳んだ目に遭ったもんだ。

 ひゃっほう!

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