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1章20 旅路5~6日目

 朝、周囲の明るみに動かされて目を覚ます。

 目の周りに違和感が……

(俺は泣いたのか?……未練だな)

 異世界に来てしまった俺には最早どうすることもできない。

 俺には異世界に来なかったらという世界への未来は閉ざされたのだ。

 美樹の幸せを祈る。それしかできない。


「ふぅ」

 軽い溜息一つで再起動を図る。

浄化(クレンズ)

 様々なものを振り払いギアを活動に入れる。


 みんなの為に水を作成して自分も遠慮せずに使う。

 誰か気付いただろうか?

 俺の行動が憂鬱を祓うために大胆に大雑把になっているだけなんだ。


 手早く朝食を済ませると出発した。


 出発から2時間程進んだ頃、前方右側の森に続く灌木の上からひょっこりと犬のような頭が覗いていた。

 犬か獣人か?と思ったが鑑定するとコボルトというモンスターだった。

 コボルトといえばゴブリンと並ぶ雑魚。

 人気はゴブリンより無いがな。

 ほら、エロゲー仕様とか無いから。


 この世界のゴブリンは微妙にエロゲー仕様では無いのですが……


 コボルト2体はスケルトンアーチャー4体の攻撃を受けてすぐに退場していただきました。

 2体の他には見つからなかったのだが、偵察だろうか?

 今回は護衛任務なので何もできないが、森の中で増殖していたりするんだろうか?


 死体は生贄用に回収されました。


 5日目はそれ以上特別なことは何も起こらなかった。


 明けて6日目。

 今日が最終日となる予定だ。

 皆の顔も何とか無事に到着できそうだとあって、笑顔が見え隠れしている。

 ここ以降で襲撃されることはまず無いだろう。

 街が近いからね。


 予想通りに昼を少し廻った頃に街の姿が丘の合間から見えると皆の間から安堵の吐息が漏れた。

 街から少し離れた場所に『転移門(ゲート)』の出口を設定する。

 これでいつでもテサーラの街と領都グリンウェルを行き来できる。

 両方とも街の外に設定している。

 入街税の関係で記録を残さないといけないことがあるかもと考えたからだ。


 領都グリンウェルは人口約4万5千、辺境伯領の中で1番、王国の中でも5番目に人口の多い都市である。

 意外に人口が少ないとお思いだろうか?

 都市の人口はその都市に運び込まれる食料の量によって決まる。

 ファンタジー世界ではあるが、輸送に特別な魔法も生物も使われていない。

 荷馬車と船での輸送なのでこんなものなのである。

 ましてやグリンウェルは内陸にある都市なので船の影響はほとんど無い。

 この世界で都市の人口が爆発的に増えるには道路整備と輸送手段の発展を待たなくてはならないようだ。


 グリンウェルの西門から都市に入る。

 その前にスケルトンを時空間倉庫に仕舞う。

 スケルトンが少し寂しそうなふいんき(←なぜか変換できない)をしてた。

 少し並ぶ必要があったが今回は問題なく都市壁内部に入れた。


 領都グリンウェルは東側に魔人領があるために都市の東側に軍事部門が集まっている。

 防御もその分強固で外壁の高さも12m程ある。

 西門と北門が物流の中心になるからか商会や倉庫等が林立している。

 エルガライズ商会も西門の近くに店と商会を構えている。


 馬車がエルガライズ商会の中に吸い込まれていく。

 停まった馬車に人足が群がって積荷が下ろされていく。

 髭を生やした番頭?と同行した商人が紙の束を見ながら話をしている。

 傍から見るに報告をしているのだろう。


「護衛の冒険者の方ですね。報告を受けたのですがかなり強力なモンスターの襲撃を受けたとか。良くぞ商品も人員も全て無事に届けていただきました。ありがとうございました」

 番頭?はよく通るバリトンでそう言うと羊皮紙の報告書と共に付け加えてきた。

「これが報告書です。帰りの積荷が揃うのが5日後の予定ですが、そちらの護衛を受けていただけるようでしたら指名で依頼させていただきますが」

 う〜ん、どうしようか。

 悪くないが、明日冒険者ギルドに行って他の依頼を見てから決めたいというのが本音だ。

 このまま活動拠点をグリンウェルに移すという事も選択肢に入れたい。

 答えを出すには情報が不足している。

「返事は明日の夕方でも構いませんか?ちょっと検討したいこともありますので」

「分かりました。できれば信頼できる方に受けていただきたいので検討をお願いします」


 エルガライズ商会から報告書を受け取りその足で冒険者ギルドに向かう。

 このグリンウェルも冒険者ギルドは街の中央広場にあるとの事なので西門からまっすぐ東に延びる大通りを歩く。

 人通りも多くあまり周囲を見回していたら他の人にぶつかりそうだ。

 人にぶつからなくてもスリとかいそうで少し警戒しながら歩く。


(おぉ、エルフさんだ)

 ある十字路に差し掛かった時に遂に第一エルフに遭遇する。

 自分がハーフエルフなのでいることは分かっていたのだが、実際に居るのを見ると何か感慨深いものがある。

 遭遇といってもエルフの女性はこっちを向いていないので気付かなかったようだが。

 実はグリンウェルの北東の方向にはハイエルフの国、ローラリアがある。

 なのでこのグリンウェルでエルフの姿を見かけることは珍しい事では無い。

 ただハイエルフは1800年程前の魔王軍との戦いで若い男性の多くを失った。

 戦場に出たハイエルフの実に8割近くが犠牲になったと言われている。

 ハイエルフはその戦禍による人的被害から1800年以上経っても立ち直れてはいない。

 それはハイエルフの風習、習慣による影響が大きい。

 どうもハイエルフの男性は性にあまり積極的ではないと言うのだ。

 現在のローラリアは一夫多妻を認めているのだが、戦いの後しばらく経って王になったハイエルフの男が自ら複数の女性を娶ったが、伝統的に一夫一妻の風習が根強く人が増えないとの事だ。

 先程通ったエルフもハイエルフだろうか?

 横顔だけしか見えなかったが美しく整った顔立ちをしていた。


 そんなことが有ったりしながら歩いていると街の中央に出た。

 ここも広場になっていて市の露店が並んでいた。

 一先ず用事を先に片付けるかと冒険者ギルドに入っていく。

 入っていくと複数の人の視線を感じる。

 と言っても剣呑な物という訳でもない。

 ラノベでは主人公が冒険者ギルドで絡まれるのが定番だが、俺に関して言えばそれは無い。

 俺がハーフとは言えエルフだからだろう。

 エルフは見かけで年齢が分かりにくい。

 若者に見えて数百年、数千年生きていても可笑しくは無いのだ。

 当然長く生きていたらその分普通は強くなっていくものだろう。普通は。


 俺も1865歳という事になっているが実際はまだ駆け出しのペーペーなので弱い方なのだろう。

 チートがあるとはいえまだ冒険者になって10日も経っていないのだから。


 受付のカウンターに立つ女性に声を掛ける。

 報告書とタグを提出してクエストが完了したことを告げる。

 報告書を確認した女性は報酬の24000Gとタグを返却する。

 タグには貢献ポイントが5になっていた。

 ランクがEに上がった時にポイントはリセットされて0になったので改めて貯めなければいけない。


 さてと、どんな依頼があるのかクエストのボードを見に行く。

 Eランクで受けられるのはランクEとDの依頼だ。

 Eランクの依頼では残っているのは採集がほとんど。

 Dランクになると採集もあるが、討伐も増えてくる。

 だがDという低ランクで出る討伐依頼はゴブリン、コボルトと言ったところが多い。

 そのあたりのモンスターなら倒した後に依頼を受ければ大丈夫になっている。

 場所限定の殲滅クエストなどは難易度Cランクからになる。

 依頼票を見て分かった事、グリンウェルに来る途中でコボルトが2体出てきた付近の森の中でコボルトの増殖が顕著になってきているようだ。

 排除しておきたいのだろう。討伐クエストの報酬にいい値段が設定されている。

 しかしこのクエスト、失敗したパーティが2組出たというマークが付けられていた。

 その為クエストはBランクに難度を格上げされてしまっていた。


 その他、受けたい依頼も無かったので依頼を受けるのは明日にして、その場では宿のお薦めを聞いて退散した。


 受付の女性に薦められた宿は冒険者ギルドをでて徒歩で8分という街の中央広場に近いところにあった。

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