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2章8 王都への旅立ち

 次の日、やや寝不足の者もいたが大した問題では無かった。


 そのままテサーラへの商隊は4日後の午前に到着し、エルガライズ商会からは依頼の完了の承認をもらった。

 ハンスに別れを告げてフランとギルドに向かった。

 クエストの報酬を受け取ってフランに分け前を渡す。

 フランにパーティ資金からの持ち出しを返却してもらってもフランのお金が22,980G残った。

「そんなに急いで返さなくてもいいんだよ?」

「何となく落ち着かなくって……」

 その気持ちも分かるので素直に返してもらった。


「次にやりたいクエストとかあるかい?」

 クエストの貼り出されたボードを見ながら訪ねたが、返ってきたのは少し内に籠ったような返答だった。

「今はできることを少しづつでも増やさないと……」

 フランも俺と同じだった。

 俺と同じで全てを失ったんだった。

 家族同然に暮らしていた人も、住む家も、仕事も全部捨てて逃げることしかできなかったと慟哭したのはつい先日の事だ。


 俺はあっちの世界でどれ程親父に守られていたんだろうかと思い知った。

 俺が立ち直るのにどれだけの時間が掛かったか。

 その間、俺は守られていただけだった。


 次は俺が守る番だろう。

 そうするべきだと思った。

 そうしたいんだと言える程には、まだ男になれてはいなかった。


 そう言えば思い出した。

 ここのギルドでやっておく事があった。

 あ~、一応ギルド長に話しておく方がいいか。

「エマーリアさんはっと……受付業務中か。(チッ仕方が無いか)パシリアさん、ギルド長はいますか?ちょっと話が……」

「どんな話でしょうか?」

 そりゃそうだ。何の話かしなきゃ判断もできないよな。

「それじゃあちょっと目立たない場所へ来ていただけますか?」

 パシリアさんちょっと怯えたような目で、

「私に変な事するつもりじゃないでしょうね?」

 えっ、何言い出すんだこの人。

「さっきの目、得物を狙う狩人の目をしてたわ」

 うわっ、めんどくせぇ。

 あっ、エマーリアさんも手が空いたみたいだ。

「エマーリアさんも一緒でいいですから。こっちにはフランも居ますし」

「でも貴方スケルトンを何十体も使うんでしょ。3人ぐらいの人間の雌なんてどうとでもできるじゃない」

 この人は俺を性犯罪者だとでも思っているんだろうか?

 まだ何もやっていないと言うのに。

「でも見ていただくのが一番だと思うのですが?」

「私に何を見せつけようと……はっ、まさかそのローブの下の物を……?」

 この人は……

「そうはいかないわよ。その手には乗らあいたっ!」

 いつの間にかパシリアさんの後ろにギルド長その人が立っていた。

 パシリアさんにチョップをかました格好で。

「お前はこのギルドを性犯罪者の伏魔殿だとでも思っているのか?」

 助かった。そろそろフランからの視線が痛かったんだ。


「で、どうしたんだ?」

「狩った獲物を見ていただこうと……」

 ギルド長は何かを察したのか、

「もしかしてまたか?」

 そう言って奥の方をクイッと指と顎で指し示すと自分も歩き出した。

 俺とフランはそれに付いていった。


 搬入口の脇で立ち止まるとギルド長は地面を指し示した。

 俺はそこで失敗に気付いた。

 こんな所で出したら倉庫がばれちゃう。

 でももはや遅い。

 ええい、ままよ。

 再び登場となったままよに全てを任せることにした。

 ダミーのリュックを下ろして逆さまにするとそこに猿王の死体を投下した。

「……」

 沈黙が痛ぇ。

「おい、今何をした?」

 やはり倉庫から取り出したものよりも倉庫そのものの方に注意が行くか。

「ん?マジックバッグの事か?」

「マジックバッグ?それがか?」

「ああ、そう言う事にしといてくれ」

 ギルド長のグリシェルドがじーっと見つめてくる。

「よせやい、そんなに見つめるなよ。照れるじゃないか」

 俺はギルド長に笑って見せる。

 もちろん照れ笑いではない。

 余裕たっぷりに笑って見せる。

 意味するのはこれくらいで驚くなよといった処だろうか。

「ちっ、食えないやつだな」

 一つ大きく息を吐きだすと気持ちを切り替えたのか取り出した物の方に興味を移してくれたようだ。

「これは……またやったのか?」

「襲い掛かられたらどうしようも無いだろう?」

 グリシェルドはやれやれと言った感じで、

「ぽっと出の新人にどうにかできるような奴では無いはずなんだがな」

 しゃがんだ状態からジトッと覗き込むように見上げてくる。

「猿王ボリバル……間違い無さそうだ」

「ボリバル……そんな名前を言っていたような……」

 グリシェルドは少し奇妙な事を言うといった顔をして、

「ボリバルは人間の言葉をしゃべれたはずだぞ?」

「こっちに悠長に聞いている余裕が無かったんだ」

 グリシェルドは微妙に納得していない風ではあったが、手続きとしてのクエストの取り下げと完了の作業を行ってくれた。

 これで俺とパーティのランクがDになった。

 ついでにフランのランクもEにしてもらった。

 これでクエストがCランクまで受けられるようになった。

 ボリバル討伐の報酬として150万Gを受け取った。


 早速その足でCランクの依頼ボードを覗いて何かおいしい依頼は無いかと眺めているとフランが話しかけてきた。

「暫くこの街に留まりますか?それとも他の街へ移りますか?」

「う~ん、考えて無かったな」

 この世界に来て正直に言って特に目標も決めて無かった。

 今だって特にやらないといけない事も無い。

「それなら色々な所に行きましょう。ゲートを最大限使って活動できるようにするべきです」

 なるほどという良い意見だ。

 いざという時の為にいろんな場所に行けるように色々な所にゲートを設置しておくことは後々の為になるだろう。

「その意見採用!」

 色々な場所に行く為に受ける依頼は、商隊等の護衛や届け物、仕入れや納入等の商業的活動が多いがそればかりではない。


「これなんかどうだ?王都エタナリアへの護衛任務」

 フランはCランクボードを見廻していたが、俺の指し示した依頼表に目を向けると、

「護衛対象は馬車1台とその人員4人。期間はノーラタンからエタナリアまで約20日」

「結構期間が長くなるな」

「だからこそゲートのメリットが大きくなるんですよ」

 実際、ここテサーラから王都エタナリアまで400kmを超える距離がある。

 途中の補給、馬や人の休憩を考えるとそれくらいの時間は掛かるのだろう。

 報酬も結構な金額が設定されている。

「報酬、金20万G。貢献ポイント40pt。こちらも充分ですね」

 フランと顔を見合わせるとお互いに頷いて意見の統一を確認した。


 他に同時にこなせる依頼があるかと見てみると冒険者ギルドの書類の運搬が王都の冒険者ギルド宛てであった。ギルド長に渡せばいいそうだ。

 こっちは5万Gで貢献ポイント15ptだった。

「まぁお前らならいいだろう。頼んだぞ」


 その2つの依頼の受注の手続きを行って冒険者ギルドの建物を出た。

 ちょっと食料の備蓄を買い足して昼食を買い食いしたらやることが無くなった。

 このまま出発してしまえば明日の夜にはノーラタンの依頼主、領主の屋敷に着くだろう。

「このまま出発でもいいか?」

 フランもそれで特に問題ないとの事だった。

 新たなクエストの旅に出発。

 テサーラの東の街門から街道を東に向かった。

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