二十話 契約成立
「どうしたの? そんなに驚いて?」
意味が分からない。いや、意味など分からなくてもいい。
要するに、つまりは、アラムはオカシイ中のオカシイ存在なのだ。それだけが十分に分かった。
私が異常すぎる考えを持っていて、それが相手の常識の範疇に入っているのは正直言って背筋が凍る。
「なんでもない」
私はなるべく、アラムに感情移入しないように心掛けてはいた。じゃないと私が壊れる。
「そう。なら、そろそろ契約内容を説明してもいい?」
「……うん」
兎にも角にも先にこの契約内容を聞くことが大切だった。
「契約内容はけっこうシンプルよ。まず一つ。私が君に疑似的に憑りつく。といっても支配とかするわけでもなくて、それが私のチカラを与える結果になるんだけど」
「……憑りつかれると、私はどうなるんですか?」
そこは、絶対に訊かなければいけない。
「? どうもならないわよ。私のチカラを渡すから、君はチカラを得るということよ。憑かれるのは、チカラに憑かれるって意味よ」
……、王道的に考えてしまうと、漫画やアニメのように考えてしまえば、チカラに憑かれた私はチカラに支配されて仲間を傷つける。そんな、現実ではばかげたことを考えてしまう。だけど、いや、だからこそ確認はしなくてはいけない。
「チカラに支配される、その可能性は?」
「チカラに支配される? そんなことはあり得ないよ。だって使役者は君よ。使役者が支配されることはないでしょ?」
そうか、……そうか?
だんだんと、彼女と話していくと思考さえおかしくなってきた。……いや、もしも心を読まれて、アラムの不利な記憶を消去するのなら、私の思考が乱れているのは十二分にあり得る。
「…………」
でも、だけど、今現在アラムに不利な記憶があるはずなのに消されていない。それが、彼女をいくらか信用してもいいという考えになるのだろうか? ……まあ、多少はそうなるはずだ。
「分かったかしら?」
「…………ええ」
少し悩んだ末、私はそう答えた。
「次に。私は君にチカラ以外にも……いや、厳密には同様にチカラではあるけど、チカラの方向性--ベクトルが違う。なぜならと、そう問われれば簡単、君が今とても欲しがっている"成長性"を与えるからよ」
「……成長性?」
成長性。一体全体何に成長を与え続けようとしているのだろう?
「そうだ。そして君が今望んでいるのは勉強の成長性。違うかな?」
……。確かに、確かにそうだ。私はこのままでは目標の大学に行くことはできない。このままでは駄目だと痛感している。
……だけど、この幽霊が果たしてソレをもたらすことが可能なのか?
「……アラムはその成長性を私に与えることができるの?」
「もちろん」
「それはアラムのチカラから派生したのもの? それとも能力?」
「……聞き返して申し訳ないんだけど、チカラと能力、この二つに明確な違いはあると思う?」
……、チカラと能力。
確かに。
チカラと能力に明確な区別は確かにあるのか? その問いに私は答えることができない。
虐めることはチカラを持っていることであり、虐めることのできる能力。
人を殺すことはチカラを持っているからで、人を殺すことを可能とする能力--シリアルキラーでもなんでも、とにかくそういう能力があればできる。
能力とチカラ関係は等しい。そうかもしれない。
それはどうでもいいことかもしれなかったけど、少なくとも今は違う。
チカラは能力で、それがいきなり身につくのは先天性以外はあり得ない。その例外が今、目の前にある。
「どうかな? 契約を結ぶ気にはなった?」
「……本当に、それ以外に契約内容はないの?」
「もちろん。誓うよ」
たとえその言葉が嘘だとしても、私は本当にその契約をするべきだろうか? 分からない。知らない。でも、たとえそうだとしても彼女に従うことが大事……か?
何か、思考が乱されているような気がするけど、間違ってはいない。いないと願いたい。だから、
「じゃあ……契約する」
「本当にいいの?」
「うん」
「ありがとう。君のお陰でいろんなことが捗りそうだ。感謝しかない」
「…………」
「契約の儀式……と言えばいいのかな? 私の思念体をいくらか渡す。だから驚かないでほしいと先に断っておくけどいいかしら?」
まだ、断れるかもしれない。まだ、彼女との契約を無しにできるのかもしれない。でも、私はこれに頼るしかないんだ。
「……いいよ」
そのあと、この空間における私の意識はなくなった。
*また……犠牲者が出てしまうのじゃろうか?*
まだ見えぬ、ここにいない誰かはそう呟いた。




